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 昭和42年版 犯罪白書 第二編/第三章/三/2 

2 保護観察の方法に関する問題点

(一) 保護観察官と保護司の連絡提携

 保護観察は,通常,保護観察官を主任官とし,保護司を担当者として実施されている。その場合,主任官は,保護観察所長の指揮監督のもとに,保護観察の実際上の責任者となっているが,多くの場合,対象者の具体的な処遇は,保護観察所長より,担当者として指名を受けた保護司が,ほとんど自主的に,これにあたり,その結果は,毎月一回以上,保護観察成績報告書を提出して報告することになっている。この場合の保護司の立場は,犯罪者予防更生法により,保護観察の実施機関として,対象者の指導監督および補導援護を行なうことができることになっている。
 保護観察官(主任官)と保護司(担当者)の間には,積極的,具体的,かつ緊密な連絡提携が必要で,この点については,両者においてかなりの努力がなされている現状であるが,保護観察の,よりいっそうの向上を図るためには,主任官から担当者に対して指示する処遇方針のいっそうの具体化,担当者の提出する成績報告書の記載の充実と提出の励行等,検討を要する部面が残されている。
 なお,両者の連絡提携においては,専従の公務員である保護観察官の専門性とボランティアとしての保護司の民間性と地縁的特性等の持ち味が,それぞれ発揮されることが望ましいが,たとえば,指導監督的な面は,保護観察官が主として担当し,保護司は,主として補導援護的な面に関与するというような,単純な役割分担の仕方は,必ずしも,実際に則したものとは思われない。両者の連絡提携の具体的な在り方については,今後,さらに研究を要する重要な問題で,にわかに結論を得ることは困難ではないかと思われるが,大都市における,とくに団地等における居住形態の中での保護観察や心理的にきわめて不安定な対象者に対する処遇等については,いよいよ専門的な保護観察官の活動にまたねばならぬ面が多く,また,農漁村のごとき,住民の定着性の強い地域の対象者の場合は,匿名性の強都市地域とは異なり,ボランティアである保護司の特性を十分に活用すること等について考慮を払う必要があると思われ,それぞれのケースに応じて,適切な方法がとられるよう,配慮の必要がある。

(二) 保護観察官・保護司と対象者の接触

 保護観察は,保護観察官または保護司が,それぞれ,対象者と直接面接し,あるいは,電話,郵便等の方法で連絡を取るなどにより,これと接触し,必要な指導監督と補導援護を行なうもので,保護観察の成果は,この接触がいかに効果的に行なわれるかにかかっている。
 主任官としての保護観察官と対象者との接触は,保護観察開始当初における対象者が出頭した際の面接,随時,保護観察所,駐在官事務所および定期駐在の場所等に対象者を呼び出して行なう面接,および本人の住居等を往訪して行なう面接,その他通信等によっている。また,担当者としての保護司と対象者の接触は,相互に往訪して行なう面接および相互の通信等を主としている。保護観察官と対象者の接触のうち,保護観察開始当初における面接は,対象者の出頭率が,近年徐々に向上し,昭和四〇年の新受人員で,九四・七%を示し,また,対象者一人についての面接の平均所要時間は,四七分という状況(昭和四一年六月,法務省保護局の調査による。)である。しかし,その実施過程における面接状況は,あとに述べるとおりで(「保護観察官の処遇活動と担当事務量等」の項参照),とくに問題のある対象者のみに対して行なわれており,さらに,保護観察官の増員等によって,その充実を要する状況である。保護司と対象者の面接等による接触の状況を,法務省保護局の調査によってみると,昭和四〇年一二月における両者の間の連絡回数は,三回以上三九・四%,一回ないし二回五四・〇%,連絡なし一・八%となっており,通常三回以上の接触のなされることが望ましい場合が多いであろうといわれながら,予期に反する結果となっている。また,これらの連絡のうち,担当者の側から行なった連絡のみについてみると,昭和四〇年一二月の状況は,三回以上一〇・八%,一回ないし二回六一・二%,連絡なし二三・一%となっている。もとより,担当者が往訪しても,本人が不在のため面接できない場合もあって,必ずしも,この調査結果のみによって,保護司の接触状況の適否を速断することは適当ではないが,今後,十分に検討する必要があると考えられる。

(三) 成績不良者・再犯者等に対する措置

 最近五か年における保護観察終了者のうち,「成績不良であった者」および「取消しを受けた者」の状況は,II-125表のとおりである。期間満了者のうち,保護観察成績が不良のまま終了した者の割合は,累年,減少しており,昭和四一年の総数において,三・六%を示し,また,同年中に,再犯等により,それぞれ,取消しを受けた者の割合は,保護観察処分少年一五・七%,少年院仮退院者二八・三%,仮出獄者四・七%,保護観察付執行猶予者二七・三%で,保護観察付執行猶予者のほかは,いずれも,前年に比べ,高率となっている。なお,少年院仮退院者および保護観察付執行猶予者においては,取消しを受けた者の割合が,同保護観察終了者の四分の一をこえており,注目されるところである。

II-125表 保護観察終了者のうち,取消し等・成績不良の者の率(昭和37〜41年)

 保護観察中の成績が,とくに不良である者,犯罪行為のあった者等に対しては,それぞれ,「家庭裁判所への通告」,「もどし収容の申出」,「仮出獄取消しの申請」,「執行猶予取消しの申出」等の措置が執られているが,その措置の状況と,右の取消しを受けた者の状況を勘案すれば,保護観察所において,それらの措置を執ることが必要と思われたのに,その措置を執らなかった対象者が,なお相当数残されていたのではないかと推察される。すなわち,保護統計年報資料により,昭和四一年中の,これらの「措置」と「取消し」の状況をみれば,保護観察処分少年で,家庭裁判所に通告を行なった者が二八五人であるのに対し,再犯等により新たな処分を受けたため,前の保護観察処分の取消しを受けた者が三,九四七人,少年院仮退院者で,もどし収容の申出を行なった者が七八人(うち,地方更生保護委員会が家庭裁判所に申請を行なった者は六九人)であるのに対し,前同様,処分の取消しを受けた者が一,六三五人,仮出獄者で仮出獄取消しの申請を行なった者が五五〇人であるのに対し,その取消しを受けた者が九一五人,保護観察付執行猶予者で,検察官へ取消しの申出を行なった者が三一人であるのに対し,執行猶予の取消しを受けた者が二,二〇九人という状況である。このような,いわゆる保護観察不適応の者や処遇のきわめて困難な者に対する保護観察や右のような所要の措置を十分に行なうためには,保護観察官の増員が必要であると考えられるが,犯罪対策としての保護観察の責務を果たすうえからも,これらの措置の実施について,いっそうの努力が望まれる。