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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第六章/五 

五 精神障害と犯罪との関係についての概括的考察

 精神障害と犯罪との関係を明らかにするためには,精神障害者の中に,どれくらいの率で犯罪者が発現するのか,あるいは,逆に,犯罪者のうちに,どれくらいの率の精神障害者が含まれているのか,この二つの方向からの考察が必要であり,さらにまた,精神障害犯罪者についての詳細な事例研究が要求されるであろう。しかしながら,前者の大量観察による調査研究は,さきにも述べたように,全国的な規模における精神衛生実態調査によっても,精神障害者の推定数が得られるだけで,正確な数を確認することはできないし,また,逆に,あらゆる犯罪者についての全面的な精神鑑定制度が整備されていない現状では,犯罪者中に含まれる精神障害者についての正確な数値やひん度を示すことは不可能といわざるをえない。したがって,両者の関係を明らかにするための客観的方法としては,現在のところ,厳密に抽出した少数集団に対する調査の結果から類推するとともに,専門家による事例研究の集積によって,これを補足するほかはないように思われる。
 犯罪の原因または動機としての精神障害や精神異常の意義とその役割については,それは,犯罪原因論に属する課題であるから,ここでは,ごく簡単に説明するにとどめ,主として,精神障害犯罪者の現象的事実に焦点を当てて,精神障害と犯罪との関係について概括的な展望を試みるとともに,多少の問題点を指摘したいと思う。