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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第三章/四/2 

2 通常第一審有罪人員からみた前科者および累犯者

 通常第一審(略式手続等を除く,通常の公判手続による第一審のみをいう。以下同じ。)有罪人員のうちで前科者の占める割合を,刑法犯についてみると,I-49表のとおりである。すなわち,前科者の比率は,昭和一〇年以降昭和二四年までは,おおむね,三五%から三八%の間を上下していたが,昭和二五年以降,逐年上昇傾向を示し,昭和二九年には,五〇・四%と,有罪人員の半数をこえるに至り,さらに,その後も,ゆるやかな上昇カーブを示して,昭和四〇年には六三・〇%に達している。

I-49表 刑法犯通常第一審有罪人員中の初犯者・前科者別の人員と率(昭和10〜40年)

 つぎに,刑法犯の通常第一審有罪人員を,刑法上の累犯者とそうでない者とに分けてみると,I-50表に示すように,累犯者の数は,昭和二七年から昭和三四年までの間は,二万四千人ないし二万七千人台を上下して,ほぼ,一定の水準を保っていたが,昭和三五年以降,その実数および比率は,多少の起伏はありながら,おおむね,減少の傾向にある。昭和四〇年の累犯者の数は,一六,九三五人で,刑法犯通常第一審有罪人員に対する比率は二三・〇%である。

I-50表 刑法犯通常第一審有罪人員中の累犯者の人員と率(昭和24〜40年)

 このように,刑法犯通常第一審有罪人員に対する累犯者の占める比率が漸減しているのに,前科者の占める比率が漸増しているという,一見矛盾した現象を呈する理由を明らかにするため,右の有罪人員のうち,前科者の前科の内訳について,昭和三〇年以降の推移をみたのが,I-51表である。これによると,懲役の漸減と,禁錮,罰金の大幅な増加とが対照的であり,昭和三〇年の数字を一〇〇とすれば,昭和四〇年は,禁錮が一六四,罰金が一八九にも達している。禁錮と罰金の前科について,いかなる犯罪により刑罰に処せられたものであるかは,統計に示されていないが,近年,交通犯罪により禁錮刑や罰金刑に処せられる者が激増している実情にある。したがって,禁錮や罰金の前科のある者が増加し,有罪人員に占める累犯者の割合の漸減にもかかわらず,前科者の割合が漸増していることは,いずれも交通犯罪の激増に起因するものと考えられる。

I-51表 刑法犯通常第一審有罪人員中における前科者の前科の内訳(昭和30〜40年)

 つぎに,常習犯罪人に対する量刑の実際がどうであるかを,常習累犯窃盗と常習とばくについてながめてみよう。
 常習累犯窃盗の法定刑は,その上限が懲役十五年,その下限が懲役三年であるが,昭和三一年以降の科刑の分布比率は,I-52表のとおりであって,最下限である懲役三年が約五割,二年以上三年未満が二割弱である。さらに,それ以下の科刑を加えると,総数のほぼ七割を占めるものが,法定刑の最下限か,またはこれを下回る科刑を言い渡されている。

I-52表 常習累犯窃盗(盗防3条)の有罪人員と科刑別人員の率(昭和31〜40年)

 つぎに,常習とばくの法定刑は,その上限が懲役三年,その下限が懲役一月であるが,常習とばくの科刑の分布比率は,I-53表に示すように,有罪総数の約九割までが一年未満の科刑である。そして二年以上の科刑は,年次によっては全くなく,最も比率の高い昭和三六年でも,有罪総数の二・一%にすぎない。しかも,執行猶予言渡率は,昭和三五年には,三〇・〇%と最低になっているが,これを除いては,おおむね,五〇%ないし六〇%であり,昭和四〇年には,七三・二%と,かつて例をみない高率を示したのみでなく,二年以上の刑に処せられたものは,皆無となっている。

I-53表 常習とばく罪(186条1項)の有罪人員と科刑別人員の率(昭和31〜40年)