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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第三章/二/1 

二 女子犯罪

1 女子犯罪の動向

 女子の犯罪は,男子の犯罪に比較すると著しく少ない。これは,わが国ばかりでなく,各国に共通にみられる現象である。女子の日常生活は,主として家庭内で行なわれているために,犯罪の機会も少なく,また,女子が社会的にも保護された状態におかれていることも,その一つの原因と考えられる。
 戦後における女子犯罪の動向を,刑法犯検挙人員についてみると,I-39表およびI-12図のとおりである。

I-39表 男女別刑法犯検挙人員および人口比(昭和21〜41年)

I-12図 男女別刑法犯検挙人員人口比の推移(昭和21〜41年)

 女子有責人口一,〇〇〇人に対する刑法犯検挙人員の割合(人口比)は,昭和二一年には一・三であったが,昭和二四年には,一・九に上昇した。昭和二六年以降は,しだいに低下し,昭和三一年には一・〇となり,それ以後数年間は,低率のまま推移していたが,昭和三七年から,再びごくわずかずつ上昇傾向を示している。男子の刑法犯検挙人員の人口比は,女子に比較すると著しく高率であるが,その推移傾向は,女子の場合とほぼ同様である。
 これでみると,男女ともに,刑法犯検挙人員の推移は,景気の変動と密接な関係にあるように思われる。すなわち,戦後の数年間は,男女ともに人口比が高率であるが,この時期は,経済的な一般状勢がまだ不安定な時期であった。また,昭和三〇年以降の数年間は,男女ともに,人口比は低率であるが,この時期は,神武景気ともいわれ,経済状勢が最も好況の時であった。
 人口比の男女割合をみると,戦後二〇年間を通じて,おおむね,女子は,男子の七ないし八%程度であって,男子に比して女子の割合は少ない。しかし,戦後の経済的混乱期には,女子の割合は,やや高く,男子の九%程度を示しているのに反して,昭和三〇年以降の好況期には,女子の割合は,著しく少なく,六%程度にすぎない。
 刑法犯で検挙された女子の実人員は,昭和三二年の三二,一五〇人を最低として,その後増加を続け,昭和四〇年には,五五,三〇七人となった。昭和四一年には,五三,五四二人であって,前年に比較すると一,七六五人減少しているが,なお,昭和三二年の一・七倍に増加している。これを罪名別にみると,I-40表のとおりで,最も増加の著しいものは,業務上等過失致死傷の二三・八倍,ついで,恐かつの三・五倍,わいせつの二・六倍,強盗の二・一倍,窃盗の二倍である。実人員で最も多いのは窃盗で,昭和三二年には一七,四八五人で,検挙人員総数の五四・四%であったが,昭和四一年には三四,二五七人で,検挙人員総数の六四%を占めている。また,増加の著しい業務上等過失致死傷は,昭和三二年には,検挙人員三〇〇人であり,検挙人員総数の〇・九%にすぎなかったが,昭和四一年には,検挙人員七,一四〇人で,検挙人員総数の一三・三%を占めるに至っている。

I-40表 主要刑法犯罪名別女子検挙人員(昭和32,40,41年)

 なお,昭和四一年の刑法犯女子検挙人員については,前年に比較すると減少していることは,さきに述べたが,これを罪名別にみると,減少の著しいのは窃盗で,実人員で二,六八八人(七・八%)少なくなっている。これに反して,業務上等過失致死傷は一,五五七人(二七・九%)増加している。また,実人員はわずかではあるが,詐欺,横領,殺人等は減少し,恐かつ,傷害等が増加していることが注目される。
 特別法犯による女子の検挙人員も,刑法犯検挙人員と同様に年々増加してきている。昭和三五年の人口比(有責人口一,〇〇〇人に対する割合)は,一・九であったが,昭和四〇年には三・〇,昭和四一年(昭和四一年については検挙人員の統計はなく,送致人員である。)には二・九となっている。特別法犯で検挙された実人員は,昭和三五年には六三,九四九人,昭和四〇年には一一七,三六九人である。昭和四一年の特別法犯による送致人員は,一一四,九九一人であり,前年よりやや減少しているが,昭和三五年の特別法犯検挙実人員に比較すると,一・八倍に増加している。
 特別法犯の人口比の男女の割合では,女子は,男子の二%程度であって,女子の割合は,刑法犯の場合よりさらに少ない。主要法令別に実人員を示すと,I-41表のとおりであって,実人員で最も多いのは,道交違反であり,昭和四一年には八一,五七一人に達している。昭和三五年の道交違反は二五,二六三人であったから,昭和四一年のそれは,昭和三五年の三・二倍である。なお,昭和四一年の道交違反による送致人員は,特別法犯送致人員総数の七一%を占めている。これについで多いのは,風俗営業等取締法違反であって,実人員は一一,三三三人,ついで,売春防止法違反が多く,八,一五七人であるが,これは,昭和三五年に比較すれば,むしろ減少している。

I-41表 主要特別法犯女子検挙人員(昭和35,40,41年)

 刑法犯検挙人員について,警察における処置をみると,昭和四〇年では,女子の検挙人員の九%が身柄送致であり,六五%は書類送致,微罪処分および簡易送致が二六%(このうち,微罪処分は約八五%である。)となっている。これに対して,男子では,二三%が身柄送致,七五%が書類送致であって,微罪処分および簡易送致は三%にすぎない。女子は,男子に比較して微罪処分となっているものがきわめて多い。
 また,刑法犯について,検察庁における処理状況をみると,I-42表のとおりである。これでみると,昭和三五年の女子の起訴率は二二・八%,起訴猶予率は六六・六%であり,男子の起訴率は五八・四%,起訴猶予率は三二・八%であって,女子の起訴猶予率は,男子に比較してきわめて高い。昭和三六年以降,女子の起訴率は,わずかずつ上昇し,昭和三九年には二六・七%,昭和四〇年は三三・八%,昭和四一年には,さらに上昇して三七・六%となり,一方,起訴猶予率は昭和四一年には五三・九%にまで低下している。しかし,なお,男子に比較すれば,起訴猶予率は著しく高い。

I-42表 検察庁における刑法犯既済事件の男女別起訴率および起訴猶予率(昭和35〜41年)

 女子の起訴率の上昇は,主として,業務上過失致死傷事件の増加によるものである。昭和三六年の検察庁における刑法犯女子既済人員総数(家庭裁判所送致,中止および移送を除く。)は,二八,三八二人であり,このうち,業務上過失致死傷事件は,六〇七人,二・一%にすぎなかったが,昭和四一年には,女子既済人員総数は,三二,九一〇人,このうち,業務上過失致死傷事件は,七,四九七人で,既済人員総数の二二・八%を占めるに至った。この種の事件の起訴率は,他の罪種によるものと比較すると,著しく高率(昭和四一年の業務上過失致死傷による起訴率は七一・四%)であるために,全事件の起訴率を高めていると思われる。
 さらに,刑法犯第一審有罪人員(略式裁判による終局総人員を含む。)についてみると,昭和三五年の実人員は五,〇二七人であり,その後,しだいに増加して,昭和三九年には六,五八八人,四〇年には八,五四六人であるが,男子の刑法犯第一審有罪人員に対する割合は,おおむね二%程度である。
 ちなみに,イギリスにおける有罪人員のうちの女子の割合をみると,一九六〇年には,男子一〇〇に対して,女子は一二・五であり,一九六四年のそれは,女子一二・六である。また,フランスにおける一九六三年の重罪・軽罪人員男子一〇〇に対して,女子の割合は一二である。西欧諸国に比較してみると,わが国の女子犯罪者の割合はきわめて少ない。
 昭和四〇年に刑法犯通常第一審で有罪となった女子二,五一七人のうち,懲役または禁錮に処されたものは二,四二二人であり,このうち,一,七〇三人(七〇・三%)は,刑の執行が猶予されている(同年次の懲役刑,禁錮刑の男子では,五〇・三%が刑の執行を猶予されている。)。
 女子では,刑の執行が猶予される割合が高率のために,受刑者として刑務所に入所する人員は,きわめて少ない。
 I-43表は,昭和三五年以降の新受刑者を男女別に示したものであるが,昭和三五年の女子新受刑者は一,〇七九人であり,その後,しだいに増加して,昭和三七年には,一,二四七人になっている。昭和三八年以降は,年々減少し,昭和三九年には,九四七人となったが,昭和四〇年には,わずかではあるが,再び増加して九七二人,昭和四一年には,さらに九九一人となっている。昭和三七年までの増加は,主として麻薬取締法違反によるものであり,それ以後の減少も,麻薬事犯の漸減によるものである。また,最近の女子新受刑者の漸増は,売春防止法違反による受刑者が増加しているためである。

I-43表 男女別新受刑者(昭和35〜41年)

 この間の男子新受刑者に対する女子新受刑者の割合は三%程度である。