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 昭和42年版 犯罪白書 第一編/第二章/二 

二 特別法犯の概況

 昭和四一年中における特別法犯の検察庁新規受理人員数を,前年と対比しながら,概括的にながめると,I-27表のとおりである。

I-27表 特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和40,41年)

 昭和四一年の道交違反を除く特別法犯の受理人員は,一七八,七三五人で,前年より約一万三千人減少しており,道交違反は,四,四八〇,四五一人で,これも,前年より約四七万人減少している。
 この表で最も目につくのは,自動車の駐車に関する規制を強化した「自動車の保管場所の確保等に関する法律」違反が,前年に比し,四九・八%も増加している点であるが,今後も,自動車の増加および同法施行地域の拡大に伴い,増加するものと考えられる。つぎに,実数はわずかではあるが,覚せい剤取締法違反,あへん法違反等の犯罪が増加の傾向を示しているので,今後の動きをみる必要があろう。逆に,前年に比べて減少の著しいのは,食糧管理法違反,公職選挙法違反,酒税法違反,出入国管理令違反等で,これらは,五割前後の減少をみせているが,公職選挙法違反については,昭和四〇年に,参議院議員通常選挙が行なわれたのに対し,昭和四一年には,全国的な選挙が行なわれなかったためである。
 つぎに,昭和四一年を中心として最近における特別法犯の動きを,保安関係,財政経済関係,麻薬・覚せい剤関係,風俗関係に分けて詳しくみることとする。なお,選挙犯罪,交通犯罪については,章を改めて検討するので,ここでは省略する。また,前述(12頁)の理由により,ここでも検察庁の新規受理人員をみることとした。
 まず,保安関係の特別法犯についてみると,I-28表のとおりである。銃砲刀剣類所持等取締法違反の検察庁新規受理人員数は,逐年増加の傾向を示していたが,昭和四一年には,わずかに減少している。過去一〇年間の,検察庁の新規受理人員をグラフで示すと,I-9図のとおりであるが,昭和三五年と三八年に大幅に増加したのが目だっている。ところで,同法違反の大部分は,同法第三条違反の不法所持犯であるが,その所持する銃砲,刀剣を種類別に見ると,I-29表のとおりである。この表によると,けん銃,猟銃,刀の所持が逐年増加していたが,昭和四一年は,いずれも減少している。

I-28表 保安関係特別法犯検察庁新規受理人員の推移(昭和36〜41年)

I-29表 鉄砲刀剣類所持等取締法第3条違反の検挙人員(昭和38〜41年)

I-9図 鉄砲刀剣類所持等取締法違反検察庁新規受理人員の推移(昭和32〜41年)

 火薬類取締法違反は,年々増加していて,昭和四一年には,昭和三六年の一・五倍以上の受理人員を示していることが注目される。
 つぎに,財政経済関係の特別法犯について,最近六年間の推移をみると,I-30表のとおりである。

I-30表 財政経済関係特別法犯検察庁新規受理人員の推移(昭和36〜41年)

 関税法違反は,昭和三七年以降,減少していたが,昭和三九年には,逆に,相当大幅な増加をみた。しかし,その後,急激に減少して,昭和四一年は,昭和三六年を一〇〇とする指数で示すと,五九となっている。また,外国為替及び外国貿易管理法違反も,関税法違反とほとんど同様な推移をたどっていて,昭和三六年を一〇〇とすると,昭和四一年は八一になっている。
 「出資の受入,預り金及び金利等の取締等に関する法律」違反は,昭和三八年に減少したほかは,逐年増加の傾向を示している。
 食糧管理法違反は,年々大幅に減少し,昭和四一年は,昭和三六年を一〇〇とする指数で示すと,一一となっている。
 酒税法違反は,年々減少傾向にあって,昭和四一年には,昭和三六年の約一〇分の一の受理人員をみるに過ぎない。
 つぎに,麻薬・覚せい剤関係の犯罪についてみると,I-31表のとおりである。

I-31表 麻薬・覚せい剤関係特別法犯検察庁新規受理人員の推移(昭和36〜41年)

 麻薬取締法違反は,取締りの強化にかかわらず,なかなか減少しないといわれていたものであるが,一〇年間の検察庁新規受理人員の推移は,I-10図のとおりである。これによると,昭和三四年にやや減少したものの,その後は,増加を続け,昭和三七,八年に頂点に達している。ところが,昭和三九年には,前年の三四・七%に激減し,昭和四〇年には,わずかに増加したものの,昭和四一年は,再び減少している。このような激減の原因は,おそらく,昭和三八年七月の麻薬取締法の改正により同法違反の罰則が強化されたことと取締りの徹底によるものと思われる。なお,昭和四一年の麻薬犯罪の実態につき,警察庁の調査結果によると,ヘロイン事犯が減少し,これに代わって,医療麻薬事犯が検挙人員の九一・一%を占めていること,麻薬の譲渡,譲受事犯が減少して,麻薬の施用,受施用事犯が増加し,検挙人員の六三・二%を占めていること,医療麻薬事犯の増加に伴い,医療薬業関係者(主として医師)が検挙人員の三九・三%を占めるに至っていることなどが注目される。

I-10図 麻薬取締法違反検察庁新規受理人員の推移(昭和32〜41年)

 このように麻薬取締法違反が減少しているのに反し,あへん法違反および大麻取締法違反は,昭和四一年には,昭和三六年のそれぞれ四・八倍および六・八倍と増加しているのが目だっている。これは,取締りの強化によるものも多いと思われるが,その動向には,今後注意を要するであろう。
 覚せい剤取締法違反は,昭和二九年の最盛期には,年間受理が五万人をこえたが,昭和三三年には,わずか二六五人となり,ほとんど,根絶に近い状態となった。しかし,その後,漸増し始め,三八年には,千人をこえたが,その後,再び減少を示した。しかし,昭和四一年には前年よりわずかに増加し,昭和三六年の一・六倍となっている。
 つぎに,風俗犯関係についてみると,I-32表のとおりである。

I-32表 風俗犯検察庁新規受理人員の推移(昭和36〜41年)

 まず,売春防止法違反であるが,昭和三三年四月一日同法の罰則施行以後の受理人員の動きをみると,I-11図のとおりで,これによると,昭和三五年以後,逐年減少を続けているが,もともと,売春事犯には,潜在犯罪が多いとされており,この統計面の減少が直ちに実際の減少を意味するものとは,必ずしも断定できない。

I-11図 売春防止法違反検察庁新規受理人員の推移(昭和33〜41年)

 風俗営業等取締法違反の受理人員は,昭和三七年以降,逐年増加し,昭和四一年には,昭和三六年の約一・八倍に達している。なお,近年,いわゆるトルコ風呂,ヌード・スタジオおよびストリップ劇場等について,風俗上の弊害が著しいことにかんがみ,風俗営業等取締法の一部が,昭和四一年六月二七日法律第九一号をもって改正された。この改正の要点は,(1)トルコ風呂営業は,一定の地城においては禁止すること,(2)トルコ風呂営業,ヌード・スタジオおよびストリップ劇場等の興行場営業を営む者等が刑法第一七四条(公然わいせつ)等の罪を犯した場合は,公安委員会は,八月あるいは六月をこえない範囲内で営業の停止を命ずることができることを骨子とするものである。
 職業安定法違反と児童福祉法違反は,いずれも,昭和三六年以来,おおむね増加の傾向にあり,昭和四一年には昭和三六年に比べ,前者は約一・五倍,後者は約二・二倍となっている。なお,これらの違反は,ややもすると,売春や人身売買あるいは暴力団の資金かせぎと密接な関係があるので,注意を要する。
 競馬法違反は,昭和三八年までは減少していたが,その後は,漸増の傾向を示している。自転車競技法違反も,昭和三八年に一時減少しただけで,その後の増加は著しい。ただし,昭和四一年には,前年よりやや減少している。これらの違反行為の大部分は,私設の馬券や車券を客に売り,これが的中すると,配当金を渡すというやり方の勝者投票類似行為で,俗に,「のみ行為」といわれているものであるが,これらの違反も,暴力団関係者およびそれに近いグループによって行なわれており,直接・間接に暴力団の資金源となっている状況である。
 つぎに,外国人関係犯罪の検察庁新規受理人員の五年間の推移をみると,I-33表のとおりである。外国人登録法違反は,昭和三八年に大幅に増加し,翌三九年には,逆に,大幅に減少したが,その後は,漸増の傾向にある。昭和四一年に,同法違反で検察庁が受理した者を国籍別にみると,八五・一%が朝鮮人で,以下,中国人の五・七%,米国人の三・五%の順となっている。

I-33表 外国人関係犯罪新規受理人員の推移(昭和37〜41年)

 出入国管理令違反は,昭和四〇年までは,増加の傾向にあったが,昭和四一年は,激減しているのが目につく。