この項では、調査対象事件において、被害者の精神障害の有無により、被害申告の経緯等の傾向・特徴に違いがあるかについて見る。
被害者の被害当時の被害認識について、「認識あり」、「認識不十分」及び「認識なし」の構成比を調査対象被害者の群別に見ると、7-5-2-7図のとおりである。被害認識の分類のうち、「認識あり」は、被害者において、加害者から犯罪行為の被害を受けたことを認識できている場合等をいい、「認識不十分」は、被害者において、加害者から何らかの違和感・不快感等を伴う行為をされたことは認識しているものの、それが犯罪行為の被害であることまで明確に認識できていないような場合等をいい、「認識なし」は、被害者において、加害者から行われた行為自体を認識できていない場合や、その行為の意味内容をほとんど理解できていない場合等をいう(以下この項において同じ。)。精神障害あり群及び精神障害なし群のいずれも、「認識あり」の構成比が最も高く、次いで、「認識不十分」、「認識なし」の順であった。精神障害あり群は、精神障害なし群よりも「認識不十分」及び「認識なし」の構成比が高く、「認識あり」の構成比が低かった。なお、本調査項目は、調査者において、被害者供述等の関係各証拠を調査した結果を分類したものである。
さらに、年齢による被害認識の程度等の違いの有無を見るため、調査対象被害者のうち、20歳未満の者に係る精神障害あり群及び精神障害なし群における被害当時の被害認識について、「認識あり」、「認識不十分」及び「認識なし」の人数を年齢別に見ると、7-5-2-8図のとおりである。精神障害なし群では、「認識なし」の最年長は13歳であり、15歳以上は全員「認識あり」であった。他方、精神障害あり群では、「認識なし」の最年長は18歳であった。
調査対象被害者のうち、余罪(本件被害が発覚するまで被害申告をしていなかったが、捜査・公判において、当該加害者による同一被害者に対する同種犯行に関する被害者又は加害者の供述があり、かつ、判決書で「罪となるべき事実」として認定されていない犯行をいう。以下(3)において同じ。)があったものについて、被害者供述等の関係各証拠から、反復して被害を受けるまで被害申告できなかった理由を分類し、各項目の該当率(重複計上による。)を調査対象被害者の群別及び加害者別に見ると、7-5-2-9図のとおりである。なお、調査対象被害者のうち、余罪に関する供述がある者は、精神障害あり群では5割を超え、精神障害なし群では約2割であった。
被害者から見た加害者の立場が「面識なし」の場合、余罪に関する供述がある者は、精神障害あり群では2割弱、精神障害なし群では1割以下であった。そこで、本図では、被害者から見た加害者の立場について、「親族等」、「教育関係者・雇用主・支援関係者等」及び「知人」の3項目に分類した上で分析を行った。
精神障害あり群では、加害者が「親族等」であった場合、「加害者から口止めされていた」及び「加害者や周囲との人間関係等から言えなかった」の該当率が同じで最も高く、4割を超えており、加害者が「教育関係者・雇用主・支援関係者等」であった場合、「被害に関する認識が欠如・不足していた」の該当率が最も高く、7割を超えており、加害者が「知人」であった場合、「被害に関する認識が欠如・不足していた」及び「加害者から口止めされていた」の該当率が同じで最も高く、4割を超えていた。精神障害なし群では、加害者が「親族等」であった場合、「加害者や周囲との人間関係等から言えなかった」の該当率が最も高く、7割を超えており、加害者が「教育関係者・雇用主・支援関係者等」であった場合、「加害者から口止めされていた」の該当率が最も高く、6割を超えており、加害者が「知人」であった場合、「被害に関する認識が欠如・不足していた」の該当率が最も高く、5割を超えていた。
「被害に関する認識が欠如・不足していた」について、精神障害あり群では、加害者が「教育関係者・雇用主・支援関係者等」であった場合の該当率が高かったが、精神障害なし群では、加害者が「知人」であった場合の該当率が高かった。「加害者や周囲との人間関係等から言えなかった」について、精神障害あり群及び精神障害なし群のいずれも、加害者が「親族等」であった場合の該当率が高かった。
捜査機関に犯行が発覚するまでの期間(判決書の「罪となるべき事実」で認定された犯行日(同一被害者に対する犯行が二つ以上ある場合は、最初の犯行日)から捜査機関に犯行が発覚するまでの期間をいう。)ごとの件数について、調査対象被害者を群別に見ると、7-5-2-10図のとおりである。精神障害あり群及び精神障害なし群のいずれも、「0~1日」が最も多いが、その構成比は、精神障害なし群では7割近くを占めるのに対し、精神障害あり群では4割未満であった。また、精神障害あり群では、「1年以上」の構成比が1割を超えた。精神障害あり群は、精神障害なし群よりも「1週間以内」、「1か月以内」及び「半年以内」の構成比が高かった。
調査対象被害者による被害申告の有無について、調査対象被害者を群別に見ると、7-5-2-11図のとおりである。精神障害あり群及び精神障害なし群のいずれも、「被害申告あり」が「被害申告なし」を上回ったが、その構成比は、精神障害なし群では、9割を超えた一方、精神障害あり群では、7割を下回った。精神障害あり群は、精神障害なし群よりも「被害申告なし」の構成比が高かった。
前記(5)において「被害申告あり」だった調査対象被害者について、最初に被害を伝えた相手を調査対象被害者の群別に見ると、7-5-2-12図のとおりである。精神障害あり群及び精神障害なし群のいずれも、「親族」の構成比が最も高かった。精神障害あり群では、次いで、「学校・勤務先・支援関係者等」、「知人・友人」の順であったのに対し、精神障害なし群では、次いで、「知人・友人」、「捜査機関」の順であった。精神障害あり群は、精神障害なし群よりも「親族」、「学校・勤務先・支援関係者等」及び「医療機関」の構成比が高く、「捜査機関」、「知人・友人」及び「その他」(通行人、コンビニ店員、駅員、警備員、タクシー運転手等)の構成比が低かった。なお、本調査項目は、調査者において、被害者供述等の関係各証拠を調査した結果を分類したものである。