司法面接的手法を用いた代表者聴取を実施する機関の一つである検察庁では、検察官が、代表者聴取を行うに当たり、聴取対象者やその関係者が抱く不安や緊張を緩和するため、様々な取組を行っている。
そこで、「大阪地方検察庁において代表者聴取を行っている検察官のAさん」から、以下において、大阪地方検察庁における取組・工夫や、代表者聴取を行う検察官としての思いを紹介してもらう。
私が勤務する大阪地方検察庁における取組を以下紹介する。
はじめに、司法面接的手法を用いた代表者聴取を実施するまでの流れを説明する。
家庭内の虐待事件の場合、多くは学校等において被害が把握されるところから始まり、児童相談所へ通告がなされ、児童相談所から警察へ、警察から検察庁へ連絡があり、児童相談所、警察及び検察庁の三機関で事案が共有される。
第三者による被害の場合には、警察が認知し、警察から検察庁へ連絡があり、警察及び検察庁の二機関で事案が共有されることが多い。
その上で、いずれの場合も、聴取対象者の年齢、特性、精神状態等の情報に加え、聴取対象者の供述以外の証拠関係等の情報を更に収集・共有し、適切な時期及び場所を選定して、代表者聴取に臨む。
代表者聴取では、二機関又は三機関の中から聴取を行う代表者を選定し、聴取対象者の体調や精神状態等を十分に考慮に入れた上で、それらに合わせた聴取を行う。代表者以外の者は、バックルームと呼ばれる別室で聴取の様子をモニタリングし、必要に応じて、聴取の過不足を代表者に指摘したり、聴取対象者の様子を観察して聴取継続の可否等を検討したりする。
ここまでの流れは、大阪地方検察庁に限らず、ほとんどの地方検察庁で同様だと思われる。
代表者聴取において聴取対象者が供述する内容は、ほとんどの場合、聴取対象者にとって、辛く、苦しく、悲しく、あるいは、恥ずかしい思いをした出来事である。また、代表者聴取を実施する時点では、聴取対象者は、児童相談所に一時保護されるなどして環境が変わり、不安を感じていることも多い。
大阪地方検察庁では、そのような状態の聴取対象者が、安心して全てを話すことができるように、様々な取組や工夫を行っている。
例えば、代表者聴取の実施時期については、聴取対象者が安心して話せるための情報収集等をする時間を確保しつつ、聴取対象者の話す意欲の程度、時間経過による記憶減退のリスク等の様々な事情を考慮して、適切な時期に設定している。実施時期に関して聴取対象者の希望がある場合には、聴取対象者の話す意欲に関わる事項として、代表者聴取の実施時期の選定のための考慮要素の一つとしている。
また、代表者聴取の実施場所についても、聴取対象者の年齢や特性等を踏まえ、検察庁で行うのか、児童相談所等のそのときの聴取対象者の生活の本拠となっている場所等で行うのかなどを決めている。実施場所に関する聴取対象者の希望についても、代表者聴取の実施場所の選定のための考慮要素の一つとしている。
代表者聴取において聴取対象者が話す内容は、高度にプライバシーに関わる事項であるから、どこでも代表者聴取を実施できるわけではなく、取り得る選択肢の中で、どこであれば聴取対象者が安心して話せそうかということを一番に考えて、実施場所を決めている。
検察庁の建物で代表者聴取を実施する場合、通常の取調室は、無機質な雰囲気であることが多く、必ずしも安心できる場所とは言えないことから、大阪地方検察庁では、写真<1>のように、高さの低いソファに、優しい色合いの内装・調度品を用いて、静かで、気が散るような物のない部屋を整備し、代表者聴取の実施場所にしている。また、代表者聴取の実施前後に使用する待合室についても、できる限り落ち着いた雰囲気の中で、幼い児童でもくつろいで待てるよう、写真<2>のように、プレイマットを敷いた部屋を用意している。
代表者の選定に際しては、私たち検察官が代表者となるケースが多いものの、聴取対象者が、見知った人でなければ落ち着いて話せない場合や、児童の扱いに特に慣れた者の方が落ち着いて話ができる場合もあることから、聴取対象者の特性や様子に応じて代表者を柔軟に選定しており、検察官以外の者、例えば、児童相談所職員や警察官を代表者とする例もある。
また、代表者は、三機関のいずれに属する者であっても、服装、言葉遣い、態度、雰囲気等に十分に気を配り、聴取対象者に安心して話してもらえるように努めている。
さらに、大阪地方検察庁においては、代表者として聴取を行う検察官が、聴取対象者にとって、安心かつ信頼できる相手となれるよう、定期的に各種研修や勉強会等を実施している。
私たち検察官は、研修や勉強会の中で、代表者聴取において用いる司法面接的手法のプロトコルを習得している。様々な種類の司法面接的手法のプロトコルが存在しているが、大阪地方検察庁では、司法面接的手法のプロトコルの一つについて、毎年、基礎編と発展編の計2回にわたり、外部講師を招き、警察や児童相談所等にも受講生として加わってもらい、大規模な研修を実施している。また、別の司法面接的手法のプロトコルについても学ぶ機会を得るため、毎年、複数名の検察官が、別のプロトコルの外部研修に参加している。
各プロトコルに関する研修の中では、聴取対象者からいかに誘導なく聴取するかについて学ぶが、そのほかにも、児童心理、供述心理、具体的な聴取対象者との信頼関係の構築の方法について学ぶ。これらの研修の取組により、令和7年6月時点で、大阪地方検察庁に所属する検察官のうち、おおむね7割程度が、司法面接的手法のプロトコルに関する研修を受講済みである。
そのほかにも、大阪地方検察庁においては、検察官は、被虐待児童心理や性犯罪被害者心理に関する理解を深めるため、心理士、精神科医等の外部講師を招くなどし、おおむね年に1回程度、勉強会を実施している。
また、代表者聴取の実施に当たっては、経験豊富な検察官も、バックルームで代表者を支援するバックスタッフとして代表者聴取に関与し、現場で即時適切な指示をするとともに、事後的に、聴取を行った代表者に対し、気付いた点をフィードバックするなどしている。
さらに、少なくとも数か月に1回程度の割合で、実際の代表者聴取を題材として勉強会を実施し、その中で、聴取方法等について、推奨すべき点・改善すべき点を話し合うことで、勉強会に参加した検察官が、自らの聴取技術を向上させるため、研さんしている。
このように、私が勤務する大阪地方検察庁では、司法面接的手法を用いた代表者聴取を行うに際し、聴取対象者が安心して話をすることができるよう、様々な取組・工夫を実施している。
したがって、聴取対象者が、代表者聴取において供述することになり、積極的に話をすることができず、あるいは上手に話せなかったとしても、私たち検察官は、状況に応じた声掛けをするなどしているので、聴取対象者は安心して聴取に臨んでいただきたい。
また、聴取対象者の特性等を把握するため、代表者聴取の実施前に、警察官や検察官が、聴取対象者の御家族に連絡をする場合もあるが、その際、不安なことや心配な点があれば、遠慮なく相談していただきたい。私たち検察官から、御家族や聴取対象者本人に対し、事案に応じて、個別に説明をすることも可能である。
最後に、現場で実際に代表者聴取を行っている検察官の気持ちを伝えるために、私が代表者として聴取を行った継続的性虐待の事例を紹介したいと思う。
継続的性虐待の事例では、ほとんど全ての場合で、虐待を受けた児童は想像を絶するような深い傷を負っている。そのため、代表者聴取の場でも、涙をぽろぽろとこぼすだけで、全く話をすることができなかったり、話を始めても非常に口が重く、「嫌なことがあった」以上の話ができなかったりすることが多くある。
ここで紹介する私が担当した事例の聴取対象者も、同様に、深い傷を負った児童だった。
この児童は、代表者聴取において、被害状況等について懸命に話してくれたものの、その被害の内容は、聞いているだけで私自身も辛くなるようなものであり、当然のことながら、聴取の間ずっと、この児童の表情は暗いままだった。
この児童が語ってくれた被害の事件については、私が起訴したが、公判は別の検察官が担当することになった。被告人は、公判で事実を争ったため、この児童は証人として出廷し、被害状況等について証言したと聞いた。そして、その結果、被告人は、有罪の判決を受けたとも聞いた。
この児童には、捜査段階から、被害者代理人弁護士が就いていた。私は、被害者代理人弁護士から、有罪の判決が出た後、この児童が、初めて笑顔を見せてくれたと教えてもらった。
その話を聞いたとき、私は、この児童の代表者聴取の場での様子を思い出した。そして、被害者が、自身の受けた被害について話をすることは、大変辛いことであるが、この児童は、代表者聴取の場で被害について供述し、判決という一つの区切りを経たことで、その被害を乗り越えて、未来に向かう一歩を踏み出せたのではないかと感じた。
私は、今後も、日々、研さんを重ねて、司法面接的手法を用いた代表者聴取に取り組み、被害者が未来への一歩を踏み出すための支えとなっていきたい。