特別法は、その時々の社会・犯罪情勢を踏まえて制定・改正されるものであり、特別法犯の再犯の状況を把握することは、今後の効果的な刑事政策を講じていく上でも重要である。
本章では、再犯の実態を把握するための指標の一つとして、刑法犯により検挙された者に占める再犯者(刑法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者)の人員の比率を「再犯者率」として、その推移等に言及しているところ(5-1-1図参照)、このコラムでは、特別法犯(交通法令違反を除く。以下このコラムにおいて同じ。)により検挙された者について、令和5年版犯罪白書に掲載した同様のコラムに引き続き、その再犯者の人員及び再犯者率の推移を概観する。その上で、再犯者率に係る分析の視点は様々あるところ、その解釈に当たって留意を要する点について、個別の特別法犯を例に取り上げて解説を行う。
特別法犯の再犯者率については、特別法犯により検挙された者に占める再犯者(特別法犯により検挙された者のうち、前に道路交通法違反を除く犯罪により検挙されたことがあり、再び検挙された者)の人員の比率とする。
図8は、特別法犯について、検挙人員及び再犯者率の推移(最近5年間)を見たものである。特別法犯により検挙された者のうち、再犯者の人員は、令和元年(2万5,818人)以降緩やかな減少傾向にあったが、5年は増加し、2万2,772人(前年比315人(1.4%)増)であった。また、その初犯者の人員についても、元年(3万5,996人)以降同様の減少傾向にあったが、5年は3万4,244人(同1,062人(3.2%)増)であった。再犯者率について見ると、特別法犯は、元年(41.8%)からおおむね横ばいであり、5年は39.9%(前年比0.4pt低下)であったところ、元年以降いずれの年においても、刑法犯の再犯者率(5年は47.0%)よりも約6~8pt低かった。
法務総合研究所においては、令和2年版犯罪白書特集「薬物犯罪」等において、薬物事犯者については同種事犯を繰り返す者が少なくないことを指摘しており、本章では、個別の特別法犯の再犯者の状況として、覚醒剤取締法違反及び大麻取締法違反の同一罪名再犯者率(定義については、第3項参照)を取り上げている(5-1-4図参照)。
覚醒剤取締法違反及び大麻取締法違反について、同一罪名再犯者率の推移を見ると、いずれも緩やかな上昇傾向にあり、令和5年は、それぞれ67.0%、26.7%であるが、検挙人員の推移を見ると、両者の意味合いは大きく異なり、数値の解釈に当たっては留意が必要である。まず、覚醒剤取締法違反では、同一罪名再犯者の検挙人員自体は平成12年(9,335人)をピークとして減少しており、令和5年は3,894人と、平成12年の4割程度に減少している。検挙人員そのものが減少しているにもかかわらず同一罪名再犯者率が上昇しているのは、同一罪名再犯者の検挙人員の減少幅が同一罪名検挙歴のない者の検挙人員の減少幅に比べて小さいことによるものといえる。他方、大麻取締法違反について見ると、同一罪名再犯者の検挙人員自体(令和5年は1,407人)は、同一罪名再犯者率が同年と同程度である平成30年(25.6%・806人)と比べると相当増加しているが、それが同一罪名再犯者率の大幅な上昇につながっていないのは、同一罪名検挙歴のない者の検挙人員も同様に相当増加していることによるものといえる(5-1-4図CD-ROM参照)。
なお、本編第5章1項においては、20歳未満の覚醒剤取締法違反及び大麻取締法違反についても、同一罪名再非行少年率の推移等を取り上げているところ(5-5-2図参照)、令和5年における同一罪名再非行少年率は、覚醒剤取締法違反では22.6%(前年比2.3pt上昇)、大麻取締法違反では11.5%(同2.2pt低下)であった。この数値のみを見ると、大麻取締法違反については、同一罪名再非行少年の検挙人員が減少したのではないかと楽観的に捉えられそうであるが、実際には増加(前年比15人(12.0%)増)している。他方、同法違反については、同一罪名検挙歴のない少年の検挙人員が大幅に増加(同295人(37.5%)増)しており、このことが、同法違反の同一罪名再非行少年率の数値に影響を与えているものであり、同一罪名再非行少年率の解釈には留意が必要である(5-5-2図CD-ROM参照)。
こうした一連の状況からは、覚醒剤取締法違反については、改めて再犯防止策が重要であること、また、大麻取締法違反については、再犯防止策が重要であることに加え、新たに大麻に手を出そうとする初犯者の増加を食い止めるための犯罪予防の施策を推進することも喫緊の課題であることが示唆される。この点、令和5年8月に薬物乱用対策推進会議が策定した第六次薬物乱用防止五か年戦略では、薬物依存の問題を抱える者等への相談支援や治療等に携わる各関係機関の連携を更に強化するため、「薬物乱用者に対する適切な治療と効果的な社会復帰支援による再乱用防止」を目標に掲げ、また、特に大麻について、インターネット等を通じて、有害性がないとの誤った情報が流布している状況等に鑑み、「青少年を中心とした広報・啓発を通じた国民全体の規範意識の向上による薬物乱用未然防止」を目標に掲げており、前記で示した各統計は、これら施策の必要性を裏付けているといえる。
このように、特別法犯の再犯者率(少年については、再非行少年率)は、再犯の実態を把握するための指標の一つとして重要なものであるところ、個別の犯罪における再犯の実態を捉えるためには、単年の数値や再犯者率の傾向のみを評価するのではなく、その人員を含めた当該犯罪の全体の動向を見ることも必要である。
冒頭で述べたとおり、特別法は、社会や犯罪情勢等を反映したものである。今回焦点を当てた大麻取締法に関しても、若年層における大麻乱用の拡大を受け、大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(令和5年法律第84号)により、大麻等の施用罪の適用等に係る規定の整備等が行われたところであり、施行後の各法律違反に係る統計の変化に注目していく必要がある。