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令和5年版 犯罪白書 第7編/第5章/第5節/コラム13

コラム13 少年院におけるトラウマインフォームドケアの試み

トラウマインフォームドケアとは、トラウマの影響を理解し、トラウマの兆候や症状を認識した上で対応することで、再トラウマ化を防ぎ、適切なケアやサポートが可能になるという概念である。少年院在院者(以下「在院者」という。このコラムにおいて同じ。)の中には、小児期における逆境体験を有する者が少なくなく(7-5-5-1図参照)、そうした体験に起因するトラウマを抱えている者も一定数いることが推察される。

現在、女子少年院で実施されている「女子少年院在院者の特性に配慮した処遇プログラム」(概要については、第4編第7章第2節2項(2)参照)は、女子在院者の非行の背景として、過去の傷付き体験の影響があることを考慮した内容となっているが、処遇の効果を上げるためには、指導に当たる職員がトラウマに関する知識を持つことが必要である。また、男子在院者の中にも逆境体験のあるものが一定数いることから、少年院においては、令和元年度から、全国の少年院の職員を対象として、被虐待経験等を有する在院者の処遇に当たり必要な知識・技能を付与することを目的とした研修を実施している。また、令和2年度からは、女子を収容する少年院を中心に、NPO法人レジリエンスの協力を得て、傷付き体験やトラウマとの向き合い方などについて在院者向けの講話を実施するとともに、トラウマを抱える在院者への適切な処遇の在り方について職員との打合せを実施するなどしている。

非行の背景に小児期の逆境体験があり、様々な障害等を有する在院者の状態や行動を理解する上で、トラウマの影響を認識する視点は重要である。トラウマについて理解しないまま関わってしまうと、在院者が「分かってもらえない」という失望や怒りを感じたり、無理解によって叱責してしまうと、在院者が傷付き体験を思い出したりし、トラウマ反応がますます悪化する可能性も考えられる。トラウマインフォームドケアの知見が広まることで、トラウマを抱える在院者の行動の理解が深まるなど、処遇の一助になることが期待される。

また、非行少年を含め、非行からの立ち直りに携わる全ての人がトラウマについて理解することで、無理解や誤解に基づく再トラウマを防ぐことができるという視点は、本来、少年院の職員に限定されるものではなく、非行少年に関わる、刑事司法の全ての段階における関係者にも必要と言える。非行少年の処遇全体を通して、トラウマを抱える少年へのより適切な指導・支援につながることが何より望まれる。