前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

令和5年版 犯罪白書 第7編/第2章/1

1 戦後の少年法制に係る主な動き
(1)昭和期における主な動き

現行の少年法制は、第二次世界大戦後の昭和20年代に従来の諸法制が抜本的に改革されたことによって成立した。まず、22年に児童福祉法(昭和22年法律第164号)が制定され、従来、少年教護法(昭和8年法律第55号)や旧児童虐待防止法(昭和8年法律第40号)の対象であった14歳未満の少年や被虐待児童の取扱いは、全児童を対象とした健全育成・福祉政策の中に包含されることとなり、少年教護法及び旧児童虐待防止法は廃止された。そして、23年には、旧少年法(大正11年法律第42号)が全面的に改正されて、現行の少年法(昭和23年法律第168号)が公布され、翌24年に施行された。同法における主な改正点は、<1>少年法の適用年齢を18歳未満から20歳未満に引き上げたこと、<2>新たに家庭裁判所を設け、司法機関である家庭裁判所が、非行に及んだ少年を保護処分にするか、刑事処分にするかを決定するとともに、保護処分の種類を保護観察、教護院又は養護施設送致、少年院送致の3種類としたこと、<3>保護処分に対し、少年の側からの高等裁判所への抗告を認めたこと、<4>刑事処分を16歳以上の少年に残し、死刑と無期刑の言渡しの制限を犯行時16歳未満から、犯行時18歳未満に引き上げたことなどである。

少年法の施行と同時に旧少年院法(昭和23年法律第169号)が施行され、矯正院法(大正11年法律第43号)は廃止された。少年院は、初等、中等、特別及び医療の4種別の少年院が設置され、旧少年法下で民間の矯正施設として機能していた少年保護団体は、昭和24年3月限りで廃止された。また、少年法の規定により観護措置が採られた少年を送致する施設として、新たに少年観護所が設置され、少年の資質鑑別を行うための少年鑑別所が附置された。少年観護所と少年鑑別所は、25年に統合されて少年保護鑑別所となり、27年には名称が変更されて少年鑑別所となったが、審判決定前の科学的調査を重視し、少年鑑別所や家庭裁判所調査官制度を設けたことは、現行少年法の大きな特色の一つであった。その後、52年には、少年院における処遇を短期処遇と長期処遇とに分けることなどを盛り込んだ少年院運営改善に関する方策が実施された(少年院100年のあゆみについては、コラム8参照)。

保護観察の新法制は、少年法の施行よりやや遅れて成立し、昭和24年から犯罪者予防更生法(昭和24年法律第142号)が施行された。旧少年法の少年保護司の観察は保護観察所の保護観察に改められ、保護観察の対象は、家庭裁判所の決定により保護観察に付された者、少年院から仮退院を許されている者、仮出獄を許されている者、18歳に満たないとき懲役又は禁錮につき刑の執行猶予の言渡しを受けて猶予中の者の4種類となった。なお、その後の28年及び29年、2度にわたり刑法の一部が改正され、18歳以上で刑の執行を猶予された者にも保護観察を付することができることとなり、更にその範囲が拡大された。また、52年には、激増する道交違反保護事件の少年の処遇として、交通短期保護観察制度が全国的に開始された。

(2)平成期における主な動き

平成期に入ると、少年による凶悪重大事件が相次いで発生するなどしたため、少年事件の処分及び審判手続の適正化並びに被害者等の保護の必要性等が認識されるようになり、法改正の気運が高まった。こうしたことを背景に、平成12年に約半世紀ぶりの大規模な改正が行われるに至り、同年11月に少年法等の一部を改正する法律(平成12年法律第142号)が成立し、13年4月に施行された。同法による改正は、<1>少年事件の処分等の在り方の見直し、<2>少年審判の事実認定手続の適正化、<3>被害者等への配慮の充実の三点を柱としている。このうち、少年事件の処分等の在り方の見直しについては、刑事処分可能年齢を16歳以上から14歳以上に引き下げ、少年院において懲役又は禁錮の刑の執行ができることとされたほか、故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪の事件であってその罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては、原則として検察官に送致する決定をしなければならないこととされた(いわゆる原則逆送)。また、家庭裁判所による保護者に対する訓戒・指導等の措置等についても定められた。少年審判の事実認定手続の適正化については、裁定合議制度の導入、検察官及び弁護士である付添人(国選付添人)が関与する審理の導入、観護措置期間の延長、抗告受理申立制度の導入、保護処分終了後における救済手続の整備がなされた。

平成19年5月には、当時の少年非行の状況に適切に対処するため、少年法等の一部を改正する法律(平成19年法律第68号)が成立し、同年11月に施行された。同法により、<1>触法少年に係る事件の調査手続が整備され、<2>14歳未満(おおむね12歳以上)の少年についても、家庭裁判所が特に必要と認める場合には少年院送致が可能となり、<3>保護観察の保護処分を受けた者に対する指導を一層効果的にするため、保護観察の保護処分を受けた者が遵守事項を守らなかった場合の措置が設けられるなどするとともに、<4>一定の重大事件について、少年の身柄を少年鑑別所に収容する観護措置が採られている場合に、家庭裁判所が職権で少年に弁護士である国選付添人を付することができる制度が導入された。

平成20年6月には、犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)等を踏まえ、少年審判における被害者等の権利利益の一層の保護を図るため、少年法の一部を改正する法律(平成20年法律第71号)が成立し、被害者等の申出による意見の聴取の対象者の拡大や被害者等による少年審判傍聴制度の導入等が行われた。

平成26年4月には、少年審判手続のより一層の適正化及び少年に対する刑事事件における科刑の適正化を図るため、少年法の一部を改正する法律(平成26年法律第23号)が成立し、同法により、不定期刑を科することとなる事件の範囲の拡大、不定期刑の長期と短期の上限の引上げ、犯行時18歳未満であったことにより無期刑をもって処断すべきところを有期刑を科する場合における刑の上限の引上げ等がなされた。また、検察官が少年審判に関与することができる事件及び少年に弁護士である国選付添人を付することができる事件の範囲が、それぞれ、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件にまで拡大された。

他方、少年法以外の動きとして、平成9年には、児童福祉法等の一部を改正する法律(平成9年法律第74号)が成立し(10年4月施行)、教護院について、児童自立支援施設に名称が変更されるなどした。

平成19年6月には、更生保護の基本的な枠組みを定めていた犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法(昭和29年法律第58号)の内容を整理統合し、新たな一つの法律とした更生保護法(平成19年法律第88号)が成立し、20年6月に全面施行された。これに伴い、犯罪者予防更生法及び執行猶予者保護観察法は廃止され、更生保護法では、<1>目的規定において、再犯及び再非行をなくすことを明記し、<2>遵守事項の内容を整理し、充実させるとともに、特別遵守事項の付加・変更を可能とし、<3>生活環境の調整の規定を整備し、<4>被害者等の意見等聴取制度と心情等伝達制度を新設し、<5>保護観察官と保護司の役割についての規定が整備されるなどした。

平成26年6月には、少年院法(平成26年法律第58号)及び少年鑑別所法(平成26年法律第59号)が成立し(27年6月施行)、これまで旧少年院法の一部において規定されていた少年鑑別所については、新たに独立した法律において規定されることとなった。これらの法律によって、<1>少年院における矯正教育の基本的制度の法定化及び社会復帰支援の実施並びに少年鑑別所機能の強化による再非行防止に向けた取組の充実、<2>少年の権利義務関係・職員の権限の明確化、保健衛生・医療の充実及び不服申立制度の整備による適切な処遇の実施、<3>施設運営の透明性の確保による社会に開かれた施設運営の推進が図られることとなった。

(3)令和期における主な動き

令和3年5月、少年法等の一部を改正する法律(令和3年法律第47号)が成立し、4年4月から施行された。同法により、18・19歳の者は「特定少年」として、17歳以下の少年とは異なる特例が定められるなど、所要の規定が整備された(詳細については、第3編第2章第1節1項参照)。