前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

令和5年版 犯罪白書 第2編/第4章/第3節/コラム05

コラム5 知的障害受刑者処遇・支援モデル事業

令和2年度に法務省矯正局が実施した特別調査により、全国で1,345名の知的障害又はその疑いがある受刑者がおり、そのうち療育手帳を取得している者は414名(30.8%)であることが判明した。また、平成24年に法務総合研究所が実施した調査(法務総合研究所研究部報告52)においても、知的障害又はその疑いがある受刑者は、入所受刑者総数と比べて、再犯期間が短い者の構成比が高く、平均入所度数も多いことなどが明らかになっており、再犯を防止する上で支援の充実化が望まれていた。

そこで、令和4年10月から、刑事施設では全国で唯一の社会復帰支援部門が設置され、社会福祉関係機関との連携実績のあった長崎刑務所において、九州各県所在の刑事施設から知的障害又はその疑いのある受刑者50名程度を集約・収容し、障害者福祉の専門的知見を有する社会福祉法人(南高愛隣会)と業務委託契約を締結し、知的障害受刑者処遇・支援モデル事業を開始した。

この事業では、在所中から出所後の生活安定に向け一貫性のある処遇・支援を実施し、出所した後もそれぞれの帰住先において息の長い寄り添い型の福祉サービスに移行できる体制の構築を目指し、<1>特性に応じたアセスメントと処遇計画の立案、<2>処遇計画に基づく訓練・指導、<3>療育手帳等の取得に向けた調整、<4>息の長い寄り添い型支援を可能とする調整の四つの取組を行っている。四つの取組の詳細は以下のとおりである。

1 特性に応じたアセスメントと処遇計画の立案

対象者と個別に面接を行ったり、対象者の様子を観察したり、各種記録を調査したりして、職業面や生活面からアセスメントを行い、出所後の社会生活も見据えて、処遇計画を立案する。

2 処遇計画に基づく訓練・指導

就労意欲、協調性やコミュニケーション能力の向上を図るための農園芸作業、社会生活を見据えたスキルを身に付けさせるための対人関係プログラムや生活スキルアップ学習等を行う。

3 療育手帳等の取得に向けた調整

出所後に必要となる療育手帳等の在所中の取得に向け調整・手続を行う。調整に際し、対象者に障害の自覚が乏しい場合には、障害受容に向けたカウンセリングを実施する。

4 息の長い寄り添い型支援を可能とする調整

対象者の意欲・能力に応じ、一般企業や福祉事業所での就業を目指して就労支援を実施し、又は福祉的支援を要する者には必要なサービスへの引継ぎを行う。令和5年1月、モデル事業の取組推進のため、長崎刑務所所在地の地方公共団体である長崎県及び諫早市と長崎刑務所との間で、地域連携協定を締結した。

また、令和5年1月、矯正局と日本福祉大学との間で効果検証に関する連携協定が締結された。この事業の効果を検証し、得られた知見をその後の知的障害又はその疑いがある受刑者の処遇にいかしていくことが求められる。その効果によっては、全国的な展開についても考えられよう。

このモデル事業に限らず、外部の有識者や専門家と協力し、その知見を積極的に取り入れることで、受刑者処遇を進化させ、一層の改善更生・再犯防止に努めることが求められていると言えるであろう。