受刑者の処遇は、刑事収容施設法に基づき、受刑者の人権を尊重しつつ、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを目的として行う。その流れは、2-4-3-1図のとおりである。
受刑者の処遇の中核となるのは、矯正処遇として行う作業(次項参照)、改善指導及び教科指導(本節3項参照)である。矯正処遇は、個々の受刑者の資質及び環境に応じて適切な内容と方法で実施しなければならない(個別処遇の原則)。
そのため、各刑事施設では、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用し、受刑者の資質及び環境の調査(処遇調査)を行っている。また、新たに刑が確定した受刑者で、26歳未満の者及び特別改善指導(本節3項(2)参照)の受講に当たり特に調査を必要とする者等には、調査センターとして指定されている特定の刑事施設で精密な処遇調査が行われている。また、受刑者の再犯の可能性等を客観的、定量的に把握するために開発を進めている受刑者用一般リスクアセスメントツール(Gツール)のうち、一部機能の運用を開始し、原則として、全受刑者を対象に、刑の執行開始時に行う処遇調査においてGツールを実施し、それによって得られる結果や情報を処遇の参考としている。
刑事施設では、刑の執行開始時に処遇調査(調査センターでの処遇調査を含む。)を行い、その調査結果を踏まえ、受刑者に処遇指標を指定する。処遇指標は、矯正処遇の種類・内容、受刑者の属性及び犯罪傾向の進度から構成される。処遇指標の区分及び令和4年末現在の符号別の人員は2-4-3-2表のとおりである。処遇指標は、その指定がなされるべきものは、重複して指定され、処遇指標を指定されることで、受刑者の収容される刑事施設と矯正処遇の重点方針が定まる。令和4年9月からは、若年受刑者に対する処遇の充実のため、新たに女性の若年受刑者に対する精密な処遇調査を行う調査センターを美祢社会復帰促進センターに設置したほか、受刑者の属性に新たな属性を追加するなどの一部改正がなされた処遇指標による運用が開始された。
受刑者には、刑の執行開始時の処遇調査の結果に基づいて、矯正処遇の目標並びにその基本的な内容及び方法(例えば、具体的にどのような方法や期間・回数で薬物依存離脱指導を行うかなど)が処遇要領として定められ、矯正処遇はこの処遇要領に沿って計画的に実施される。
また、矯正処遇の進展に応じて、定期的に又は臨時に処遇調査を行い、その結果に基づき、必要に応じ処遇指標及び処遇要領を変更する。
受刑者の自発性や自律性を涵(かん)養するため、受刑者処遇の目的(改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成)を達成する見込みが高まるに従い、順次、規律・秩序維持のための制限を緩和することとし、その制限が緩和された順に第1種から第4種までの区分を指定し、定期的に、及び随時、前記の見込みを評価し、その評価に応じて、制限区分の指定を変更している。各区分に指定された受刑者の制限の内容は、第4種では、原則として居室棟内で矯正処遇等を行うこと、第3種では、主として刑事施設内の居室棟外(工場等)で矯正処遇等を行うこと、第2種では、刑事施設外での矯正処遇等が可能となること、第1種では、居室に施錠をしないことなどである。令和5年4月10日現在、刑事施設本所74庁並びに刑務支所8庁及び大規模拘置支所4庁(札幌、横浜、さいたま及び小倉)合計86庁の施設における受刑者の制限区分別人員は、第1種287人(0.8%)、第2種5,553人(15.8%)、第3種2万4,985人(71.1%)、第4種684人(1.9%)、指定なし3,608人(10.3%)であった(法務省矯正局の資料による。)。
また、受刑者に改善更生の意欲を持たせるため、刑事施設では、定期的に受刑態度を評価し、良好な順に第1類から第5類までの優遇区分に指定し、良好な区分に指定された受刑者には、外部交通の回数を増やしたり、自弁(自費購入又は差入れを受けること。以下この章において同じ。)で使用できる物品の範囲を広げたりするなどの優遇をした処遇を行っている。令和5年4月10日現在、前記86庁の施設における受刑者の優遇区分別人員は、第1類751人(2.1%)、第2類5,988人(17.1%)、第3類1万5,584人(44.4%)、第4類2,868人(8.2%)、第5類2,698人(7.7%)、指定なし7,228人(20.6%)であった(法務省矯正局の資料による。)。
なお、受刑者の自発性や自律性を涵(かん)養し、社会適応性を向上させ、その改善更生及び円滑な社会復帰を目指すため、開放的施設として6施設(旭川刑務所西神楽農場、網走刑務所二見ヶ岡農場、市原刑務所、広島刑務所尾道刑務支所有井作業場、松山刑務所大井造船作業場及び鹿児島刑務所(農場区))が指定されている。
受刑者は、受刑者処遇の目的を達成する見込みが高く、開放的施設で処遇を受けているなど、一定の要件を備えている場合において、円滑な社会復帰を図る上で、釈放後の住居又は就業先の確保、家族関係の維持・調整等のために外部の者を訪問し、あるいは保護司その他の更生保護関係者を訪問するなどの必要があるときに、刑事施設の職員の同行なしに、刑事施設から外出し、又は7日以内の期間で外泊することを許されることがある。令和4年度の実績は、外出18件、外泊0件であった(法務省矯正局の資料による。)。