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令和5年版 犯罪白書 第2編/第4章/第3節/コラム04

コラム4 若年受刑者に対する処遇の充実

刑事施設においては、法制審議会による諮問第103号に対する答申(令和2年10月)を踏まえ、若年受刑者の特性に応じた処遇の充実が図られてきているところ、本コラムでは、令和4年版犯罪白書コラム2において取り上げた「若年受刑者ユニット型処遇」(4年9月運用開始)に引き続き、「若年受刑者少年院転用型処遇」(5年11月運用開始。以下「少年院転用型処遇」という。)について紹介する。

1 「少年院転用型処遇」の基本的枠組み

少年院転用型処遇においては、特に手厚い処遇が必要な者について、少年院と同様の建物・設備を備えた施設に収容し、社会生活に必要な生活習慣、生活技術、対人関係等を習得させるための指導を中心とした処遇を実施することとされており、以下の基本的枠組みが定められている。

(1)少年院を転用した刑事施設に収容し、少年院の処遇環境を活用した少人数の寮単位での処遇を実施する。

(2)少年院の知見を活用し、個々の受刑者の特性に応じたきめ細かな矯正処遇、社会復帰支援を展開する。

(3)刑務官、教育専門官、調査専門官、福祉専門官等、多職種の職員が高密度に連携する。

2 対象者

おおむね26歳未満で、犯罪傾向の進んでいない男子受刑者のうち、知的障害、情緒障害若しくは発達障害を有し、又はこれらに準ずる者であって、社会適応のための訓練を要する者等を対象者として選定する。

以上が少年院転用型処遇の概要であるが、対象施設となった市原青年矯正センターは、元々は市原学園という少年院であった建物を転用していることから、建物・設備は、一般の刑事施設とは大きく異なる半開放的な処遇環境となっており、少年院ならではの寮舎の構造は更生的風土を醸成するものである。

市原青年矯正センター外観【法務省矯正局提供】
市原青年矯正センター外観【法務省矯正局提供】

また、実施される処遇の内容については、若年受刑者ユニット型処遇における「対話ベース・モデル」に準じたものとされ、<1>明るく規則正しい環境の下、受刑者との信頼関係の構築に努めつつ、受刑者の特性、社会復帰上の課題等に応じたきめ細かな矯正処遇を科学的・計画的に実施すること、<2>刑務官、教育専門官、調査専門官、福祉専門官、就労支援専門官、作業専門官、医療職等の多職種の職員が協働し、受刑者の特性等に応じた矯正処遇等を実施すること、<3>更生保護官署を始めとする関係機関との連携を含め、受刑者の出所後の生活設計や進路選択の意向を踏まえた社会復帰支援の実施に配意するものとすることが、基本的方針とされている。

今回対象となる受刑者については、これまでも手厚い処遇が実施されてきたところではあるが、新たに整えられた環境及び方針の下で、集団で行う矯正処遇と並行して、個別面接や日記指導、生活状況等に応じた個別課題の選定など、個に応じた処遇にも重点が置かれることとなる。少年院において培われてきた知見を最大限に活用し、若年であることや各々の有する障害の特性等を踏まえたきめ細かな改善指導、教科指導、作業・職業訓練等が展開されていくことが期待される。

さらに、社会復帰支援の側面においては、個々の障害特性等に応じ、関係機関との早期かつ緊密な連携の下に支援を進めていくことに加え、新たに、出所者本人又は出所者の支援に関係する者(引受人、親族、雇用主、福祉施設の職員、医療機関の職員等)から出所後の対人関係、就労等に関して相談を受け付けることについての体制も整えられることとなった。少年院においては、少年院法の規定に基づき、退院・仮退院した者やその保護者等から相談を求められた場合において、少年院の職員がその相談に応じてきたところであり、この点においても、少年院において培われてきた知見が生かされることが期待される。関係機関との連携の体制や出所者等からの相談に応じる体制が構築されることなどにより、知的障害、情緒障害又は発達障害を有する若年受刑者に対する処遇について、施設内処遇から社会内処遇へ円滑に移行し、また、その充実化が図られ、促進されていくことが期待される。

多職種の職員による打合せの様子【法務省矯正局提供】
多職種の職員による打合せの様子【法務省矯正局提供】