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3 主要罪種別考察 III-3表は,昭和三〇年および同四〇年の少年刑法犯検挙人員数を主要罪種別に示し,成人のそれと対比して少年の罪種別構成比率をみたものである。これによると,昭和三〇年には少年の割合のとくに高い罪種は,強かん四五・八%,強盗二九・八%,窃盗二六・五%などであり,とくに低い罪種は,詐欺六・五%,横領一〇・一%,殺人一〇・五%などである。そして,全刑法犯検挙人員に対する少年刑法犯検挙人員総数の割合は一八・二%であった。つぎに,昭和四〇年についてみると,総数で少年の割合が二七・〇%であることがまず目につく。他方,割合のとくに高い罪種として,恐かつ五九・二%,強かん五〇・八%,窃盗四八・五%,強盗四七・四%などがある。詐欺,横領,殺人などは,昭和三〇年に比してあまり差がない。要するに,恐かつ,強かん,窃盗,強盗などの罪種については,各検挙人員総数中の約半数またはそれ以上が少年によって行なわれていることが明らかである。これは,注目すべき事実である。また,これを検挙人員数という点からみると,昭和三〇年に比較して,昭和四〇年に著しい増加を示しているのは,窃盗および粗暴犯(恐かつ,脅迫,暴行および傷害の四種の罪をいう。以下,この項において同じ。)であって,前者は約三三,〇〇〇人,後者は約二四,〇〇〇人増加している。最近,少年犯罪の増加が指摘されているが,その増加のうちの大多数が,この種の罪の増加によってもたらされたものであることは明らかである。そこで,以下,窃盗および粗暴犯の二種について,それぞれ,その動向の詳細をみるとともに,行為の態様ならびに行為者の属性上,二,三の点を考察することにする。
III-3表 主要罪種別全刑法犯検挙人員に対する少年の割合(昭和30,40年) なお,以下の考察のために,犯罪統計書および司法統計年報少年編のほか,総理府中央青少年問題協議会および警察庁保安局防犯少年課の共同による「少年非行の実態に関する調査結果報告書」(以下,警察庁特別報告という。)ならびに法務総合研究所および法務省刑事局の共同による「少年非行実態調査」(以下,法務省特別調査という。)の両者を資料として用いることがあるので,両調査について簡単に説明を加えておく。警察庁特別報告は,原則として昭和三九年中に発生し,検挙補導された少年刑法犯事件および昭和三九年中に検挙補導された非行少年(道交違反少年を除く。)を調査対象の母集団とし,層化抽出法によって全国で八五市(区)町村を地域標本に選定して当該地域の全数調査を行なったものであって,少年事件については二三,二二件,非行少年については一一,六五一人が直接の分析対象となっている。法務省特別調査は,昭和四一年一月から同年三月までの間に,東京,横浜,大阪および神戸の四地域の地方検察庁で受理した少年事件(本庁刑事部少年係検察官の受理した,簡易送致事件を除く少年事件であって,業務上過失致死傷事件を除く刑法犯ならびに暴力行為等処罰に関する法律,売春防止法,麻薬取締法,覚せい剤取締法および銃砲刀剣類所持等取締法の各特別法違反事件のいづれかに該当するもの)を対象として,無作為抽出法によって実施されたものであって,分析対象は,八四五人である。なお,この調査では,後述の粗暴犯少年のなかに,暴力行為等処罰に関する法律違反にかかる少年および銃砲刀剣類所持等取締法違反少年を含んでいることをあらかじめお断りしておく。(一) 窃盗少年 III-4表は,警察が窃盗で検挙した少年の数について,最近十年間の推移を昭和三〇年を一〇〇とした指数であらわしている。これによると,窃盗少年の数は,おおむね漸増の傾向がみられ,昭和四〇年には一五七の指数を示している。警察庁特別報告によれば,このように増加した少年の窃盗事件について一般的にみられる特色として,つぎのことがあげられている。
III-4表 窃盗少年検挙人員の推移(昭和30〜40年) [1] 少年の窃盗事件は,その九七・二%までが少年の居住地と同じ府県または同じ市区町村内で行なわれている。 [2] 店舗,デパート,マーケットなどにおける万引が最も多く,全体の三八・四%に及んでおり,これについで空巣が多い(昭和三九年中の成人事件をも含めた全窃盗事件の手口中,万引は一三・三%である。)。 [3] 少年の窃盗が行なわれる時間は,一五時から一八時までの間が最も多く三〇・七%,ついで一二時から一五時までの間が二二・三%,一八時から二一時までの間が一五・〇%となっている。 [4] 少年の窃盗事件一件当りの被害額では,五〇〇円未満が最も多く,全体の三一・三%を占めており,ついで一,〇〇〇円以上三,〇〇〇円未満が二一・〇%,五〇〇円以上一,〇〇〇円未満の一四・二%などである。一万円以上の事件も合計すると,全体の二三・二%ある(昭和三九年の成人事件をも含めた全窃盗事件中被害額が一万円以上のものは三六%である。)。 [5] 少年の窃盗事件による被害品目は,現金および有価証券が最も多く,一七・二%を占めており,これについで,被服,織物類一五・五%,雑貨類一二・九%となっている。 [6] 少年が窃盗によって得た賍物の処分状況をみると,大部分が自己所持または自己費消しており,質入,売却などはきわめて少ない。 [7] 検挙補導された少年の窃盗事件の六四・二%が被害届の出ていない未届事件である。 右のように,少年の窃盗行為は,大多数が比較的せまい行動圏のなかで行なわれ,同年中の成人事件をも含めた全窃盗事件と比較した場合,その手口,被害額などの点で,やはり少年事件らしい特徴があらわれているように思われる。 しかしながら,窃盗行為は,その手口などがたいして悪質と思われないものであっても,反覆して犯されやすく,いわば,習癖化する可能性を伴う。その一つの参考資料をあげると,III-5表は,全国の家庭裁判所で昭和三九年中に処理した一般保護事件中の窃盗少年について前回処分別を示したものであるが,これによると,前回処分「あり」という者が全体の二三%という率を占めており,さしあたり,前回処分の内容について詳細が不明のため,断定は困難であるが,これは,窃盗が反覆されていることを示すものではないかと疑われる。これに関連して法務省特別調査の結果をみると,調査対象となった窃盗少年五一一人のうち,警察の補導歴のある者は四一・五%であり,補導歴のある者のうち六一・一%が二回以上補導されている。六回以上という者も二・六%みられる。また,四六・四%は一四歳未満の時期に最初の補導を受けている。さらに,右五一一人のうち二八・五%の者が家庭裁判所で前回処分を受けている。しかるに,これらの少年について家庭裁判所が行なった前回処分の内容は,大多数が不処分,不開始であって,少年院に送致された者は処分を受けた者の一七・一%,保護観察に付された者は同二三・三%となっている。 III-5表 窃盗少年の前回処分の有無(昭和39年) つぎに,窃盗少年の年令その他の属性について述べておく。まず,司法統計年報により年令別にみると,III-6表に示すように,最も多い年令層は一四歳であって,全体の二七・五%を占めている。ついで,一五歳が二三・六%,一六歳が一八・四%などの順に多い。一般的にいえば,年令が高くなるにしたがって窃盗少年は減少している。 III-6表 窃盗少年の年令(昭和39年) また,法務省特別調査によれば,つぎのことが判明している。[1] 窃盗少年のうち六六・三%が実父母を有し,片親の者および両親の全くない者は,合計しても二二・七%にすぎない。 [2] 保護者の職業は,工員などの筋肉労働者が最も多くて三一・五%,ついで事務的職業の一六%,販売の一一・五%,農漁業の七・八%,サービス業の七%などとなっている。ただし,これは,調査対象となった地域の産業構成をもある程度反映していると思われる。 [3] 少年の学歴は,中学校在学中の者が最も多くて三八%,ついで,中学校卒業のみの者三三・一%,高等学校在学中の者一五・三%の順に多い。そして,これらの学歴者が全体の八六%強を占めていることが注意される。 [4] 有職少年は全体の二七%であるが,それらは,主として,工員,店員,職人,運転助手などの職種に従事している少年である。 ちなみに,右の特別調査は,主として大都市の犯罪少年を対象としたものであり,この結果から早急に全般的な断定を下すことはおそらく失当であることを念のため付言しておきたい。 (二) 粗暴犯少年 III-7表は,警察が検挙した刑法犯少年のうち,粗暴犯少年について,罪名別人員および昭和三〇年を一〇〇とした指数を全少年刑法犯検挙人員のそれと対比し,最近十年間の推移をみたものである。これによると,粗暴犯少年の数は,おおむね増加してきており,とくに,昭和三四年に四万人を越えて以来,毎年四万人台の検挙人員を保ち続けている。罪名別でに,暴行および恐かつの二種の・粗暴犯の増加がいちぢるしく,昭和四〇年の指数は,それぞれ三五三および三三〇となっている。
III-7表 粗暴犯少年検挙人員の推移(昭和30〜40年) 警察庁特別報告によれば,少年の粗暴犯事件にみられる特色は,つぎのとおりである。[1] 発生場所では,「路上」が圧倒的に多く,四四・三%である。そして,この「路上」についで,「学校」が一二・一%をしめている。 [2] 少年恐かつ事件の被害は,現金が六一・〇%で最も多く,被害額は,一,〇〇〇円未満が過半数である。 [3] なんらかの犯罪供用物が使用されているのは,一三・四%にすぎないが,使用されたもので最も多いのは,刀剣以外の刃物類である。 また,法務省特別調査によれば,つぎの点が判明している。 [1] 居住地と同一市町村内を非行地とする者は,七三・三%であって,他府県にまたがる者は,一一・二%である。 [2] 自動車を犯罪手段などとしている者は,五・五%にすぎない。 [3] 共犯者のある者は,五二・一%であって,このうちの七四・八%は,三人以下の共犯事件である。共犯時の役割が同列という者が七一・九%である。共犯者の年令は,一八歳未満が最も多く,七二・六%である。 [4] 被害者の七九・二%は,男子であって,年令分布は一〇歳代が四四・四%,二〇才歳が二六・三%などとなっており,青少年に被害者が多い。犯人である少年と被害者との関係は,「無関係」な者が五八・七%と多いが,「顔見知り」,「友人」なども,二五・五%いる。治療を要する傷害をこうむった者は,全体の三五・九%であるが,その大部分は,一か月以内の治療日数である。 さらに,司法統計年報と法務省特別調査結果の示すところを述べよう。 III-8表は,粗暴犯少年について,罪名別,年令別の構成比を示しているが,これによると,恐かつが高率なのは,一六から一七歳までの中間年令層であって,傷害については,一七から一九歳までの年令層が高率となっている。とくに,年長少年による粗暴犯の半数近くが傷害によって占められていることは注目される。傷害および脅迫の二者は,むしろ成人に多くみられる犯罪行為であって,この意味では,年長少年の粗暴犯行為は,むしろ成人に近いということができる。 III-8表 粗暴犯少年の年令別(昭和39年) つぎに,家庭条件を昭和三九年の家庭裁判所の一般保護少年についてみると(III-9表),粗暴犯少年の保護者の生活程度は,「ふつう」が六八%である。貧困および要扶助家庭は,両者合わせて二七・二%であるが,これは,脅迫,恐かつを犯した少年の場合に高率である。ちなみに,法務省特別調査によれば,粗暴犯少年のうち,実父母のある者は六六%で,片親の者または両親のない者は一一四・三%であり,また,保護者の職業は,工員,労働者が最も多く三〇・五%で,ついで事務従事者一四・三%,販売一三・一%,農漁業一一・二%などとなっている。III-9表 粗暴犯少年の保護者の生活程度(昭和39年) III-10表によって,身分別にみると,最も多いものは,有職少年であって四六・七%,ついで,在学少年二七・五%,無職少年一四・七%となっている。前述した窃盗少年と比べると,在学少年の割合が少ないことが注意される。そして,有職少年は,傷害および脅迫,在学少年は,暴行および恐かつ,無職少年は,恐かつおよび脅迫を犯す割合が高い。これに関連する法務省特別調査では,かれらの学歴は,四七・五%が中学校卒業のみの者であって,有職少年の半数近くは工員である。III-10表 粗暴犯少年の身分別(昭和39年) つぎに,交友関係をみると,司法統計では,不良交友「あり」という者が全体の五二・七%を占めており,注意される。また,法務省特別調査の対象においても,不良集団に加入している者は,二〇・五%みられるのであって,これは,粗暴犯少年の行為が,望ましくない仲間または集団から影響を受けていることを示すものと思われる。以上のように,粗暴犯少年は,環境上いくつかの問題性を持っているが,最後に,このような少年に対する家庭裁判所の前回処分の有無および警察の措置経過についてみよう。 III-11表は,粗暴犯少年に対する家庭裁判所の前回処分の有無を示したものである。これによると,前回処分ありという者が全体の三五・一%を占めている。ただし,その内容については,さしあたって明らかではない。他方,法務省特別調査によれば,警察の補導歴のある者は,全体の四六・七%であって,補導歴のある者のうち,四七・九%が二回以上補導されている。そして,四〇%が一四歳から一五歳までの間に初回補導を受けている。前回処分歴のある者のうち,少年院に送致された者は五・二%,保護観察は一六・九%にすぎない。そして,このたびの処理は,少年院送致一〇・八%,保護観察五七・九%,刑事処分五%となっている。前回処分の適否は,個々の事例について判断すべきであるので,何とも断定しかねるが,さしあたり,かなりの数にのぼる粗暴犯少年が,前回なんらかの処分をうけたのにもかかわらず,再び罪をおかしていることは留意を要するであろう。 III-11表 粗暴犯少年の前回処分の有無(昭和39年) |