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令和4年版 犯罪白書 第8編/第1章

第8編 犯罪者・非行少年の生活意識と価値観
第1章 はじめに

再犯防止は、刑事政策上の重要な課題であり、我が国において、国民の暮らしの安全・安心を確保するためにも、国の重要課題の一つである。「再犯防止に向けた総合政策」(平成24年7月犯罪対策閣僚会議決定)では、再犯の実態や対策の効果等を調査・分析し、更に効果的な対策を検討・実行することが重点施策として掲げられた。さらに、再犯防止推進法(28年12月施行)では、犯罪をした者又は非行少年若しくは非行少年であった者(以下、「犯罪をした者等」という。)に対する指導及び支援について、「犯罪をした者等の犯罪又は非行の内容、犯罪及び非行の経歴その他の経歴、性格、年齢、心身の状況、家庭環境、交友関係、経済的な状況その他の特性を踏まえて行うものとする。」(同法11条1項)と明記された上、「再犯防止推進計画」(29年12月閣議決定。第5編第1章2項参照)では、犯罪をした者等の特性に応じた効果的な指導の実施等が重点課題と位置付けられ、そのための取組として、犯罪をした者等の再犯の防止等を図る上で効果的な処遇の在り方等に関する調査研究を推進することとされた。したがって、犯罪者・非行少年の特性に応じた効果的な処遇の重要性がより一層高まっているところ、そのためには、犯罪・非行の動向等の客観的な指標だけでなく、本人の生活意識や価値観という主観面も含めてその者の特性を多角的に把握することが必要である。

法務総合研究所では、これまで平成2年、10年、17年及び23年に、少年鑑別所に観護措置によって入所した少年等を対象に、その生活意識と価値観に関する特別調査を行い(各年版犯罪白書に掲載)、令和3年には、一連の調査では第5回目となる特別調査を行った(以下、令和3年に行った特別調査を「今回の調査」という。)。前記のとおり、犯罪者・非行少年の生活意識や価値観を幅広く把握することの必要性が高まっていることも踏まえ、今回の調査では、その対象者の年齢層を限定せず、また、保護観察対象者まで調査対象を拡大し、犯罪・非行に至った原因や再犯・再非行にまつわる要因等について、主に、年齢層の違いによる比較、犯罪・非行類型の違いによる比較、犯罪・非行の進度の違いによる比較という観点から分析することとした。

本特集では、各種統計資料等に基づき、生活に深く関わる近年の社会情勢等の変化や、前記三つの観点からの犯罪・非行の動向等について概観するとともに、犯罪者・非行少年の生活意識と価値観という主観的要因を分析し、それらの相補的な視点から、その特徴、リスク要因、改善更生の契機、改善更生のためのニーズ等を明らかにすることを企図し、今後の再犯防止対策に資する効果的な処遇を検討する上で有益な基礎資料を提供することを目指した。

本編の構成は、以下のとおりである。

第2章においては、各種統計資料等に基づき、生活に深く関わる近年の社会情勢や国民の意識の変化を概観する。犯罪者・非行少年の特徴、犯罪・非行の動向等を分析するに当たって、その時々の社会情勢等は、国民の生活意識や価値観の形成に影響を及ぼすと考えられる。特に、近年は、少子高齢化、情報通信技術の発達等、生活意識や価値観の変化に大きな影響を与え得る社会情勢等の変動が激しく、年齢層の違いによる比較等に当たっては、それぞれの年齢層の価値観等を形成した当時の社会情勢等の背景事情も合わせて分析・検討することが必要である。そのため、同章においては、通信利用動向等の推移、ひとり親世帯数の推移など家族関係の変化、交友関係の変化、進学率等の学校生活の変化、就職率等の就労状況の変化、地域との関わりの変化、生活に対する満足度、悩みや不安等の日常生活・自分の生き方に関する意識の変化といった生活に深く関わる社会情勢等について、紹介する。

第3章においては、各種統計資料等に基づき、犯罪者・非行少年の年齢層別、犯罪・非行類型別及び犯罪・非行進度別に、刑事司法手続の各段階における犯罪・非行の動向等を概観する。これらの動向については、その一部が前編までに掲載されている。しかし、第4章で前記三つの観点から犯罪者・非行少年の生活意識と価値観という主観面についての分析を紹介するに当たって、同じ観点から犯罪・非行の動向等についても概観し、対比することが有益であると考え、年齢層別、犯罪・非行類型別及び犯罪・非行進度別にこれを紹介する。

第4章においては、今回の調査に基づき、主に、年齢層の違いによる比較、犯罪・非行類型の違いによる比較、犯罪・非行の進度の違いによる比較等を行い、それらの視点から犯罪者・非行少年の生活意識と価値観の違いを紹介する。

以上を踏まえ、第5章において、犯罪者・非行少年の実態と処遇の更なる充実に向けた課題や展望等について総括する。

なお、本編における犯罪・非行の類型は、8-1-1表のとおりであり、法務総合研究所において、殺人、傷害致死、強盗などを「重大事犯類型」に、傷害、暴行などを「粗暴犯類型」に、窃盗を「窃盗事犯類型」に、詐欺などを「詐欺事犯類型」に、強制性交等、強制わいせつなどを「性犯類型」に、覚醒剤取締法違反、麻薬取締法違反などを「薬物事犯類型」に、過失運転致死傷等、道路交通法違反などを「交通事犯類型」にそれぞれ分類し、これらの類型に含まれないものを「その他」としている。

8-1-1表 犯罪・非行の類型一覧
8-1-1表 犯罪・非行の類型一覧