特殊詐欺の犯行グループは,「主犯・指示役」を中心として,電話を繰り返しかけて被害者をだます「架け子」,自宅等に現金等を受け取りに行く「受け子」,被害者からだまし取るなどしたキャッシュカード等を用いてATMから現金を引き出す「出し子」,犯行に悪用されることを承知しながら,犯行拠点をあっせんしたり,架空・他人名義の携帯電話や預貯金口座等を調達する「犯行準備役」等が役割を分担し,組織的に犯行を敢行している。
確定記録調査対象者について,その役割に着目し,被害金の直接的な受取の有無,犯行への関与の在り方,犯行を指示する立場にあるかという観点から類型化すると,8-5-3-3図のとおりである。なお,類型化を行った結果,特殊詐欺の役割が不詳の者等が6人いたため,本節において,特殊詐欺の役割類型別で見るときは,これらの者を分析対象から除外した。
確定記録調査対象者(196人)を役割類型別に見ると,被害金を直接受け取る「受け子・出し子」が46.4%を占めた。被害金を直接受け取らない者については,物資の調達等により犯行を補助する立場である「犯行準備役」が15.8%,犯行を主導する立場のうち犯行を指示する立場にある「主犯・指示役」が9.7%,「架け子」が28.1%であった。
確定記録調査対象者の属性等を総数・役割類型別に見ると,8-5-3-4図のとおりである。
犯行時の年齢層を見ると,総数,「架け子」,「犯行準備役」及び「受け子・出し子」については,いずれも30歳未満の者が過半数を占め,次いで,30歳代の者,40歳代の者の順であったが,「主犯・指示役」においては,30歳代の者(57.9%)が半数を超え,次いで,30歳未満の者(31.6%),40歳代の者(10.5%)の順であった。また,50歳以上の者(7人)は,全員が「受け子・出し子」であった。
判決時の就労状況を見ると,無職の者(家事従事者を含む。以下この項において同じ。)の構成比は,「主犯・指示役」・「犯行準備役」については,それぞれ52.6%,45.2%である一方,「架け子」については,90.9%と顕著に高かった。
検挙時の婚姻状況を見ると,配偶者がいる者の構成比は,総数及び各役割類型のいずれについても10%台から20%台であり,「架け子」(13.0%)及び「受け子・出し子」(10.1%)は,総数(15.2%)を下回った。
検挙時の前歴を見ると,前歴を有しない者の構成比は,役割類型別では「主犯・指示役」(16.7%)が最も低く,「架け子」(32.1%)が最も高かった。また,同種のものを含む前歴(同種のみ,同種及び異種)を有する者の構成比を見ると,「犯行準備役」(21.4%)及び「主犯・指示役」(16.7%)は,「受け子・出し子」(5.9%)及び「架け子」(3.8%)よりも高かった。
検挙時の保護処分歴を見ると,総数及びいずれの役割類型においても,保護処分歴を有しない者の構成比が60%台から70%台を占めるが,「主犯・指示役」が61.1%と最も低かった。他方,役割類型別に保護処分歴を有する者が占める構成比を見ると,少年院送致歴を有する者の構成比は,「主犯・指示役」(27.8%)が最も高く,保護観察処分歴を有する者の構成比は,「架け子」(20.4%)が最も高かった。
検挙時の暴力団加入状況を見ると,総数では非加入の者の構成比(80.0%)が最も高く,次いで,準構成員・周辺者(11.0%),構成員(5.2%),元構成員等(3.9%)の順であった。役割類型別に構成員の構成比を見ると,「主犯・指示役」(23.5%)は,「犯行準備役」(7.7%)及び「架け子」(5.3%)よりも高く,「受け子・出し子」には,構成員がいなかった。また,役割類型別に構成員,準構成員・周辺者及び元構成員等の合計人員の構成比を見ると,「主犯・指示役」(47.1%)及び「犯行準備役」(46.2%)は,いずれも半数近くを占め,「受け子・出し子」(11.4%)及び「架け子」(7.9%)よりも顕著に高かった。
確定記録調査対象者が行った特殊詐欺の事件数(判決時に認定された事件のうち,特殊詐欺に該当する事件の総数をいう。なお,複数の被害者がいる事件は異なる事件として計上している。)別構成比を総数・役割類型別に見ると,8-5-3-5図のとおりである。「主犯・指示役」及び「架け子」については,事件数が5件以上の者の構成比が最も高く(それぞれ42.1%,43.6%),事件数が1件である者の構成比は最も低かった(それぞれ15.8%,5.5%)。他方,「受け子・出し子」及び「犯行準備役」においては,事件数が1件である者の構成比が最も高かった(それぞれ54.9%,45.2%)。
確定記録調査対象者について,それぞれが関与した特殊詐欺事件(確定記録調査に係るものに限らない。)のいずれかにおいて,他に果たした役割(複数ある場合は重複計上する。)を総数・役割別に見ると,8-5-3-6図のとおりである。役割別(同図<2>)では,「ア 主犯又は出し子・受け子の指示役」(19人)は,「リクルーター(架け子,受け子,出し子等を犯行グループに勧誘する役割)」(36.8%),「架け子」(15.8%),「受け子」(10.5%),「被害品運搬役」(10.5%),「出し子・受け子の見張り役」(5.3%),「道具調達役」(5.3%)の役割を果たしたことがある者がいた。「イ 架け子」(58人)及び「ウ 出し子又は受け子」(97人)は,総じて他に果たした役割がある者の割合は低いが,その中では,「リクルーター」の経験がある者の割合が最も高かった(前者は5.2%,後者は4.1%)。
確定記録調査対象者(報酬の有無が不詳の者を除く。)のうち共犯者がいる者(193人)について,報酬の有無を総数・役割類型別に見ると,8-5-3-7図<1>のとおりである。「主犯・指示役」及び「犯行準備役」の全員に報酬があり,「架け子」(96.4%)及び「受け子・出し子」(92.1%)のいずれも,報酬があった者の構成比が9割を超えた。
確定記録調査対象者(報酬を受け取った又は受け取る約束をしていた者のうち,報酬額が不詳の者を除く。)のうち共犯者がいる者(175人)について,報酬額(複数の事件がある場合は,各事件の報酬額の合計をいう。)別構成比を総数・役割類型別に見ると,8-5-3-7図<2>のとおりである。なお,報酬額は,裁判書等の資料から読み取ることのできる最低金額であり,確定記録調査対象者自身の供述等の証拠によることも少なくないと思われる点等に留意する必要がある。報酬額100万円以上の者の構成比は,「主犯・指示役」では42.9%,「架け子」では34.7%であり,「受け子・出し子」では2.4%にとどまった。他方,約束のみ(報酬を受け取る約束をしていたものの,実際には受け取っていないことをいう。)の者の構成比は,「受け子・出し子」では56.1%,「犯行準備役」では41.7%であった。
確定記録調査対象者(犯行の動機・理由が不詳の者を除く。)が特殊詐欺に及んだ動機・理由を総数・役割類型別に見ると,8-5-3-8図のとおりである。
特殊詐欺に及んだ動機・理由としては,総数及びいずれの役割類型についても,「金ほしさ」及び「友人等からの勧誘」の割合が突出して高かった。総数及び「受け子・出し子」は,「金ほしさ」の割合が最も高く(総数では66.1%,「受け子・出し子」では78.4%),「架け子」は,「友人等からの勧誘」の割合が最も高く(67.3%),「主犯・指示役」及び「犯行準備役」は,「金ほしさ」及び「友人等からの勧誘」の割合が同率で最も高かった(「主犯・指示役」では53.3%,「犯行準備役」では57.1%)。また,「友人等からの勧誘」は,「受け子・出し子」では23.9%であり,総数及び他の役割類型よりも低かった。
「金ほしさ」及び「友人等からの勧誘」を除くと,「主犯・指示役」では「所属組織の方針」の割合(13.3%)が他の役割類型よりも高く,「受け子・出し子」では「軽く考えていた」(10.2%),「だまされた・脅された」(8.0%),「生活困窮」の割合(6.8%)が他の役割類型よりも高かった。
確定記録調査対象者(背景事情が不詳の者を除く。)が特殊詐欺に及んだ背景事情を総数・役割類型別に見ると,8-5-3-9図のとおりである。
特殊詐欺に及んだ背景事情としては,総数及びいずれの役割類型においても,「無職・収入減」,「不良交友」及び「借金」の割合が高く,経済状況や交友状況が背景事情の多くを占めた。役割類型ごとに見ると,「主犯・指示役」,「架け子」及び「犯行準備役」は,「不良交友」,「無職・収入減」,「借金」の順に高く(「主犯・指示役」では順に68.8%,37.5%,12.5%,「架け子」では58.5%,49.1%,18.9%,「犯行準備役」では67.9%,25.0%,17.9%),「受け子・出し子」は,「無職・収入減」(70.7%)が顕著に高く,次いで,「借金」(26.8%),「不良交友」(22.0%)の順であった。