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令和3年版 犯罪白書 第8編/第3章/第1節/コラム8

コラム8 新型コロナウイルス感染症に関連する詐欺事犯

令和2年1月,日本国内で初めて,新型コロナウイルスの感染者が確認され,その後,我が国の社会,経済,国民生活の在り方は大きな変容を余儀なくされた。このコラムでは,新型コロナウイルス感染症に関連して発生した詐欺事犯について紹介する。

これまでも大規模自然災害や重大な社会的な事象が発生すると,人々の不安につけ込むような手口による詐欺の発生が報告されている。今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大でも,多くの国民が,自らや家族の感染,生活の変化,仕事や収入等に不安を感じている。すると,その不安につけ込んで現金等をだまし取ろうとする手口が確認された。令和2年初頭,感染予防のためマスクの需要が急激に高まり,全国的にマスクの供給が不足すると,マスクを確保したいという人々の焦りに乗じ,インターネット上に,マスクの販売を行う旨のサイトを開設し,マスクの在庫があるように装って注文を受け,代金をだまし取ったり,クレジットカード情報等を盗み取ったりする事案が報告された。その後も,給付金の支給等を始めとした種々の支援策やワクチンの接種に関連し,行政機関の職員等になりすまして現金等をだまし取ろうとする手口が報告されている。特殊詐欺を実行する犯罪組織は,新たな社会不安が発生すると,これを犯行に悪用しようとする傾向があるが,新型コロナウイルス感染症についてもその例外ではない。行政機関の職員を名乗る男から,同感染症関連の給付金の振込に通帳等が必要であるから,受取に人を向かわせるという電話を受け,不審に思った被害者からの通報により,警察官が受け子を逮捕したという事案が報告されている。同年における同感染症に関連した特殊詐欺の認知件数は55件,その被害額は合計約1億円であり,検挙件数・検挙人員は13件,16人であった(警察庁刑事局の資料による。)。

一方,新型コロナウイルス感染症の感染拡大により,多くの国民が生活や事業に影響を受けると,これを支援するために各種の給付金等を支給する制度が設けられた。これらの制度の中には,支援を必要とする者に迅速に支給を行うべく,必要書類を厳選して申請手続を簡素なものとするものもあった。すると,これに乗じて,給付金等をだまし取る者が現れた。例えば,持続化給付金制度は,同感染症の感染拡大に伴う営業自粛等により,特に大きな影響を受けている中小企業,個人事業者等に対し,事業の継続を支え,再起の糧となるべく,事業全般に広く使える給付金を給付することを目的とした制度であり,令和2年5月から3年2月までの間に約441万件の申請がなされ,約424万件の中小企業,個人事業者等に約5.5兆円の給付金が支給された。しかしながら,これらの申請の中には,事業を実施していないのにもかかわらず申請を行う,売上げを偽って申請する,売上減少の理由が同感染症の影響によらないのに申請に及ぶなどの不正行為に基づく申請が含まれることが判明した。その中には,自ら不正な申請を行うにとどまらず,友人や知人等に対して不正な申請を行うように勧誘するという例も見受けられた。同年8月26日現在,持続化給付金の給付要件を満たさないにもかかわらず誤って申請を行い受給したなどとして同給付金の自主返還の申出が行われた件数は,1万9,386件(返還済み件数・金額は,1万4,028件,約151億円)に及んでいる(中小企業庁長官官房の資料による。)。また,同年7月末現在の持続化給付金に係る詐欺の検挙件数・検挙人員は1,445件,1,703人であり,その立件額は合計約14億4,200万円に及んでいる(警察庁刑事局の資料による。)。

このほかにも,令和2年以降に発生した詐欺の中には,新型コロナウイルス感染症に起因して解雇や休業を余儀なくされるなどして生活困窮に陥り,これを背景に犯行をした者が含まれる可能性もある。法務総合研究所としては,このような同感染症と犯罪動向の関係について,今後も注視していくこととしたい。

【画像提供:中小企業庁長官官房】
【画像提供:中小企業庁長官官房】