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令和3年版 犯罪白書 第8編/第2章/第1節/2

2 詐欺と関係が深い特別法

詐欺に類似した方法により,相手に損害を与えながらも,相手を「欺い」たことを立証することの困難さから詐欺罪の適用が困難な事例もある。そのような被害の発生の防止に資する特別法の一例として,以下の法律がある。

(1)特定商取引法等

特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号。平成13年6月1日前の題名は訪問販売等に関する法律。以下(1)において「特定商取引法」という。)は,特定商取引(訪問販売,通信販売及び電話勧誘販売に係る取引,連鎖販売取引,特定継続的役務提供に係る取引,業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引をいう。)を公正にするとともに購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより,購入者等の利益を保護し,あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にして,国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものである。昭和51年の制定時には,契約内容を明確化し,後日紛争が生じることを防止する観点から,訪問販売業者等の書面交付義務が規定され,同義務違反(不交付及び虚偽記載書面の交付)に係る罰則が設けられた。昭和63年法律第43号による改正では,訪問販売業者等に対する禁止行為として,訪問販売等に係る売買契約等の締結について勧誘するに際し,又は同売買契約等の解除等を妨げるため,当該売買契約等に関する事項であって,顧客等の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものについて,不実のことを告げる行為(以下(1)において「不実告知」という。)等を禁止する規定が整備され,これらの規定に違反した場合に係る罰則が設けられた(昭和63年11月施行)。その後,累次の改正により,規制対象となる取引の追加,罰則の強化(法定刑の引上げ,懲役刑及び罰金刑の併科)がなされていったほか,不実告知等の対象となる事項が具体的に列挙され,明確化されるなどした。最近では,令和3年法律第72号による改正により,通信販売における詐欺的な定期購入商法対策として,通信販売における解除等を妨げるための不実告知や,契約の申込みを受ける最終段階の映像面等において定期購入でないと誤認させる表示等を禁止する規定が整備されるとともに,これらの規定に違反した場合に係る罰則が新設されるなどした(令和4年6月までに施行)。

特定商取引法と同様に,取引の相手方等に対し,一定の事項について,不実のことを告げる行為等を禁止行為として規定し,これらの規定に違反した場合に係る罰則を設けている法律としては,宅地建物取引業法(昭和27年法律第176号),旅行業法(昭和27年法律第239号)等がある。

(2)不正競争防止法等

不正競争防止法(平成5年法律第47号)は,事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ,国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものである。不正競争防止法では,不正の目的をもって他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用して他人の商品等と混同・誤認を生じさせる行為,商品の原産地等について誤認を生じさせるような虚偽の表示をする行為,他人の著名な商品等表示に係る信用等を利用して不正の利益を得る目的で,自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一又は類似のものを使用する行為等について,罰則を設けている。

不正競争防止法と類似の罰則を置く法律としては,食品,添加物,器具又は容器包装に関し,公衆衛生に危害を及ぼすおそれがある虚偽の又は誇大な表示等をする行為等について罰則を設けている食品衛生法(昭和22年法律第233号),登録商標以外の商標を使用する場合において,その商標に商標登録表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為等について罰則を設けている商標法(昭和34年法律第127号)等がある。