平成期における大きな社会変化の一つとして,インターネットの普及が挙げられる。平成9年から19年までの10年間で,インターネットの利用者数(推計)は1,155万人から8,811万人まで,インターネットの人口普及率(推計)は9.2%から69.0%まで増加した(総務省の「平成20年版情報通信白書」による。)。また,22年頃からスマートフォンの普及が始まり,29年時点で,20歳代・30歳代のそれぞれ9割以上がインターネットの接続端末としてスマートフォンを使用している(総務省の「平成30年版情報通信白書」による。)。
今や,インターネットの用途は,電子メールの送受信,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の利用,地図・交通情報の提供サービスの利用,辞書・事典サイトの利用,商品・サービスの購入・取引,金融取引,ラジオ・テレビ番組・映画番組等のオンデマンド配信サービスの利用等多様化し,国民生活に欠かせないものとなっている。
また,インターネットの普及は,個人間のつながりにも影響を及ぼした。その象徴の一つと言えるのが,「ソーシャルメディア(ブログ,ソーシャルネットワーキングサービス(SNS),動画共有サイトなど,利用者が情報を発信し,形成していくメディアをいう。)」の登場である。ソーシャルメディアの利用により,友人関係等に広がりや深まりが生じる一方で,個人が容易に他人とコミュニケーションを取り合うことができるようになったことで,人間関係上のトラブルが生じる可能性があることが確認されている。その一例として,総務省の「ICTによるインクルージョンの実現に関する調査研究」(2018)におけるアンケート調査によれば,ソーシャルメディアで情報発信を行う利用者のうち23.2%が,「自分の発言が自分の意図とは異なる意味で他人に受け取られてしまった」,「ネット上で他人と言い争いになったことがある」等,何かしらのトラブルを経験したと回答している。また,警察庁の「平成29年におけるSNS等に起因する被害児童の現状と対策について」によれば,SNSに起因する犯罪の被害児童の数は平成20年から29年までの間に増加傾向にあり,29年は1,813人で過去最高となっている。
このように,平成中期からのインターネットの急速な普及は,国民の生活やコミュニケーション様式に大きな影響を及ぼし,ネット社会には加害者にも被害者にもなるリスクが潜んでいる。サイバー犯罪は,AI(Artificial Intelligence),IoT(Internet of Things)等の発達ともあいまって,今や国際社会が一丸となって取り組む課題となっており,令和2年(2020年)に開催される京都コングレスでも議題の一つとして組み込まれている。また,海外の刑事政策の動向を見ると,情報通信技術を効果的に活用して政策の実効性を高めようとする動きが認められる。例えば,米国,韓国,オーストラリア等では受刑者がオンライン上で家族等と面会できるシステムの導入を推進し,また,米国では受刑者のケースマネジメントにAIを活用しようとする動きも見られる。
情報通信技術は,使う人によってチャンスにもリスクにもなり得る。令和の時代における刑事政策は,急速に進化する情報通信技術とどう向き合っていくかが問われることになると言っても過言ではないであろう。