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令和元年版 犯罪白書 第3編/第1章/第4節/4

4 刑事施設の運営等
(1)刑事施設視察委員会

刑事収容施設法の施行後,刑事施設には,法務大臣が任命する10人以内の外部の委員で構成され,刑事施設を視察し,その運営に関し,刑事施設の長に対して意見を述べる刑事施設視察委員会が刑事施設(本所)ごとに置かれている。平成30年度の活動状況は,会議の開催460回,刑事施設の視察165回,被収容者との面接452件であり,委員会が刑事施設の長に対して提出した意見は469件であった。なお,20年度の活動状況は,会議の開催398回,刑事施設の視察207回,被収容者との面接598件であり,委員会が刑事施設の長に対して提出した意見は659件であった(法務省矯正局の資料による。)。

(2)給養・医療・衛生等

被収容者には,食事及び飲料(湯茶等)が支給される。平成31年度の成人の受刑者一人当たりの一日の食費(予算額)は533.17円(主食費101.50円,副食費431.67円)である。高齢者,妊産婦,体力の消耗が激しい作業に従事している者や,宗教上の理由等から通常の食事を摂取できない者等に対しては,食事の内容や支給量について配慮している。また,被収容者には,日常生活に必要な衣類,寝具,日用品等も貸与又は支給されるが,日用品等について自弁のものを使用することも認めている。なお,同年度の刑事施設の被収容者一人一日当たりの収容に直接に必要な費用(予算額)は,1,924円である(法務省矯正局の資料による。)。

刑事施設には,医師その他の医療専門職員が配置されて医療及び衛生関係業務に従事している。さらに,専門的に医療を行う刑事施設として,医療専門施設4庁(東日本成人矯正医療センター並びに岡崎,大阪及び北九州の各医療刑務所)を設置しているほか,医療重点施設9庁(札幌,宮城,府中,名古屋,大阪,広島,高松及び福岡の各刑務所並びに東京拘置所)を指定し,これら13庁には,医療機器や医療専門職員を集中的に配置している。なお,平成元年度は,医療専門施設が5庁(八王子,岡崎及び城野の各医療刑務所並びに大阪及び菊池の各医療刑務支所)及び医療重点施設が5庁(札幌,宮城,名古屋,広島及び福岡の各刑務所)であった。

なお,矯正医官の人員は,欠員が解消されない状況が続いていたことから,法務省において,矯正医官確保のため,各種の取組を実施するとともに,平成27年8月に成立した矯正医官の兼業の特例等に関する法律(平成27年法律第62号。28年3月末までの題名は「矯正医官の兼業及び勤務時間の特例等に関する法律」)に基づき,兼業の許可に関する国家公務員法の特例等を設ける措置が講じられた(27年12月1日施行)。このような取組・措置等により,矯正医官の人員は,29年度から減少傾向に歯止めがかかって増加に転じたが,31年4月1日現在で290人(前年より4人減少)と,依然として,定員の約9割にとどまっている(法務省矯正局の資料による。)。

(3)民間協力
ア 篤志面接

刑事施設では,必要があるときは,篤志面接委員に,被収容者と面接し,専門的知識や経験に基づいて助言指導を行うことを依頼している。その助言指導の内容は,被収容者の精神的な悩みや,家庭,職業及び将来の生活に関するものから,趣味・教養に関するものまで様々である。平成30年末現在,篤志面接委員は1,034人であり,その内訳は,教育・文芸関係者360人,更生保護関係者116人,法曹関係者74人,宗教・商工・社会福祉関係者246人,その他238人である。同年の篤志面接の実施回数は1万2,361回であり,その内訳は,趣味・教養の指導6,017回,家庭・法律・職業・宗教・保護に関する相談2,274回,悩み事相談1,339回,その他2,731回であった。なお,篤志面接委員数について,元年末現在は1,174人,15年末現在は1,140人であった(法務省矯正局の資料による。)。

イ 宗教上の儀式行事・教誨

刑事施設では,教誨師(民間の篤志の宗教家)に宗教上の儀式行事や教誨(読経や説話等による精神的救済)の実施を依頼し,被収容者がその希望に基づいてその儀式行事に参加し,教誨を受けられるように努めている。平成30年末現在,教誨師数は,1,723人であり,同年の宗教上の儀式行事・教誨の実施回数は,集団に対して9,058回,個人に対して6,310回であった。なお,教誨師数について,元年末現在は1,480人,15年末現在は1,517人であった(法務省矯正局の資料による。)。

(4)規律・秩序の維持

被収容者の収容を確保し,刑事施設内における安全で平穏な生活と適切な処遇環境を維持するためには,刑事施設の規律・秩序が適正に維持されなければならない。そのために,刑事施設では,被収容者が遵守すべき事項を定めており,被収容者がこれを遵守せず,又は刑事施設の規律・秩序を維持するために職員が行った指示に従わないときは,懲罰を科することがある。平成30年に懲罰を科せられた被収容者は,延べ3万8,200人であり,懲罰理由別に見ると,怠役(正当な理由なく作業を怠ること。以下同じ。32.2%)が高い比率を占め,次いで,物品不正授受(5.2%),被収容者に対する暴行(5.0%)及び抗命(4.7%)の順となっている。なお,元年に懲罰を科せられた被収容者は,延べ3万810人であり,懲罰理由別に見ると,被収容者に対する暴行(11.2%)及び抗命(10.9%)が高い比率を占め,また,15年に懲罰を科せられた被収容者は,延べ4万5,759人であり,懲罰理由別に見ると,怠役(17.4%)及び被収容者に対する暴行(14.2%)が高い比率を占めている(矯正統計年報による。)。

刑事施設で発生した逃走,殺傷等の事故の発生状況の推移(平成元年以降)は,3-1-4-18表のとおりである。平成期における事故発生件数は,18年の52件をピークに減少傾向にあり,30年は12件であった。

3-1-4-18表 刑事施設における事故発生状況の推移
3-1-4-18表 刑事施設における事故発生状況の推移
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(5)不服申立制度

刑事施設の処置に対する被収容者の不服申立制度としては,一般的な制度として,民事・行政訴訟,告訴・告発,人権侵犯申告等がある。また,被収容者は,刑事収容施設法に基づき,刑事施設の長による一定の措置(信書の発受の差止めや懲罰等の処分等)については,その取消し等を求める審査の申請・再審査の申請を,刑事施設の職員による一定の事実行為(被収容者の身体に対する違法な有形力の行使等)については,その事実の確認を求める事実の申告をすることができる(いずれも,まず,矯正管区の長に対して申請・申告を行い,その判断に不服があるときは,法務大臣に対して,申請(再審査の申請)・申告を行うことができる。)ほか,自己が受けた処遇全般について,法務大臣,監査官及び刑事施設の長に対し苦情の申出をすることができる。被収容者の不服申立件数の推移(平成元年・15年・26~30年)は,3-1-4-19表のとおりである。なお,刑事収容施設法が施行される前は,審査の申請・再審査の申請,事実の申告及び苦情の申出の代わりに,法務大臣又は巡閲官(法務大臣の命を受けて行刑施設に対する実地監査を行う法務省の職員)に対し情願を申し立て,あるいは,行刑施設の長に対し面接を申し出ることができることとされていた。平成期における不服申立件数の総数は4年から増加傾向を示す中,15年に大幅に増加し,その後も増加し続けたものの,22年から減少傾向に転じたが,30年は前年より1,763件増加した(CD-ROM参照)。

3-1-4-19表 被収容者の不服申立件数の推移
3-1-4-19表 被収容者の不服申立件数の推移
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