検察庁においては,以前から,再犯防止等の刑事政策的観点も踏まえながら,捜査・公判活動を遂行していたが,平成23年9月,検察庁職員が指針とすべき基本的な心構えを定めた基本規程として「検察の理念」が策定され,警察その他の捜査機関のほか,矯正,保護その他の関係機関とも連携し,犯罪の防止や罪を犯した者の更生等の刑事政策の目的に寄与すると明記された。
検察庁においては,知的障害のある者や高齢者等福祉支援を必要とする起訴猶予者等について,弁護士や福祉専門職,保護観察所等関係機関・団体等と連携し,身柄釈放時等に福祉サービスに橋渡しするなどの取組(入口支援)を,地域の実情に応じ,実施している。
最高検察庁は,平成23年4月から検察改革のための様々な取組を行っており,その一環として,24年6月,刑事政策に関する専門的知見の集積,活用等を目的とした刑事政策専門委員会を立ち上げた。同委員会においては,刑事政策の研究者,社会福祉法人の関係者等を外部参与として委嘱し,集約した刑事政策に関する専門的知見を各庁にフィードバックすることで,再犯防止のための具体的な施策の実施を促している。また,最高検察庁では,28年6月,刑事政策推進室を発足させ,再犯防止・社会復帰支援等を主要なテーマとして,全国各地の検察庁での取組等に関する情報の収集や各検察庁へのフィードバック,これら取組の検討や各庁への助言・指導,関係機関との連絡・調整等を行っている。
各地方検察庁では,規模や実情に応じて「社会復帰支援室」等の体制を構築し,社会復帰支援の取組を担当する検察官又は検察事務官を配置しており,これらの検察官等は,社会福祉士等の専門家の知見を活用しながら,個々の事件を担当する検察官等への助言,保護観察所や福祉関係機関等との連絡・調整等を行っている。
例えば,東京地方検察庁では,平成25年1月に,社会復帰支援準備室を立ち上げ,同年4月には社会復帰支援室に発展させるに至った。そして,検察官・検察事務官に加え,社会福祉士を社会福祉アドバイザーとして採用し,具体的事件における対象者の処遇に関して,その事件を担当する検察官らへの助言を行いながら,福祉機関・保護観察所等と連携しつつ,釈放後の生活に関する対象者への助言や福祉事務所への同行支援等,様々な支援活動を行っている。30年度現在,横浜,千葉,水戸,静岡,大阪,名古屋及び広島の各地方検察庁も東京地方検察庁と同様に社会福祉士を社会福祉アドバイザーとして採用しているほか,特定の社会福祉士や地域の社会福祉士会と連携して,必要に応じ,社会福祉士から助言を得られるような体制を整備した庁もある。
また,一部の地方検察庁では,平成27年6月に施行された少年鑑別所法131条に基づき,知的障害や認知症が疑われる被疑者について,少年鑑別所の法務技官(心理)に対し,知能検査等を依頼し,その結果も参考にしながら,必要な福祉的支援等の内容を検討するといった取組も行われている。
そのほか,地域包括支援センター等の機関と連携した対応や,検察庁職員が,地域の社会福祉士会等との情報交換会,勉強会に参加して,福祉的支援に関する情報や知見を集積するといった取組も行われている。また,公判では,再犯防止の観点から,保護観察付全部執行猶予が相当と認められる事案においては,検察官が,求刑の際に保護観察付全部執行猶予を求める旨の意見を述べるといったことも行われている。