法務省矯正局では,認知症及び認知症傾向のある受刑者に対する処遇方針等を検討するため,60歳以上の受刑者のうち,認知症傾向のある受刑者の比率や推計人員等を明らかにする調査を実施し,その結果を平成28年1月に公表した。その主な内容を紹介する。
本調査では,平成26年12月31日時点で60歳以上の受刑者のうち,層別無作為抽出法(施設別,男女別)によって選定した451人(男性408人,女性43人。なお,日本人と異なる処遇を必要とする外国人受刑者を除く。)を対象として,27年1月20日から同年2月23日までの間,個別に改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下「HDS-R」という。)を実施した。
HDS-Rは,認知症を見極めるために,記憶力や計算能力等をチェックする簡単な心理検査(施行時間は約5分)であり,30点満点中,20点以下で認知症が疑われる。本調査における「認知症傾向のある受刑者」も,HDS-Rの得点が20点以下であった者を指している(医師による診断の有無や他の疾病・障害による認知機能の低下の可能性は考慮していない。)。
調査対象者451人中,HDS-Rを実施できた者は429人であるが,そのうち,認知症傾向のある者は59人(13.8%)であった。また,65歳以上に限れば,HDS-Rを実施できた者は305人であるが,そのうち,認知症傾向のある者は51人(16.7%)であった。
本調査の結果を基にすると下記のとおり,平成27年6月1日時点における60歳以上の在所受刑者9,710人のうち,認知症傾向のある者は,およそ1,300人いると推計され,さらに,同時点における65歳以上の在所受刑者6,280人のうち,認知症傾向のある者は,およそ1,100人いると推計された。
この調査結果を受け,平成30年度から,各矯正管区の基幹施設においては,入所時にHDS-Rを実施し,認知症が疑われると判定された受刑者に対して,医師の診察を実施する取組を行っている。人的体制や予算上の制約がある中で,刑事施設が,どこまで認知症やその傾向のある受刑者に対して治療・処遇の充実強化を図っていくことができるか,難しい課題が突き付けられている。