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平成29年版 犯罪白書 第7編/第1章

第7編 更生を支援する地域のネットワーク
第1章 はじめに

我が国においては,官民が協働して,再犯防止に向けた各種施策・取組を推進しており,矯正施設,保護観察所等では,篤志面接委員や教誨師,保護司を始めとする更生保護ボランティア,協力雇用主等の熱意ある民間協力者の支援を受けながら,犯罪や非行をした者の改善更生・社会復帰に向けた様々な働き掛けを行っているが,近年力を入れている犯罪や非行をした者の特性に応じた指導・支援や就労支援等の各種施策においては,医療,保健,福祉,教育,就労等の様々な分野の専門機関の協力を得て,有機的な連携の下で取組を進めている。

平成28年7月に犯罪対策閣僚会議で決定された「薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防止緊急対策」は,立ち直りに様々な課題を抱える薬物依存者や犯罪をした高齢者・障害者等の多くが刑事司法と地域社会の狭間に陥り,必要な支援を受けられないまま再犯に及んでいるとの認識を示した上で,刑事司法と地域社会をシームレスにつなぎ,官民が一体となって息の長い支援を行うことが必要であるとしている。そこでは,警察,検察,矯正,更生保護といった刑事司法の各段階はもとより,刑事司法手続の終了後の地域社会においても,適切な支援が受けられるような立ち直りを支えるネットワークの構築が求められている。

こうした中で,平成28年12月に再犯防止推進法が成立し,施行された(第5編第1章参照)。同法は,国には,再犯の防止等に関する施策を総合的に策定し,実施する責務があり,地方公共団体にも,国との適切な役割分担を踏まえて,地域の状況に応じた施策を策定し,実施する責務があると定めており(同法4条),地方公共団体に初めて,再犯の防止等に関する施策の実施主体として一定の責務を認めた。さらに,国及び地方公共団体は,再犯の防止等に関する施策が円滑に実施されるよう,相互に連携を図り(同法5条1項),再犯の防止等に関する施策の実施に当たっては,再犯の防止等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者との緊密な連携協力の確保に努めなければならない(同条2項)とするなど,国,地方公共団体及び民間の緊密な連携を求めている。また,政府には,再犯の防止等に関する施策について,総合的かつ計画的な推進を図るため,再犯防止推進計画を定める義務があるとした上で(同法7条),都道府県及び市町村にも,再犯防止推進計画を勘案して,地方再犯防止推進計画を定める努力義務を課している(同法8条)。さらに,国は,再犯の防止等に関する施策の重要性について,国民の理解を深め,その協力を得られるよう必要な施策を講ずるものとされている(同法22条)。

再犯防止推進法に基づく国,地方公共団体,民間の連携のイメージを示したものが7-1-1図である。この図は,国と地方公共団体が連携するだけでなく,互いに民間協力者や地域の関係機関・団体等とも緊密に連携し,再犯防止という共通の目的の下で三者が協力しつつ施策・取組を推進することが重要であり,そのような三者の「協働」が機能するためには,国民の理解と地域社会の協力という基盤が不可欠であるという再犯防止の基本理念を示している。

7-1-1図 再犯防止における国,地方公共団体,民間の連携
7-1-1図 再犯防止における国,地方公共団体,民間の連携

国,地方公共団体,民間が相互に連携した社会復帰支援については,平成24年版犯罪白書の特集において,民間団体や様々な機関の関与・連携によって展開されていた就労支援,住居確保等の取組の実情を紹介したが,その後,このような多機関連携による取組が更に充実・強化されるとともに,地方公共団体が実施主体となった先進的な試みなど,新たな取組も開始されている。

再犯防止推進法に基づいて,再犯防止施策を推進するに当たっては,このような最近の施策・取組の進捗状況を把握するとともに,民間協力者との協働や多機関連携を推進する上での実務上の課題にも留意する必要がある。

そこで,本白書では,「更生を支援する地域のネットワーク」と題して特集を組み,再犯防止施策における民間協力・多機関連携の現状や課題等を整理して提示することにより,国,地方公共団体,民間の相互連携の下での再犯防止施策の推進と円滑な連携を可能にする地域の支援ネットワークの拡充に向けた基礎資料を提供することとした。民間協力・多機関連携による各種取組に直接関与する民間協力者,実務者等を広く取材し,支援の現場から見た実務の現状や課題を取りまとめてコラム等の形式で紹介する。

この編の構成は,次のとおりである。

続く第2章においては,特定の分野に限定せず広く更生を支援する主体に焦点を当てる。まず,犯罪や非行をした者の更生に関する国民の意識の現状を概観した上で,地域のボランティア,国と地方公共団体との連携,国民に対する広報・啓発活動等,地域社会の理解と協力を促進するための取組を紹介する。

第3章においては,更生を支援するための分野ごとの取組を取り上げる。薬物事犯者や高齢・障害犯罪者等に対する指導・支援,就労支援等を中心として,犯罪や非行をした者の更生に向けた民間協力と多機関連携による取組の実情を紹介する。

第4章においては,この編のまとめとして,国,地方公共団体,民間が緊密な連携を図りながら,地域の支援ネットワークを構築し,そのネットワークを有効に活用して刑事司法から地域社会に至るあらゆる段階で犯罪や非行をした者に適切な支援をする上での課題等を総括し,今後の民間協力・多機関連携による再犯防止施策の在り方を検討する。