この節でいう「殺人」とは,UN-CTSの調査票における「Intentional Homicide」をいう。
UN-CTSの調査票では,「Intentional Homicide」について,意図的かつ違法に他者を殺害する行為であると定義した上で,他者に重大な傷害を負わせて死に至らしめる行為及びテロ行為による殺害を含むが,未遂,「Manslaughter」,正当防衛その他違法ではない行為及び武力闘争下の行為を除くこととされている。調査票における「テロ行為」や「武力闘争下の行為」といった,特殊な状況下における人の殺害行為に該当するか否かの判断は,各国に委ねられている。また,調査票において「殺人」から除くこととされている「Manslaughter」(我が国では通常「故殺」,「非謀殺」などと訳され,殺意又は予謀なくして不法に人を死亡させることなどと説明される。)は,我が国の現行法にはない犯罪概念であるところ,当該罪名を用いている法域によっても内容が異なると言われている。さらに前記のとおり「殺人」に含めるべきことが調査票に明示されている「他者に重大な傷害を負わせて死に至らしめる行為」との異同にかかる判断も,各国に委ねられている。
なお,UNODC統計上では,警察において「記録された事件の件数及び被害者の数(Recorded Offences and Victims)」のうち,未遂事件を除いた,「殺害された被害者」の数が「殺人」の発生件数として計上され,我が国における「殺人」の発生件数としては,警察において認知した,殺人(刑法199条),自殺関与及び同意殺人(同法202条)の既遂事件の被害者数が計上されている。
各国における「殺人」の発生件数及び発生率(人口10万人当たりの発生件数をいう。以下この章において同じ。)の推移(平成26年(2014年)までの最近5年間)を見ると,1-3-1-1表のとおりである。
各国における2014年の発生件数を2010年の発生件数と比べると,米国において3.8%減,英国において21.1%減,フランスにおいて0.5%減,ドイツにおいて9.7%減,我が国において15.1%減と,いずれの国においても減少しているところ,同期間における各国の人口の増減(米国において3.1%増,英国において2.6%増,フランスにおいて1.8%増,ドイツにおいて0.3%増,我が国において0.4%減)を踏まえると,英国における減少が顕著である。