犯罪対策閣僚会議は,平成28年7月,新たに「薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防止緊急対策〜立ち直りに向けた“息の長い”支援につなげるネットワーク構築〜」(以下「緊急対策」という。)を決定し,直面する二つの課題として,「安全・安心な暮らしを脅かす薬物犯罪」,「高齢者犯罪の増加と受刑者の高齢化等」を指摘した。その上で,立ち直りに多くの困難を抱える薬物依存者・高齢犯罪者等の再犯防止を一層進めるため,刑事司法手続終了後を含めた“息の長い”支援に取り組む民間の活動を推進するなどして,2020年(平成32年)を目途に,全国各地に薬物依存者や高齢犯罪者等の立ち直りを支えるネットワークが構築されていることを目指すこととしている。
本編では,再犯や再犯者の実態について,多角的に検討を加え,その結果,覚せい剤取締法違反,窃盗,高齢者,女性に関する再犯防止について,一層重点的・集中的に対策を推進する必要性が明らかとなった。高齢者犯罪の対策には,万引き等の窃盗事犯者の問題への対処も含まれる上,薬物犯罪や窃盗への取組には女性犯罪者への視点も欠かせないことから,緊急対策が取り上げる二つの課題はこれまでの分析の結果に照らしても緊急性が高いものであり,同対策に基づいた更なる再犯防止策の充実・強化が求められる。
また,本編では,出所受刑者等の再入所等の状況についての新たな指標,例えば,出所受刑者の出所後20年間にわたる再入率,同一罪名再入率,再入者の再犯期間,再入率と出所受刑者人員の分布,少年院出院者の刑事施設入所を含めた再入院・刑事施設入所率等を示した。その結果,特に重点的に再犯防止のための働き掛けを行うべき時期についての示唆が得られたほか,再犯に影響を与える複数の要因を組み合わせて検討することの重要性が明らかになった。実証的な調査研究に基づいた効果的な施策を展開するためには,まずは,従来の知見を踏まえて,今後取り組むべき研究の対象を適切に特定した上で,一貫した方針の下に計画的に研究を積み重ね,実証的に新たな知見を蓄積していくことが欠かせない。特に重点的な対策が必要と考えられる対象者については,前記のとおり,複数の要因を組み合わせるなどした上で,その特徴をより詳細に明らかにしていくことが有益と思われる。
さらに,本編第2章では,再犯防止に向けた総合対策等に基づいて行われている各種の施策・取組の内容や,これまでの進捗状況等を紹介したが,これらの施策等の具体的な効果,再入率の低下傾向に寄与した程度等は明らかになっていない。今後は,施策の効果検証を実施するための方法論や課題についても整理した上で,刑事情報連携データベースを活用するなどして,再犯状況や施策の効果検証に関する調査研究をより進展させ,更なる効果的な再犯防止対策を検討していく必要がある。