前の項目 次の項目       目次 図表目次 年版選択

平成28年版 犯罪白書 第5編/第2章/第6節/コラム

コラム 刑事施設の性犯罪再犯防止指導における指導担当職員の育成

刑事施設の性犯罪再犯防止指導は,標準的には,指導者2人と対象者8人による,1回100分程度のグループワークで行われる。グループワークというと,ともすると「対象者を集めて話をさせているだけ。」と誤解されることもあるが,受講への動機付けが必ずしも高くない対象者の意欲を引き出しながら,受容的な雰囲気の中で互いに率直な意見を言い合えるような集団を形成するとともに,性犯罪につながる認知の偏り等がうかがわれるような発言があった場合には臨機応変に介入し,対象者相互に気付きが深まるような工夫や配慮をしており,指導担当職員には極めて高い技量が求められる。性犯罪者の再犯率を低下させるためには,実証的な根拠に基づく処遇プログラムの整備はもとより,指導担当職員の育成が重要であるとされており,そのため,刑事施設においては,性犯罪再犯防止指導の開始当初から,大学の教員,臨床心理士等の専門家を招へいし,その助言を受けるなどして,日々,指導担当職員の知識や技術の向上に努めている。

こうした性犯罪再犯防止指導を行う19の刑事施設のうち,府中刑務所は,重点的に指導を行う施設の一つとして指定されており,平成27年度は,12グループ,計490回の指導を実施した。指導担当職員は,常勤の職員13人(うち女性3人)に加えて,民間の処遇カウンセラー5人(うち女性3人)がおり,毎回の指導の実施前に,その回の進行,重点事項,役割分担等の打合せを行っているほか,毎回の指導が終わる度に,実施状況を記録として残し,検討を加えた上で,次回以降の指導のために綿密な準備をするといった作業を繰り返している。

こうした職員同士による指導の振り返りに加えて,大学の教員や臨床心理士等の外部の専門家を招へいして「スーパービジョン」を実施している。スーパービジョンとは,一般に,対人援助職が,専門的スキルの向上や自己点検等のため,熟練の専門家(スーパーバイザー)から継続的に教育・訓練を受けることを指す。スーパービジョンの方法は様々あるが,府中刑務所においては,受講者の同意を得た上で録音・録画機器を利用するなどして,1回ないし複数回の指導について専門家を交えて検討を行うといった方法が採られ,グループワークの進め方や個々の対象者の再発防止計画の詳細について助言を受けており,平成27年度は,7人の専門家による計49回のスーパービジョンが実施された。

実際にスーパービジョンを受けている職員からは,「対象者同士の相互作用だけでなく,自分自身が気付かなかった指導の際の癖について的確に指摘してくれるため,自身を含めたグループの動きを客観的に振り返ることができる。」,「俯瞰した視点から全体を見渡してくれるため,グループワークの場で一体何が起きていたのかということや,複数回の指導を通じての対象者の変化に気付かされることがある。」,「多様な専門家から,個々の対象者への介入の方針やグループの運営に関する助言を頂けるので,指導に困ったり行き詰ったりしたときに,その助言が精神的な支えになっている。」といった感想が挙げられていた。

このほか,全国の性犯罪再犯防止指導実施施設の指導担当職員に対する集合研修,効果的な指導につながる要因及び方策を学ぶための施設間事例検討,重点的に指導を行う施設の指導担当職員による他施設への巡回指導も毎年行われており,職員の指導力の向上に日々努めている。

スーパービジョンの風景【写真提供:府中刑務所】
スーパービジョンの風景
【写真提供:府中刑務所】