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平成27年版 犯罪白書 第6編/第4章/第4節/3

3 性犯罪再犯と関連する要因の分析

この項では,再犯調査対象者について,性犯罪再犯と関連する要因を探るため,諸外国における性犯罪者に関する実証研究において性犯罪再犯と関連のある要因として指摘されているものを含めて,今回の調査において分析可能な要因である年齢や就労状況,前科,調査対象事件中の性犯罪の内容等と性犯罪再犯との関連について分析する。

分析に際して,執行猶予者と出所受刑者とでは,再犯可能期間が異なるほか,執行猶予者と出所受刑者の各集団に占める罪名の構成に違いがあること,さらには調査対象者の特性等が異なると考えられることから,両者を分けて検討した。また,性犯罪者類型対象者のうち,単独強姦型,集団強姦型,強制わいせつ型,小児わいせつ型及び小児強姦型に該当する者(以下この節において「刑法犯群」という。)と,痴漢型及び盗撮型に該当する者(以下この節において「条例違反群」という。)の二つの群に分けた上での分析結果についても,特徴が認められた点について言及する。

(1)執行猶予者

再犯調査対象者のうち,執行猶予者について,その基本的属性等の要因別に性犯罪再犯率を見ると,6-4-4-7図のとおりである。年齢層別に見ると,初回の性非行・性犯罪時の年齢が29歳以下の者の方が,30歳以上の者に比べて性犯罪再犯率が高かった。また,婚姻状況別では,未婚の方が,既婚や離死別と比べて性犯罪再犯率が高かった。

次に,前科等の有無別では,性非行による前歴・保護処分歴,性犯罪による前科・前歴のいずれかがある者の方が,それらの前科等がない者に比べて,顕著に性犯罪再犯率が高かった。一方で,粗暴犯(傷害,暴行,脅迫及び暴力行為等処罰法違反をいう。以下この章において同じ。)による前科の有無と性犯罪再犯率との間には明確な関連は認められなかった。さらに,犯行時に執行猶予中等であった者は,そうでない者に比べて,性犯罪再犯率が14.5pt高かったが,該当する者が少数であることもあり,明確な関連までは認められなかった。

調査対象事件中の性犯罪における被害者との関係等別では,面識のない被害者を含む者の方が,面識のない被害者を含まない者に比べて,性犯罪再犯率が高かった。また,被害者に男児を含む者は,そうでない者に比べて,性犯罪再犯率が9.4pt高かったが,男児を被害者とする者が少数であることもあり,明確な関連までは認められなかった。さらに,13歳未満の被害者の有無と性犯罪再犯率の間にも明確な関連は認められなかった。

なお,刑法犯群に限って,調査対象事件中の性犯罪における住居侵入の有無別及び凶器の使用の有無別に,性犯罪再犯率を見たところ,前者では,明確な関連は認められなかったものの,後者では,凶器の使用がなしの者(533人中31人,5.8%)に比べて,ありの者(19人中4人,21.1%)の方が高かった。

6-4-4-7図 執行猶予者 性犯罪再犯率(要因別)
6-4-4-7図 執行猶予者 性犯罪再犯率(要因別)
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(2)出所受刑者

再犯調査対象者のうち,出所受刑者について,その基本的属性等の要因別に性犯罪再犯率を見ると,6-4-4-8図のとおりである。執行猶予者と異なり,初回の性非行・性犯罪時の年齢層別では性犯罪再犯率に特段の差が認められなかった一方で,就労状況等別では,無職者の方が,そうでない者に比べて,性犯罪再犯率が高かった。また,婚姻状況別に関しても,未婚だけでなく,離死別においても同程度に性犯罪再犯率が高く,既婚のみが性犯罪再犯率が低いというように,執行猶予者とは異なる傾向が認められた。

前科等の有無別では,執行猶予者と同じく,性非行による前歴・保護処分歴,性犯罪による前科・前歴のいずれかがある者の方が,顕著に性犯罪再犯率が高かった。また,性的な動機に基づくと考えられるものの被害者との身体的接触を持たない犯罪の一つである公然わいせつによる前科を有する者の方が,性犯罪再犯率が高かった。さらに,犯行時に執行猶予中等であった者も性犯罪再犯率が高かった。

調査対象事件中の性犯罪における被害者との関係等別では,執行猶予者と同様に,面識のない被害者を含む者の方が,性犯罪再犯率が高かった。また,13歳未満の被害者の有無と性犯罪再犯率との関係については,13歳未満の被害者を含む者の方が,そうでない者に比べて,性犯罪再犯率が7.6pt低い。ただし,刑法犯群と条例違反群に分けて詳細に見ると,性犯罪再犯率は,両者で傾向が異なり,刑法犯群では,13歳未満の被害者を含む者の方が高く,条例違反群では,13歳未満の被害者を含む者の方が低かった。しかしながら,いずれも明確な関連までは認められなかった。被害者に男児を含むか否かという点についても,性犯罪再犯率との明確な関連は認められなかった。

なお,刑法犯群に限って,調査対象事件中の性犯罪における住居侵入の有無別及び凶器の使用の有無別に,性犯罪再犯率を見たところ,両者共に明確な関連は認められなかった。

6-4-4-8図 出所受刑者 性犯罪再犯率(要因別)
6-4-4-8図 出所受刑者 性犯罪再犯率(要因別)
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最後に,出所受刑者のうち,性犯罪再犯ありの者となしの者について,性格検査である法務省式人格目録(MJPI)の基本尺度ごとの得点分布を比較して見ると,6-4-4-9図のとおりである。性犯罪再犯なしの者と比べて,性犯罪再犯ありの者の方が,自信欠如傾向(他人の評価を気にし,自分の能力や行動に自信を持てない傾向),抑うつ傾向(ささいなことに気が沈み,消極的,悲観的,絶望的になり,暗い気分が続く傾向),偏狭傾向(自己中心的で社会に対する不平不満を持ち,被害感,不信感などが強い傾向)の各基本尺度において得点が高いことが示されている。

6-4-4-9図 出所受刑者 性格検査得点分布(性犯罪再犯の有無別)
6-4-4-9図 出所受刑者 性格検査得点分布(性犯罪再犯の有無別)
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