保護観察対象者に対する処遇は,段階別処遇と,類型別処遇等の問題性に応じた処遇を軸として行われる。
段階別処遇は,保護観察対象者を,改善更生の進度や再犯可能性の程度及び補導援護の必要性等に応じて,4区分された段階に編入し,各段階に応じて保護観察官の関与の程度や接触頻度等を異にする処遇を実施する制度である。
無期刑又は長期刑(執行刑期が10年以上の刑をいう。以下この項において同じ。)の仮釈放者は,社会復帰に種々の困難があるため,仮釈放後1年間は,最上位の段階に編入し,必要に応じて複数の保護観察官が関与するなどして,充実した処遇を行っている。
類型別処遇は,保護観察対象者の問題性その他の特性を,その犯罪・非行の態様等によって類型化して把握し,類型ごとに共通する問題性等に焦点を当てた効率的な処遇を実施することにより,保護観察の実効性を高めることを目的とした制度である。平成26年末における仮釈放者及び保護観察付執行猶予者の類型の認定状況は,2-5-2-5表のとおりである。
仮釈放者又は保護観察付執行猶予者のうち,暴力的犯罪を繰り返していた者で,シンナー等乱用,覚せい剤事犯,問題飲酒,暴力団関係,精神障害等,家庭内暴力のいずれかの類型に認定された者,及び極めて重大な暴力的犯罪をするなどした者を,処遇上特に注意を要する者として,特定暴力対象者と認定している。特定暴力対象者として認定された者については,保護観察官が積極的に対象者やその家族と面接するなどして,生活状況を的確に把握することに努めるなど,処遇の充実強化が図られている。平成26年に特定暴力対象者として認定された人員(受理人員)は,仮釈放者が231人,保護観察付執行猶予者が74人であった(法務省保護局の資料による。)。
このほか,平成25年4月から,保護観察所と警察との間において,ストーカー行為等により保護観察付執行猶予となった者について,保護観察実施上の特別遵守事項及びそれぞれが把握した当該対象者の問題行動等の情報を共有し,再犯を防止するための連携強化を図っている。
ある種の犯罪的傾向を有する保護観察対象者に対しては,指導監督の一環として,その傾向を改善するために,専門的処遇プログラムとして,心理学等の専門的知識に基づき,認知行動療法(自己の思考(認知)のゆがみを認識させて行動パターンの変容を促す心理療法)を理論的基盤として開発された,体系化された手順による処遇が行われている。
専門的処遇プログラムとしては,性犯罪者処遇プログラム,覚せい剤事犯者処遇プログラム(簡易薬物検出検査と組み合わせて実施),暴力防止プログラム及び飲酒運転防止プログラムの4種があり,その処遇を受けることを特別遵守事項として義務付けて実施している。また,それ以外にも,保護観察対象者の自発的意思等に基づいて,専門的処遇プログラムが実施されることがある。
専門的処遇プログラムによる処遇の開始人員の推移(最近5年間)は,2-5-2-6表のとおりである。
薬物事犯者に対しては,以下の処遇も行っている。
覚せい剤使用を反復する傾向がある保護観察対象者等であって,覚せい剤事犯者処遇プログラムに基づく指導が義務付けられず,又はその指導を受け終わった者に対し,必要に応じて,断薬意志の維持等を図るために,その者の自発的意思に基づいて簡易薬物検出検査を実施することがある。平成26年における実施件数は8,281件であった(法務省保護局の資料による。)。
また,全国の保護観察所では,「覚せい剤事犯」の類型認定者や薬物依存のある保護観察対象者等の引受人・家族等関係者に対する講習会や座談会等を内容とした引受人会・家族会を実施している。平成26年度は,全国49の保護観察所において合計199回実施し,引受人・家族等関係者3,246人が参加した(法務省保護局の資料による。)。
さらに,平成24年度から,社会生活に適応させるために必要な生活指導として,薬物依存症リハビリテーション施設等に対して薬物依存回復訓練を委託して実施している。26年度に,訓練を委託して実施した延べ人員は9,898人であった(法務省保護局の資料による。)。
自己の犯罪により被害者を死亡させ,又は重大な傷害を負わせた保護観察対象者には,しょく罪指導プログラムによる処遇を行うとともに,被害者等の意向にも配慮して,誠実に慰謝等の措置に努めるように指導している。平成26年において,しょく罪指導プログラムの実施が終了した人員は378人であった(法務省保護局の資料による。)。
なお,平成25年4月から,日本司法支援センター(通称「法テラス」,本編第6章4項参照)と連携し,一定の条件に該当する保護観察対象者が,被害者等の意向に配慮しながら,示談交渉等被害弁償を行うに当たっての法的支援を受ける手続が開始されている(平成26年度までの処理件数は16件であった。日本司法支援センターの資料による。)。
無期刑又は長期刑の仮釈放者は,段階的に社会復帰させることが適当な場合があるため,本人の意向も踏まえ,必要に応じ,仮釈放後1か月間,更生保護施設で生活させて指導員による生活指導等を受けさせる中間処遇を行うことがあり,平成26年には113人に対して実施した(法務省保護局の資料による。)。
出所受刑者等の社会復帰には,就労による生活基盤の安定が重要な意味を持つため,従来から保護観察の処遇において就労指導に重きを置いているが,平成18年度から,法務省は,厚生労働省と連携し,出所受刑者等の就労の確保に向けて,刑務所出所者等総合的就労支援対策を実施している(本編第4章第2節4項及び第3編第2章第4節2項(5)参照)。また,23年度から,一部の保護観察所において更生保護就労支援モデル事業を開始し,27年度は,更生保護就労支援事業として16庁で実施し,このうち,東日本大震災による被災が特に甚大である盛岡,仙台及び福島の3庁における事業については,更生保護被災地域就労支援対策強化事業と位置付け,就労を確保するために必要な定住支援も併せて行っている。
地方公共団体の動きを見ると,平成22年に,大阪府内のある地方公共団体において,保護観察対象者を臨時的任用職員として採用する取組が始まり,同様の動きが他の地方公共団体にも広がり,27年4月1日現在,臨時的任用職員として保護観察対象者等を雇用する制度が,全国31の地方公共団体で導入(予定を含む。)されている(なお,法務省等の国の機関においても,25年5月以降,保護観察対象者を非常勤職員として雇用する取組が行われ,複数名を採用している。)。また,27年5月末日現在,保護観察対象者を雇用した経験のある協力雇用主等に対する建設工事等の競争入札に係る優遇措置(社会貢献活動や地域貢献活動として加点するもの。)を導入(予定を含む。)している地方公共団体は, 競争入札参加資格審査の段階では13道府県・28市町,総合評価落札方式での落札者決定の段階では4都県・18市(重複計上している。)となっている(なお,法務省においても,27年度から法務省発注工事の一部において,同様の取組を導入している。法務省保護局の資料による。)。
民間企業・団体の動きを見ると,中央の経済諸団体や大手企業関係者等が発起人となり,平成21年1月に特定非営利活動法人「全国就労支援事業者機構」が活動を開始し,23年6月をもって認定特定非営利活動法人となった。また,地方単位の就労支援事業者機構(都道府県就労支援事業者機構)が,全国50か所(各都府県に1か所ずつ,北海道に4か所)に設立され,22年7月までに50か所全てが特定非営利活動法人となった。保護観察所では,都道府県就労支援事業者機構とも連携を取りながら,保護観察対象者等の就労支援を行っている。
平成25年6月,特別遵守事項の類型に社会貢献活動を加えることなどを内容とする刑法等の一部を改正する法律が成立し,このうち,同活動に関する規定については,27年6月1日に施行された(本編第6章1項参照)。特別遵守事項としての社会貢献活動は,自己有用感の涵(かん)養,規範意識や社会性の向上を図るため,公共の場所での清掃活動や,福祉施設での介護補助活動といった地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を継続的に行うことを内容とするものであるが,保護観察所は,23年度から,保護観察処遇の一環として,将来の義務化を見据え,保護観察対象者の同意に基づき,これを先行実施してきた。活動の実施においては,他者とコミュニケーションを図ることによって処遇効果が上がることを期し,更生保護女性会員やBBS会員などの協力者(本章第5節4項参照)を得て行われることが多い。27年3月31日現在,活動場所として1,488か所(うち,福祉施設768か所,公共の場所558か所)が登録されており,26年度は,1,681回実施し,延べ3,621人(保護観察処分少年1,696人,少年院仮退院者419人,仮釈放者663人,保護観察付執行猶予者843人)が参加した(法務省保護局の資料による。)。
犯罪をした人や非行のある少年のうち,多くの者に共通する傾向として,「どうせ頑張っても無駄だ」「自分など誰の役にも立たない」といった諦めの気持ちや自信のなさを挙げることができる。これらは,犯罪や非行から立ち直り,一人の社会人として自立していく上で克服しなくてはならない大きな課題の一つである。ここでは,こうした課題を克服するために,保護観察対象者に対して保護観察所が行っている取組の一つである社会貢献活動について紹介する。
1 概要
社会貢献活動とは,地域に貢献する活動を行い,地域の方から感謝されることなどを通じて,自己有用感(「自分も人の役に立てるんだ」)や達成感(「自分もやればできるんだ」)を獲得させたり,ルールを守ることの大切さを理解させたりして,その立ち直りを促し,再犯や再非行の防止を図る取組である。
活動の内容としては,例えば,公園や海岸といった公共の場所での環境美化活動や,福祉施設での車椅子や遊具の清掃,介護やレクリエーションの補助等を挙げることができ,地域の実情に応じて幅広い活動が行われている。
2 参加者の反応
活動に参加した保護観察対象者からは,「自分の手で川を綺麗にできたことが嬉しい。」「自分達もごみを捨てないようにしたい。」といった感想や,「(福祉)施設の人からお礼を言われて嬉しかった。」「これからも何かできることがあればやりたいと思った。」といった感想が聞かれる。最初は活動への参加に消極的な保護観察対象者がほとんどであるが,活動を通じて自分の新たな一面を見いだしたり,人の役に立つことの嬉しさや他者に配慮することの大切さに気付いたりするなど,活動が保護観察対象者の立ち直りを促すものになっている。
3 活動をより充実させるために
社会貢献活動を実施するためには,活動場所の提供をはじめ,活動中の保護観察対象者に助言や励ましをいただいたり,一緒に活動していただいたりするなど,地域の様々な機関や法人,ボランティア団体その他の方々の協力が不可欠である。
保護観察対象者の特性に応じた,より効果的な活動を行っていくため,引き続き,多様な活動場所の確保に努めるとともに,活動に対する地域の理解と協力がこれまで以上に得られるよう積極的な広報に努めていく。
(コラム及び写真は,法務省保護局の資料による。)
親族等や民間の更生保護施設では円滑な社会復帰のために必要な環境を整えることができない仮釈放者,少年院仮退院者等を対象とし,保護観察所に併設した宿泊施設に宿泊させながら,保護観察官による濃密な指導監督や充実した就労支援を行うことで,対象者の再犯防止と自立を図ることを目的とする施設として,自立更生促進センターが設立されている。
仮釈放者を対象とし,犯罪傾向等の問題性に応じた重点的・専門的な処遇を行う自立更生促進センターとして,北九州自立更生促進センター(平成21年6月開所,定員男子14人)及び福島自立更生促進センター(22年8月開所,定員男子20人)が,主として農業の職業訓練を実施する就業支援センターとして,少年院仮退院者等を対象とする北海道の沼田町就業支援センター(19年10月開所,定員男子12人),仮釈放者等を対象とする茨城就業支援センター(21年9月開所,定員男子12人)が,それぞれ運営を行っている。各施設における開所の日から27年3月31日までの入所人員は,北九州自立更生促進センターが141人,福島自立更生促進センターが52人,沼田町就業支援センターが45人,茨城就業支援センターが84人である(法務省保護局の資料による。)。