自動車を運転して過失により人を死傷させた場合は,長らく,業務上過失致死傷罪が適用されてきたが,平成13年の刑法の一部改正(平成13年法律第138号)により,危険運転致死傷罪が新設され,故意に一定の危険な自動車の運転行為を行い,その結果人を死傷させた者は,その行為の実質的危険性に照らし,暴行による傷害罪・傷害致死罪に準じた重大な犯罪として処罰されることとなった。また,19年には,危険運転致死傷罪が適用されない過失による死傷事故に対しても,事案の実態に即した適正な科刑を行うため,自動車運転過失致死傷罪を新設する刑法の一部改正(平成19年法律第54号)が行われた。
さらに,平成25年11月には,自動車の運転による死傷事件に対して,運転の悪質性や危険性等の実態に応じた処罰ができるようにするため,自動車運転死傷処罰法が成立し,26年5月20日に施行された。この法律において,<1>従来の危険運転致死傷罪が刑法から移されて規定されるとともに(自動車運転死傷処罰法2条1号ないし5号),危険運転致死傷罪の新たな類型として,通行禁止道路において重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転した場合が追加され(同条6号),<2>アルコール,薬物又は病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し,アルコール等の影響により正常な運転が困難な状態に陥り,人を死傷させた場合が,従来の危険運転致死傷罪より刑の軽い,新たな危険運転致死傷罪として新設された(同法3条。以下この章において「飲酒等影響運転支障等による危険運転致死傷」という。)。また,<3>従来の自動車運転過失致死傷罪が刑法から移されて過失運転致死傷罪として規定されるとともに(自動車運転死傷処罰法5条),<4>アルコール又は薬物の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転して過失により人を死傷させ,その運転のときのアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる行為をした場合が,過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪として新設され(同法4条),<5>危険運転致死傷罪,過失運転致死傷罪及び過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪を犯した時に無免許運転であったときは,刑を加重する規定が新設された(同法6条)。
道路交通法については,平成25年6月に一部改正が行われ(平成25年法律第43号),<1>無免許運転,無免許運転下命・容認及び免許証の不正取得に対する法定刑が引き上げられるとともに,<2>無免許運転幇助行為のうち悪質なものに対する罰則が新設され,<3>免許を受けようとする者等に対する,一定の病気等の症状に関する公安委員会による質問制度の整備及び質問票への虚偽記載行為に対する罰則が新設された(<1>及び<2>は同年12月1日施行,<3>は26年6月1日施行)。