女子高齢者の万引き事犯者は,一般刑法犯の検挙人員中8割を占めている(男子高齢者では5割弱)上,増加傾向にあること(4-4-1-3図CD-ROM参照)からすると,女子犯罪者の再犯防止を図る上で,万引き事犯者に対する効果的な処遇の在り方を探ることは特に重要な問題である。そして,万引き事犯者が多くを占める女子高齢入所受刑者では,初入の者も約半数いるが,入所度数3度以上の者も約3割を占めており(6-4-1-9図<2>参照),また,平成20年版犯罪白書でも,高齢の女子犯罪者について,初犯者,再犯者共に増加していることが明らかにされた。そこで,万引き事犯者については,高齢者のみならず,その予備軍ともなり得るそれより若い世代の者に対して,犯罪傾向が進む前に適切に対処することも重要である。
ところで,万引き事犯は,窃盗の中では,一般に,比較的軽く受け止められがちな手口の犯罪であり,また「買い物」という日常生活の場面で秘かに行われるため,犯行に及ぶ機会が日常的にある一方で,被害者側の防犯対策は容易でなく,発覚に至らないケースも少なくない。そのため,万引き事犯者の中には,初めて犯行に及んだ時にたまたま発覚しなかったことを契機として,その後も同種事犯を繰り返し,刑事施設に初めて入所するに至った段階では,規範意識が相当低下している者も見受けられるとの指摘もあった(本編第4章第1節コラム参照)。
このような状況に鑑みると,女子の万引き事犯者の処遇においては,規範意識が低下する前の段階,例えば,初めて検挙されたときなどの初期段階において,適切に対処し,規範意識を喚起させるとともに,万引きを繰り返させないための効果的な処遇を行うことが極めて重要である。この点に関連し,窃盗事犯者の起訴猶予率が,男子の場合には罰金刑の導入前後で大きな変化がないのに対し,女子の場合には罰金刑導入後の平成19年に大きく低下し,起訴率が上昇している(本編第3章第1節参照)ことが注目される。このことは,女子の窃盗事犯者に対する罰金刑の適用が相当程度あることを示唆するが,女子の万引き事犯者に対する罰金刑の運用の現状と,起訴猶予等の処分を受けた者を含めたその後の再犯状況の実態については,明らかではない。女子万引き事犯者に対する早期の適切な処遇の在り方を検討するに当たっては,この点を含め,より深化した実態把握が求められる。