犯罪白書では,平成4年版の特集において「女子と犯罪」を取り上げ,我が国の女子犯罪の動向及び女子犯罪者処遇の実情を報告した。当時の問題意識は,女子犯罪の増加と女子の社会進出との関連を探ろうとするものであったが,結論としてそれを否定し,女子犯罪の大半は,経済,家族,異性関係等の環境上の要因を背景とした,女性の社会進出が進む以前と変わらない犯罪類型であって,事件が増加している薬物犯罪や少年非行についても,「弱い立場から抜け出せない」女性や「家庭環境に問題をもつ」少女によって引き起こされているとし,「健全な家庭と子弟養育態度の維持向上が図られれば,在来の女子犯罪の防止に寄与するものと期待される。」と総括した。
その後,約20年が経過したが,この間,平成11年に男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)が制定され,これに基づく様々な施策も実施され,社会のあらゆる分野において女性の活躍が求められている。他方で,バブル経済崩壊後の長引く経済の低迷,急速な少子高齢化,インターネットや携帯電話の普及に伴う高度情報化社会の進展などにより生活様式や家族構成も大きく変化し,女性を取り巻く経済情勢や社会環境は従前とは著しく異なってきている。
女子の犯罪・非行に関しては,女子の入所受刑者人員が,平成22年に4年の約2.4倍になっていること,また,再入者が12年から増加傾向にあり,再入者率も17年から上昇し続けていること,他方において,女子の受刑者や少年院在院者には過去の被虐待経験や性被害による心的外傷,摂食障害の問題等を抱える例が多いことが指摘されていることなどの現状があるとして,24年7月に犯罪対策閣僚会議が決定した「再犯防止に向けた総合対策」においても,重点施策の一つとして「女性特有の問題に着目した指導及び支援」が挙げられているところである。
そこで,この編では,統計上のデータに基づき,女子の犯罪・非行の現状やその特徴的な傾向並びに女子の受刑者,少年院在院者及び保護観察対象者の実情と動向を概観し,女子特有の問題に着目した指導・支援の充実及び再犯防止に向けた基礎資料として提供するとともに,各種情勢の変化を踏まえた今後の方策について検討する。