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 昭和40年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/5 

5 更生(緊急)保護

 保護観察の対象とならない次の六種の者に対して,その再犯防止のために,更生(緊急)保護が行なわれている。すなわち,(1)刑執行終了者,(2)刑執行免除者,(3)刑執行猶予の言渡しをうけ,その裁判が確定するまでの者,(4)刑執行猶予で保護観察に付されなかった者,(5)訴追を必要としないため,公訴を提起しない処分をうけた者(起訴猶予者),(6)婦人補導院から退院した者または補導処分の執行をうけ終わったとされた者の六種類である。
 この更生(緊急)保護は,本人が刑事上の手続または補導処分による身体の拘束をとかれた後,六月以内の間に,親族や縁故者等からの援助や公共の衛生福祉その他の施設からの保護をうけることができない場合,または,これらの援助もしくは保護だけでは更生できないと認められる場合に,緊急の措置として行なわれるものである。
 その方法としては,本人の申出があった場合,補導,宿泊所の供与,食事つき宿泊の供与,食事の給与,医療および保養の援助,帰住の援助および金品の給与または貸与等の措置を,その更生に必要かつ相当の限度においてとることである。そのうち,食事つき宿泊,宿泊,補導等の措置は,更生保護会,地方公共団体または適当な個人に委託して行ない(委託保護),その他は保護観察所がみずから行なう(自庁保護)のである。最近五年間の更生(緊急)保護の措置状況を年度別にみると,II-108表およびII-109表のとおりで,措置人員においては累年減少しているが,措置件数においては増加の傾向にあって,対象者一人一人に対する保護措置の内容が多様化し,充実しつつあるのではないかと推測される。

II-108表 更生保護の新受および措置人員累年比較(昭和34〜38年)

II-109表 更生保護の措置件数,累年比較(昭和34〜38年)

(一) 更生保護会

 更生保護会は,民間の篤志家が法務大臣の認可をうけて,更生保護事業を営む団体であり,その行なう事業の種類によって,直接更生保護会と連絡助成保護会とに分かれている。更生(緊急)保護の対象者と保護観察中の対象者で,緊急な保護や応急の救護または援護を要する者を収容保護しているのは,直接更生保護会である。直接更生保護会の数や収容定員は,II-110表のとおりである。

II-110表 直接更生保護会の種類別施設数と収容定員数(昭和39年12月末現在)

 連絡助成保護会は,主として,直接更生保護会の指導,連絡,助成を行なう団体で,昭和四〇年一月現在五八団体あるが,その活動は,いまだ十分ではない。
 更生保護会の役割は,刑事政策的観点から高く評価さるべきものであるが,その経営内容は,必ずしも安定していないから,今後いっそうその強化充実をはかることが必要である。

(二) 更生保護会収容者のなりゆき

 更生保護会収容者のなりゆきについて,広い範囲にわたって調査したものはない。昭和三七年に,法務総合研究所が,同年に東京保護観察所から更生保護会に収容の委託をした三〇〇人について調査したところによると,調査内容が不十分であった一人をのぞく二九九人中,二四人(八・〇%)は収容を委託された更生保護会に入会せず,残りの二六五人中,二三人(八・四%)は一月以内に正当な理由なく退会している。また,再犯状況をみると,前記二九九人中,身柄釈放後一月以内に一八人(六・0%)が,三月以内に三三人(一一・〇%)が,六月以内に三〇人(一〇・〇%)が逮捕されている。
 以上述べたところによっても明らかなように,更生保護会収容者の更生をはかることは,収容者に種々の問題をもった更生困難者が多いだけに,更生保護会関係者の献身的努力にもかかわらず,決して容易ではないのである。
 更生保護会における活動をより効果あるものにするためには,まずその経営内容の安定化をはかることが緊要であるが,他方において,収容者の処遇方法に,たえず改善と工夫を加えて行く必要があると思われる。
 すなわち,対象者の収容を開始するにあたっては,保護観察所においても更生保護会においても,本人の性格,経歴および能力などについてできるかぎり綿密な調査を行なって,対象者の特性に即した分類的収容方法を行なうこと,また,日常の処遇場面のなかに,カウンセリングやグループワークなど本人の更生意欲を助長するにふさわしい専門の的技法もとり入れ,処遇内容の質的向上をめざして行くこと,などがその主たるものと思われる。さらに,本人をして,なるべく早く,安定した住居や職場を確保させ,更生保護会を踏台として短期間に自立し得るように格段の配慮の必要なこともいうまでもない。