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 昭和40年版 犯罪白書 第二編/第三章/二/4 

4 保護観察の実施状況

 保護観察の実施状況をみるにあたり,その実施過程を全般にわたって考察することは,資料の制限等から困難であるから,ここでは保護観察の実施上,もっとも重要と思われる点を取り上げて考察し,それらに関連する運用上の問題点に若干ふれるにとどめる。なお,保護観察処分少年および少年院仮退者についての詳細は第三編第三章にゆずることにした。

(一) 保護観察所への出頭状況

 保護観察を開始する際,もっとも大切なことの一つは,対象者に保護観察の趣旨や保護観察期間中の心得等を理解させ,その後のケースワークを支障なくすべり出させることである。このためには,保護観察開始当初における保護観察所への出頭をまず確保することが肝要である。
 保護観察対象者の種別にしたがって出頭状況をみると,II-95表およびII-96表のとおりで,仮出獄および少年院,婦人補導院からの仮退院,つまり,いわゆるバロールにおいては出頭率が高く,逆に,保護観察処分や保護観察付執行猶予,すなわち,いわゆるプロベーションのそれは低い。パロールにおいて出頭率の高いのは,地方委員会や矯正施設の職員から厳重に出頭方を説示されているからでもあろう。保護観察付執行猶予者の出頭率が特に低いのは,制度上にも問題があるものと思われる。すなわち,裁判所が保護観察に付する旨の判決を言い渡しても,判決確定までの間に空白の期間があり,また保護観察をうける住居地は,本人がみずからこれを定めて,保護観察所長に届ければ足りることになっている。言渡裁判所および対応検察庁からは,判決言渡しおよび判決確定のつど,それぞれ,その旨が保護観察所に通知されるが,通知を受理する以前に身柄が釈放されるため,出頭を確保しにくいのが現状である。

II-95表 保護観察開始時における保護観察対象者の出頭状況(昭和38年)

II-96表 保護観察開始時における保護観察対象者の出頭状況累年比較(昭和34〜38年)

 保護観察所へ出頭しない者に対しては,保護観察所から呼出し等の方法で,出頭を促すのであるが,これによって出頭する者は少ないようである。出頭確保のためには,裁判所,検察庁との協力体制を確立する必要があるが,抜本的には,保護観察官を裁判所の所在地等に常駐させて,言渡しのつど,本人の住居地等を確認し,本人に保護観察の趣旨を理解させる等,円滑に保護観察下に導入する措置をとるべきであろう。このような事情にかんがみて当局は,鹿児島県名瀬のほかに,昭和三八年から,八王子,沼津,浜松,姫路,豊橋,飯塚,小倉,佐世保,また昭和三九年から,平,室蘭,網走の各裁判所支部所在地に保護観察官を駐在させ,この種の業務を遂行させているが,その成績は良好で,今後その成果は大いに期待される。ちなみにその取扱人員を掲げるとII-97表のとおりである。

II-97表 駐在官事務所別保護観察の開始に関する事務取扱人員(昭和39年)

(二) 所在不明者

 保護観察に付された者のなかには,保護観察所に出頭しないまま,あるいは担当者との接触の始まったのちに,所在不明になるものがある。これらの者は,保護観察から離脱した者で,再犯の危険性が強いと考えられる。
 最近五年間の所在不明者は,II-98表のとおりで,いずれの保護観察種別においても累年増加の傾向にあったが,昭和三八年はやや減少の傾向にある。しかし,同年においても年末保護観察人員の約一割を占めており,特に仮出獄者と保護観察付執行猶予者において,その占める比率が高い。後者に所在不明者が多いのは,保護観察所への不出頭者が多いこと等と関連があると思われるが,前者の場合は,II-99表からみると,主として保護観察の停止決定をうけたケースの累積によるものである。仮出獄者が,保護観察期間中居住すべき住居に居住せず,所在不明となって保護観察を実施することができなくなったときは,保護観察所長の申請により,地方委員会は保護観察の停止の決定をすることができるが,この決定は刑期の進行を停止する効力を有するから,時効の完成がないかぎり保護観察は終結せず,このため停止の決定をうけた者の数は,しだいに累積することとなるのである。

II-98表 保護観察種別所在不明状況累年比較(昭和34〜38年)

II-99表 仮出獄者中の所在不明人員と率(昭和34〜38年)

 このように,所在不明者がふえ,保護観察の停止者が累積していくとともに,保護観察所が所在不明者の発見のために払う労苦は,ますます増大し,ひいては,これが本来の保護観察業務に支障を与えるという悪循環の原因になりかねない。
 したがって,これに対処するためには,所在不明者の所在発見のいっそうの努力はもとより,あとに述べるように所在不明になることの防止のための配慮と積極的な措置が必要と思われる。
 保護観察人員中所在不明者の占める率を,大都市管轄の保護観察所とその他の保護観察所の別に,累年比較するとII-100表のとおりで,神戸をのぞく大都市管轄庁において高い。その理由については,いろいろ考えられるが,その一つは保護観察対象者の移動である。II-101表は,新受人員に対する移送受理人員の割合を,保護観察種別に累年比較したものであるが,これによると,保護観察期間の短い仮出獄者をのぞき,その割合は約二〇%に達するのであり,最近五年間に急増している。また,ケースの移送は,地方の保護観察所から大都市管轄保護観察所に対してなされる場合が多い(前掲II-90表)。

II-100表 大都市管轄保護観察所とその他の保護観察所とにおける所在不明状況(昭和34〜38年)

II-101表 保護観察種別新受人員に対する移送受理人員の割合(昭和34〜38年)

 移送ケース中には,本来うけなければならない転居の許可をうけずに転居したため,身柄の移動後かなり長い期間を経過した後,移送されるケースがかなりふくまれているし,また移送後も,移送先を管轄する保護観察所に出頭してその指示をうける者はII-102表に示すように,非常に少ない。これらの事情と大都市管轄保護観察所において所在不明者の多いことは関連があるのではないかと思われる。

II-102表 移送により受理した者の出頭状況(昭和34〜38年)

 所在不明者の所在発見のためには,保護観察所相互間はもちろん,裁判所,矯正施設,警察等の関係機関との間にも密接な連けいが必要である。しかし,所在不明者をつくらないことは,さらに重要なことであり,そのためには,保護観察開始時における保護観察所への出頭の確保,転居時の手続の厳格な実行,ケースの移送や居住確認の迅速化などの業務のいっそうの充実をはかるべきであろう。

(三) 保護観察対象者の成績と保護観察終了

 保護観察の担当者が,毎月,保護観察所長に提出する成績報告書には,心身,家庭環境,交友,就職(学)等の本人の現況一般,および実施した保護観察の経過等にわたって記載し,さらに,その月における本人の保護観察成績を,「良」,「やや良」,「普通」,「不良」の四段階に評定して記載することになっている。昭和三九年五月分の成績報告書について,法務省保護局が行なった成績調査の結果は,II-103表のとおりであって,保護観察種別では少年院仮退院者の保護観察成績が著しく悪いことが目立つ。

II-103表 保護観察成績評定状況(昭和39年5月末現在)

 保護観察の成績が良好で,保護観察を続ける必要がないまでに更生した者については,保護観察を中止し,あるいはこれを終了させる措置をとることができる。この措置のうちで,措置人員の比較的多いのは,保護観察処分少年に対する解除,少年院仮退院者に対する退院および保護観察付執行猶予者に対する仮解除である。その措置状況を示すと,II-104表のとおりである。

II-104表 成績良好者に対して保護観察所のとった措置(昭和34〜38年)

 逆に,保護観察の成積が不良な者に対しては,その程度と状況に応じて,保護観察官が本人を呼び出したり,家庭を訪問して訓戒,指導をしたり,場合によっては裁判所の発する引致状によって引致するという強い手段をとるのである。
 しかし,このようないろいろな手段を講じても効果のあがらないものについては,それが保護観察処分少年であれば家庭裁判所への通告,少年院仮退院者であれば戻し収容の申出,仮出獄者であれば保護観察の停止や仮出獄の取消しの申請,保護観察付執行猶予者であれば仮解除の取消しの申請や執行猶予の取消しのための検察官への申出,婦人補導院仮退院者であれば仮退院の取消しの申請などの措置をとるのである。これについても,措置人員の比較的多いものだけを取り上げ,その状況を示すとII-105表のとおりである。

II-105表 成績不良者に対して保護観察所のとった措置(昭和34〜38年)

 保護観察の終了の状況を,保護観察種別によってみると,II-106表のとおりである。ここで,保護観察終了人員のうち,取消で終了する者の占める率が仮出獄者においては低く,保護観察付執行猶予者においては高いという点が目立つが,これは,一般に前者においては保護観察期間が短く,後者においてはそれが長いということも関連があるように思われる。また保護観察付執行猶予者においては,取消しによって終了する者の占める率が逐年漸減しているが,しかし,昭和三八年においても,なお二九・六%を示している。

II-106表 仮出獄者および保護観察付執行猶予者の保護観察終了人員とその終了事由別率(昭和34〜38年)

(四) 婦人補導院仮退院者

 婦人補導院からの仮退院は,II-107表に示すように,年間受理人員は非常に少なく,昭和三八年で二六人,年末現在係属数は六人にすぎない。そのほとんどが期間満了者で,仮退院を取り消された者は,この制度の設立以来過去六年間に一人にすぎない。このように,ケースの数が少なく,保護観察期間が短いから,その成績を評価することは困難である。

II-107表 婦人補導院仮退院者(昭和33〜38年)