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 昭和40年版 犯罪白書 第一編/第二章/三/2 

2 収賄および贈賄

 収賄は,公務員の犯罪のなかで重要なものの一つである。すなわち,その数において公務員犯罪中最も高い比率を占めているうえに,この種犯罪は公務員の職務の公正と各般の行政施策などの適正な運営を阻害する可能性の大きいものであり,また,官公庁に対する国民の不信を招来するのみならず,ひいては国民一般の遵法意識をも低下させるなどの弊害を有するものである。しこうして,この犯罪に対する世論の批判もすこぶるきびしいのであるが,それにもかかわらず今日なお依然としてその跡を絶たないばかりか,前掲I-46表にみるごとく,近時かえって増加の傾向にある。もとより,この種事犯については,特定の被害者というようなものが存在しないということもあって,その潜在性が強く,取締りもきわめて困難であるので,統計面にあらわれた数字のみによって,その動向を断ずることは早計であろうが,上述した増加の傾向は,やはり留意を要するといって差支えないと考える。他面,近時の事犯は,ますます悪質,巧妙化しつつあるともいわれており,この種事犯に対する取締りの必要性は,いよいよ増大しつつあるということができよう。
 このように収賄および贈賄が,発生する理由はどこにあるであろうか。この点を正確に究明することは困難であるが,さしあたり,留意すべきものとして,次のような事実をあげておこう。
 第一は,自覚の欠如である。すなわち,公務員のなかには,みずからの地位,責任とくに公正,廉潔の重要性についての自覚を十分もたないものがあるように思われる。このような公務員が一般産業界の人々などを相手として何等かの権限を行使するとき,ややもすれば役得意識などに支配されて漫然と金品やもてなしを受けたり,甚しい場合にはそれを要求することになりやすい。
 これまでに,汚職の防止対策として公務員の給与改善が説かれたことがある。たしかに給与は重要な問題であるけれども,これまでの事例によれば,必ずしも生活に困っていない公務員が汚職を犯した場合が少なくない。自覚は,いかなる誘惑をもしりぞけるものであり,汚職防止の第一に掲げられるべきものと考える。
 第二は,綱紀の問題である。いうまでもないことだが,およそ役所の服務が厳正で,上司は率先すい範よく部下を指導監督し,他方部下は進んで上司の指揮監督下に入り,全員がそれぞれの職務と責任を自覚し,忠実にまた能率的に職務の遂行に当るというような役所においては,汚職にとどまらずおよそ犯罪発生の可能性が小さいのである。
 第三は,一般企業者間の過当競争である。すなわち企業者のなかには,競争に勝ち抜くために手段をえらばず,金品をもって関係公務員に対し,計画的かつ執ように働きかけることもあえて辞さないといった人々が存在するのであって,従来の例によれば,この種の働きかけが汚職事件を発生せしめた一因と考えられる事例が少なくない。根本的には公務員の自覚にまつべき問題とはいいながら,他面一般企業者に対しても自しゅくを要望せざるをえないのである。