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第3節 まとめ〜非行・犯罪をした者を包摂する社会の実現に向けて

以上に見たように,再非行や再犯を防止するためには,本人の資質面の問題の改善や自助努力の精神をかん養するとともに,円滑な社会復帰や適応促進に向けた指導や支援を,家庭,学校,職場,地域社会等で重層的・継続的に展開する必要があり,刑事司法機関はもとより,福祉,教育,労働,医療等の多機関が緊密に連携し,本人の問題性を解消し,立ち直りを支援するための効果的な対策を切れ目なく継続的に実施していく必要があるが,これらの対策は,少年や若年者が生活する地域社会からの理解や協力があってこそ,より良い形で実効性を発揮していくものといえる。非行や犯罪に陥った若者の問題の深化を食い止め,その再犯を防止していくためには,彼らを社会から排除するのでなく,責任ある社会の一員として私たちの社会に再び包摂していくことが何より重要であり,「立ち直り」を目指す少年・若年者に対しては,家庭はもとより,学校,職場,地域社会等によるサポートが大きな意味を持つ。そのためにも,少年・若年者が抱える問題に対する国民の理解と協力を得るよう努めていくことが今関係機関に求められているといえる。


COLUMN 東日本大震災における矯正施設の被災状況及び被災者支援活動

平成23年3月11日午後2時46分,三陸沖を震源とする国内観測史上最大規模の東日本大震災が発生し,これに伴って発生した高い津波が東北地方の太平洋沿岸部を始めとする各地を襲い,死者・行方不明者2万人を超える甚大な被害をもたらすとともに,原子力発電所の事故等を引き起こしました。同地方に所在する刑務所や少年院等の矯正施設も被災し,多くの施設が停電を始め,ライフラインが全て途絶える中,自家発電機を作動させて施設内の電源を確保したほか,備蓄していた食糧で被収容者の当面の食事をまかないましたが,いずれの施設も,居室棟や外塀はおおむね無事で,一人の負傷者も出さずに済みました。

東日本大震災後,全国各地の少年院では,少年たちが「被災地のために今自分たちにできることをしたい。」「被災地の少年院を応援したい。」という思いから,被災地に向けての激励作品やメッセージ等を作成しました。次の写真は,そのうちのごく一部です。これらの作品は,被災地の少年院に送られ,被災地で社会復帰に向けて頑張る少年たちの心に大きな勇気として届けられるとともに,第53回全国矯正展において展示され,一般の方々にも見ていただきました。






また,震災後の被災地では,全国の矯正施設の職員も,被災された方々の支援活動に加わりました。石巻拘置支所に援助のため派遣された管区機動警備隊員らは,被災者が避難所にあふれ,極度の食糧不足に陥っている状況を目の当たりにし,同支所への救援のために持参していた缶詰やレトルトカレーを避難所に持ち込んで炊き出しを行うなど,臨時に被災者支援を行いました。こうした支援をきっかけに,宮城県石巻市から法務省に対し,避難所の運営等の支援について要請があり,同年4月下旬から,石巻市から指定された4か所の避難所に,刑務官が常時2人ずつ配置され,避難所での支援物資の配布,食事の配食,入浴・洗濯の順番の整理,被災者の方々の要望等を受け付けて自治体の職員に伝達するなどの業務を行いました。また,少年鑑別所の法務技官(心理)や,臨床心理士の資格を有する少年院の法務教官が,被災者への心理相談活動等のために派遣されました。

さらに,全国各地の少年鑑別所等では,地方自治体の要請に基づき,大学や臨床心理士会等と連携の上,最寄りの避難所等における心理相談活動や電話相談,地域の小学校における教員への助言等を行いました。医療の面でも,矯正施設に勤務する法務技官(医師)を避難所に派遣し,被災者の方々の診療を行うなどの支援を行いました。岩手県からは,宮古地区において児童精神医学上のケア等について支援してほしい旨の要請があり,診療や処方の体制等について同県保健福祉部局や県医師会等の関係機関と調整の上,矯正施設に勤務する医師を同年6月からおおむね1年間の予定で,週1回,派遣しています。


石巻拘置支所での被災者への炊き出しの様子
石巻拘置支所での被災者への炊き出しの様子

心理相談活動等の関係機関との打合せの様子
心理相談活動等の関係機関との打合せの様子