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2 領域別の原因認識

非行や犯罪の要因には,本人の個人的資質等の問題とともに,本人を取り巻く対人関係,生活環境上の問題や課題等,様々なものが考えられる。そこで,今回の特別調査では,非行や犯罪の要因になり得るリスク領域を,家庭,学校,就労,交友関係,薬物使用等(問題飲酒を含む。),余暇活動,生活管理,性格・性質,態度の9領域(領域ごとに6項目の選択肢を設定。)に分け,各領域別の選択肢から自分の非行や犯罪に影響したと思われる事項を複数回答させ,非行少年や若年犯罪者がどの領域でどのような問題を抱えていると認識しているのか分析した。

7-4-3-2表は,各リスク領域の各選択肢の選択率を非行少年・若年犯罪者別に見たものである。まず,非行少年の中で選択率が高い項目を見ると,「規則や注意を軽く考えていた」(64.5%,態度),「遊び中心で生活が乱れていた」(63.2%,生活),「我慢が足りなかった」(62.7%,性格),「非行や犯罪をする友人や知人がいた」(60.1%,交友),「退屈してぶらぶら過ごしていた」(45.2%,余暇)の選択率が高い。同様に,若年犯罪者について見ると,「我慢が足りなかった」(79.3%,性格),「規則や注意を軽く考えていた」(71.5%,態度),「他人の気持ちや迷惑に関心が不足」(61.3%,態度),「金づかいが荒かった」(60.5%,生活),「遊び中心で生活が乱れていた」(58.3%,生活)の順となり,非行少年と若年犯罪者ではいずれも,耐性の弱さや規範軽視等の資質面の問題,生活管理上の問題,不良交友の問題が非行・犯罪に影響したと認識する者が多いことが指摘できる。一方,双方の違いを見ると,若年犯罪者では,薬物等の領域で薬物の使用・乱用等の選択率が高く,家庭の領域で家族の愛情の不足や家族関係の悪さの選択率が比較的高く,家庭に関する問題が一層影響していると見られること,就労の領域で就労の継続や就労意欲の不足の選択率が高いこと,交友の領域で暴力団等の不良集団との関わりの問題を選択する者が3分の1強にも及び,不良交友の質が悪化していること,余暇や生活管理の領域では,ギャンブルや借金の問題を選択する者が比較的多いこと,不良交友や遊びを中心とした生活の中で就労生活の維持に大きな課題を抱えているなど,多様な領域で非行少年より問題が大きくなっていることが認められる。


7-4-3-2表 リスク領域別選択項目の選択率(非行少年・若年犯罪者別)
7-4-3-2表 リスク領域別選択項目の選択率(非行少年・若年犯罪者別)

7-4-3-3図<1>は,調査対象者が選択した全選択肢を,一つの選択肢につき1点に換算した上,各領域別に算定した得点の合計値(平均値で表示)を見たものであり,7-4-3-3図<2>は,全領域の総得点を保護処分歴別に見たものである。得点の高低は,自己認識における当該領域の問題の多寡を反映していると考えられる。非行少年(全体)では,性格・性質(2.0),態度(1.8),交友(1.6),学校(1.4),生活管理(1.3)の順で領域別得点が高く,同様に若年犯罪者(全体)では,態度(2.5),性格・性質(2.3),交友(1.9),生活管理(1.8),学校(1.5)の順で領域別得点が高い。若年犯罪者の方が全ての領域で領域別得点が高く,総得点(7-4-3-3図<2>)でも非行少年が約11点,若年犯罪者が約15点と,平均して約4pt(約4項目分)の差があり,若年犯罪者では本人の抱える問題が拡大・深刻化していることが推察される。さらに,保護処分歴別に見ると,非行少年・若年犯罪者のいずれにおいても保護処分歴なし,保護観察歴,少年院送致歴の順に総得点が上昇する傾向が認められるが,いずれの保護処分歴の区分でも,若年犯罪者の方が得点が高い。保護処分歴の程度が増すに従い,また,年齢が増すに従い,総じて多様な領域に問題が拡大していく傾向があり,少年院の矯正教育等を受けてもなお犯罪に及ぶ若年犯罪者では,問題性が拡大・深刻化している者が多い。


7-4-3-3図 非行・犯罪のリスク領域別の原因認識(非行少年・若年犯罪者別・保護処分歴別)
7-4-3-3図 非行・犯罪のリスク領域別の原因認識(非行少年・若年犯罪者別・保護処分歴別)

次に,以上の「保護処分歴なし」,「保護観察」,「少年院送致」の区分による要保護性の程度・非行性の進度に照らした分析に加え,非行の早発性の観点から分析を試みるため(7-2-2-4図参照),他の保護処分を受けたか否かにかかわらず児童自立支援施設等送致歴の有無による比較を行う。

7-4-3-2表の各領域の項目のうち,児童自立支援施設等送致歴のある者とない者との間で選択率に明らかな差があるものに限って,児童自立支援施設等送致歴の有無別,非行少年・若年犯罪者別に選択率を示すと,7-4-3-4表のとおりである。非行少年の家庭,学校,就労,薬物等,余暇,性格,態度の各領域と,若年犯罪者の全領域で,児童自立支援施設等送致歴のある者の選択率が同歴のない者よりも明らかに高い項目が多い。


7-4-3-4表 児童自立支援施設等送致歴の有無によるリスク領域別選択項目の選択率(非行少年・若年犯罪者別)
7-4-3-4表 児童自立支援施設等送致歴の有無によるリスク領域別選択項目の選択率(非行少年・若年犯罪者別)

児童自立支援施設等送致歴の有無別,非行少年・若年犯罪者別に領域別得点の分布及び全領域の総得点を見ると,7-4-3-5図のとおりである。


7-4-3-5図 非行・犯罪のリスク領域別の原因認識(児童自立支援施設等送致歴の有無別)
7-4-3-5図 非行・犯罪のリスク領域別の原因認識(児童自立支援施設等送致歴の有無別)

児童自立支援施設等送致歴のある非行少年(24人)の領域別得点(同図<1>I)は,性格(2.7),態度(2.6)で特に高く,この領域並びに,家庭,就労,薬物等及び余暇の領域において,同歴のない非行少年よりも,領域別得点が高い。児童自立支援施設等送致歴のある若年犯罪者(24人)の領域別合計得点平均値(同図<3>III)は,交友(2.7),生活(2.6),性格(3.3),態度(3.3)の各領域において特に高く,また,全領域において,同歴のない若年犯罪者よりも領域別得点が高い。

次に,総得点を見ると,児童自立支援施設等送致歴のある非行少年では15.4であり,同歴のない非行少年(10.8)より高く(同図<2>I),同歴のある若年犯罪者では21.6であり,同歴のない若年犯罪者(14.2)より相当に高い(同図<4>III)。すなわち,児童自立支援施設等送致歴のある者の総得点は,同歴のない者よりも高く,かつ,その較差は若年犯罪者において大きいといえる。

さらに,非行少年のうち,保護観察歴・少年院送致歴のない者に限って,児童自立支援施設等送致歴の有無別に総得点を見ると(同図<2>II),児童自立支援施設等送致歴のある者(15人)が15.1であるのに対し,同歴のない者は9.9である。また,若年犯罪者のうち少年院送致歴のある者に限って,児童自立支援施設等送致歴の有無別に総得点を見ると(同図<4>IV),児童自立支援施設等送致歴のある者(19人)は22.7と,同歴のない者(17.2)と比べて顕著に高い。

児童自立支援施設等送致歴がある非行少年及び若年犯罪者については,多数の領域で多様な問題が見られ,特に若年犯罪者については,その問題がより深刻化する傾向がうかがえる。早期に非行を開始し,その後も,非行又は犯罪を行う者の抱える問題性は,その領域・程度共に大きいことが多く,特に成人後も犯罪を行う者は,問題性がより深刻な者が多く,適切な処遇の必要性が高い。