再犯防止は,古くから刑事政策上の重要な課題である。我が国において,国民の暮らしの安全・安心を確保するために,現在,再犯防止対策が国の重要課題となっている。このような再犯防止対策において,特に少年・若年犯罪者に対する処遇が重要であることは,近年の犯罪白書で繰り返し指摘したとおりである。例えば,平成19年版犯罪白書は,「再犯者の実態と対策」と題する特集を組み,再犯者において,その初犯前科の年齢は20歳代前半が約40%,20歳代全体が約60%と高い割合を占めていること,20歳代前半で初犯に至った者の約40%,20歳代後半で初犯に至った者の約28%が再犯に及び,その再犯率が高いこと,20歳代前半の入所受刑者において少年時に保護処分歴のある者の割合が高いこと,少年時に刑事処分を受けた者の約60%が再犯に及び,その再犯率が高いことなどを指摘し,少年・若年犯罪者の再犯に関する量的な問題点を明らかにした。また,平成22年版犯罪白書は,「重大事犯者の実態と処遇」と題する特集を組み,殺人等の重大事犯に至った者のうち,少年時に保護処分歴がある者,初犯前科が20歳代前半の者は再犯率が高いこと,前科を有する重大事犯者の中で初犯前科が20歳代前半の者の割合が高く,そのような者はその後の再犯の数も多いことを指摘し,少年・若年犯罪者の再犯に関する質的な問題点を明らかにした。
再犯防止対策は,犯罪者が社会の健全な一員として復帰することが国民全体の利益にもなるという観点からも意味を有しているが,少年・若年者は,これからの社会を担っていく存在であることを考えると,取り分け,非行・犯罪に陥った少年・若年者を真に立ち直らせ,健全な社会の一員として迎え入れることは,我が国に活力をもたらし,国民全体の福利に資するところが大きいといえよう。少年・若年犯罪者に対する有効な再犯防止対策は,犯罪を減少させ,治安を維持するだけではなく,国民の福利を増進させるという点からも,高い意義があると考えられる。
非行少年は,保護処分により,少年院の矯正教育を始めとした指導を受け,また,更生のための支援を得て,その多くが立ち直りをみせるが,これらの指導,支援を受けても立ち直ることができず,若年犯罪者となっていく者も少なからず存在している。再犯の芽を摘むためには,少年期から成人期へ移行する一連の時期において,これらの者に対し効果的な再犯防止のための処遇を行うことが極めて重要である。そこで,本年版犯罪白書では,「少年・若年犯罪者の実態と再犯防止」と題し,少年及び若年者(20歳以上30歳未満の者をいう。以下同じ。)の犯罪の実態,その再犯の要因,改善更生の契機等について分析を行うこととし,今後の少年・若年犯罪者の再犯防止対策を検討する上で有益な基礎資料を提供することを目指した。
本編の構成は,以下のとおりである。
第1章においては,非行少年・若年犯罪者の実態をより深く理解するための前提として,少年・若年者一般をめぐる現状を紹介する。
第2章においては,各種統計資料等に基づき,非行少年及び若年犯罪者の現状・特徴及び量的・質的な変化や,処遇の実情,再非行・再犯の実態等を分析した。
第3章においては,少年院出院者について,25歳に達するまでの間の刑事処分の有無を追跡調査し,刑事処分に至った者とそうでない者の比較分析,刑事処分に至った者の少年院出院後の問題点,特徴等の分析を行った。
第4章においては,少年鑑別所入所少年及び若年受刑者に対する意識調査を行い,非行少年及び若年犯罪者の対比,過去の同種調査及び一般青少年との比較等を行って,その問題性を分析した。
本特集においては,犯罪に至る要因についての外的・客観的な分析(第3章)並びに非行少年及び若年犯罪者の意識の主観的な分析(第4章)という相補的な2つの特別調査によって,犯罪のリスク要因,立ち直りのためのニーズ等を明らかにすることを企図した。
第5章においては,保護処分又は刑事処分を受けた少年・若年犯罪者について,その後の処遇,指導・支援が奏効して問題性が改善されたと評価できる事例を取り上げ,立ち直りのポイントを分析するとともに,再犯防止・改善更生のための処遇・取組について紹介した。
以上を踏まえ,第6章において,少年・若年犯罪者の実態と処遇の更なる充実に向けた課題や展望について総括した。