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平成22年版 犯罪白書 第7編/第2章/第4節/2

2 考察

この項では,前項で紹介した事例をもとに,重大事犯者の社会復帰を促進する上で重要であると考えられる要因について,若干の考察を行う。

まず,社会復帰を遂げるためには,本人が犯罪の責任は自分自身にあることを十分に認識した上で,犯罪に至った原因を考え,その原因を克服する努力を重ねることが前提になると考えられる。前項で紹介した事例でも,本人たちが,自己中心的な傾向を改め,他人と良好な関係を築き,飲酒やギャンブルに逃避する態度を改め,他人のために生きていこうと考えるなど,改善更生の強い意欲を持って努力したことが社会復帰の鍵となっていることは,容易にうかがわれる。

次に,自分の犯罪が甚大な被害をもたらしたことを十分に認識し,被害者やその遺族らに誠実に対応しようとすることも,社会復帰を促進する要因の一つといえるであろう。事例(1)における被害者への謝罪,事例(3)における被害者との示談,事例(4)における慰霊の措置は,本人たちの悔悟の表れであり,社会復帰の促進に大きな意味を有していたと思われる。

さらに,社会復帰の促進要因として,安定した生活の基盤を確保し維持することを挙げることができる。前項で紹介した事例では,いずれも,住居と仕事が確保され,安定した生活基盤が整えられているが,事例(2)及び(4)におけるように,犯罪者の中には頼るべき親族等がない者も少なくなく,そうした者の社会復帰には,更生保護施設への入所が不可欠的であり,また,犯罪者が職に就くためには,様々な困難もあると考えられ,事例(3)及び(4)で,親族や保護司等の援助により仕事が確保されたことや雇用主の理解により雇用が継続されたことにも,注目したい。

最後に,生活基盤を確保するための支援があることのほか,親族を始め他人との人間的で良好な交流があることも,本人の精神的な支えとなり,社会復帰に重要な意味を持っていると考えられる。事例(3)では,それまで疎遠となっていた親族の支援を受けたほか,実子との交流も復活したことでより充実した生活を送るようになり,社会復帰が促進されたものと考えられ,事例(1)でも,家族の存在が本人の精神的な支えになっていたとうかがわれる。さらに,事例(4)では,約20年間にわたり,保護司や雇用主の有形・無形の支援があったほか,職場の同僚や近隣の者との良好な交流が本人に精神的に豊かな生活をもたらし,社会復帰を支えていたと思われる。