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平成22年版 犯罪白書 第2編/第4章/第3節/1

第3節 受刑者の処遇等

1 処遇の概要

受刑者の処遇は,刑事収容施設法に基づき,受刑者の人権を尊重しつつ,その者の資質及び環境に応じ,その自覚に訴え,改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを目的として行われるが,その流れは2‐4‐3‐1図のとおりである。

2‐4‐3‐1図  受刑者処遇の流れ

(1)処遇指標及び処遇要領

受刑者の処遇の中核となるのは,矯正処遇として行われる作業(次項参照),改善指導及び教科指導(第3項参照)であるが,矯正処遇は,個々の受刑者の資質及び環境に応じて適切な内容と方法で実施されなければならない(個別処遇の原則)。

そのため,各刑事施設では,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識及び技術を活用し,受刑者の資質及び環境の調査(処遇調査)を行っている。また,新たに刑が確定した受刑者で,可塑性に富んでいる若年の者及び特別改善指導の実施方法を定めるために特に調査を必要とする者(性犯罪受刑者等)などは,調査センターとして指定されている特定の刑事施設で精密な処遇調査が行われている。

刑事施設では,刑の執行開始時に処遇調査(調査センターでの処遇調査を含む。)を行い,その調査結果を踏まえ,受刑者に処遇指標を指定する。処遇指標は,矯正処遇の種類・内容,受刑者の属性及び犯罪傾向の進度から構成されるもので,処遇指標の区分及び平成21年末現在の符号別の人員は,2‐4‐3‐2表のとおりである。処遇指標は,その指定がなされるべきものは,重複して指定される。例えば,職業訓練を実施し,改善指導は一般改善指導のみを行うべきものとされた,執行刑期が10年以上の犯罪傾向が進んでいない懲役受刑者は,V0,V1,R0,LAの指定を受ける。受刑者は,処遇指標を指定されることで,収容される刑事施設と矯正処遇の重点方針が決定される。例えば,LA指標の受刑者は,専らLA指標の受刑者を収容する刑事施設に収容され,R3指標の受刑者には,性犯罪再犯防止指導が行われる。

2‐4‐3‐2表  処遇指標の区分・符号

さらに,刑の執行開始時の処遇調査の結果に基づいて,矯正処遇の目標並びにその基本的な内容及び方法(例えば,具体的に,どのような方法や期間・回数で性犯罪再犯防止指導を行うかなど)が処遇要領として定められ,矯正処遇は,この処遇要領に沿って計画的に実施される。

このように,受刑者の処遇は,刑執行開始時に,資質上及び環境上の問題点を調査し,その調査結果に基づき,処遇指標を指定するとともに,処遇要領を定め,これに沿って行われるが,矯正処遇の進展に応じて,定期的に又は臨時に処遇調査が行われ,その結果に基づき,処遇指標及び処遇要領は,変更されることもある。

(2)制限の緩和と優遇措置

受刑者は,刑事施設において,様々な生活や行動に対する制限を受けるが,すべての受刑者に一律に厳格な制限を課すると,自発的・自律的に行動する意欲を削ぐことになりかねない。そのため,刑事施設では,受刑者に,受刑者処遇の目的(改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成)を達成する見込みに応じて第1種から第4種までの区分からなる制限区分を指定し,定期的に又は随時,その指定を変更して,その区分に応じた制限を課する(例えば,第1種の区分に指定された受刑者については,居室に施錠をしないことなど)ことで,受刑者に自発性や自律性を身に付けさせることとしている。平成22年4月10日現在,刑事施設本所77施設並びに刑務支所8施設及び大規模拘置支所4施設(札幌,横浜,さいたま及び小倉)に対する調査結果によると,これらの施設における受刑者の制限区分別人員は,第1種466人(0.7%),第2種4,445人(6.9%),第3種5万1,666人(79.8%),第4種2,847人(4.4%),指定なし5,282人(8.2%)であった(法務省矯正局の資料による。)。

改善更生に努力している者にはこれに報いることが,受刑者に改善更生の意欲を持たせる動機付けとなる。そのため,刑事施設では,6か月ごとに,受刑態度を評価し,良好な順に,第1類から第5類までの優遇区分に指定し,良好な区分に指定された者には,外部交通の回数を増加させたり,自弁で使用できる物品の範囲を広げるなどの優遇をした処遇を行っている。前記の調査対象施設に対する調査結果によると,平成22年4月10日現在,これらの施設における受刑者の優遇区分別人員は,第1類278人(0.4%),第2類6,338人(9.8%),第3類2万8,453人(44.0%),第4類7,444人(11.5%),第5類8,321人(12.9%),指定なし1万3,872人(21.4%)であった(法務省矯正局の資料による。)。

(3)外出・外泊

受刑者は,受刑者処遇の目的を達成する見込みが高く開放的施設で処遇を受けているなど,一定の要件を備えている場合に限られるが,円滑な社会復帰を図る上で,釈放後の住居又は就業先の確保,家族関係の維持・調整等のために外部の者を訪問し,あるいは保護司その他の更生保護関係者を訪問するなどの必要があるときに,刑事施設の職員の同行なしに,刑事施設から外出し,又は7日以内の期間で外泊することを許されることがある。