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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第4章/第1節/5 

5 高齢受刑者の意識

 高齢受刑者の中には,再入期間が短く,刑事施設への入所を繰り返している者も多くいることから,高齢受刑者が出所後,再犯をすることなく社会復帰していくための方策を検討することが重要となっている。そこで,法務総合研究所では,出所直前の高齢受刑者の金銭面や健康面での悩みや不安等を把握し,処遇上の手掛かりを得たいと考え,平成18年8月1日から同年11月30日の間に刑事施設本所,札幌刑務支所及び福島刑務支所を満期釈放又は仮釈放で出所した高齢受刑者に対し,意識調査を実施した。
 本調査は,原則として出所2週間前から実施される釈放前の指導の期間中に,調査対象者が任意でアンケート用紙に記入する方法で行われた。アンケート用紙には各問に複数の選択肢が用意され,択一又は重複で回答を求めている。
 調査対象者607人中,同調査に回答した者は391人(回答率64.4%)であったが,以下では,回答項目の中から,[1]自己の犯罪・受刑の理由,[2]刑務所生活の感想,[3]出所後の心配事,に絞り,初入者と再入者とに分けて回答内容の特徴を紹介する。
(1)自己の犯罪・受刑の理由
 「あなたが,今回,犯罪をして刑務所に入るようになったわけは,あなたが考えてみて,次のうちどれに当てはまりますか」と問い,重複を許して回答を求めた。その結果を初入者,再入者別に,各問に対して当てはまると回答した者の当該総数に占める比率(以下「選択率」という。)の高い上位7位まで示したのが,7-4-1-5図である。

7-4-1-5図 自己の犯罪・受刑の理由

 再入者については,「金遣いが荒かった」(31.5%)が最も多く,次いで,「仕事がなかった」(28.1%),「酒をやめられなかった」(25.1%)及び「生活が苦しかった」(25.1%)の順であるのに対し,初入者では,「酒をやめられなかった」(26.6%)が最も多く,次いで,「生活が苦しかった」(23.4%),「金遣いが荒かった」(18.5%)の順であった。
(2)刑務所生活の感想
 「あなたは,刑務所での生活を振り返ってみて,どのようなことが大変でしたか」と問い,重複を許して回答を求めた。その結果を初入者,再入者別に選択率の高い上位7位まで示したのが,7-4-1-6図である。
 初入者及び再入者ともに,「他の受刑者との人間関係がきつかった」(初入者55.6%,再入者66.3%)の割合が最も高く,日常生活で身近に接する受刑者同士の間でストレスが生じやすいことがうかがわれる。再入者は,初入者と比べて,「若い受刑者の行動についていけなかった」(31.8%)及び「体力的に作業がきつかった」(18.0%)と回答した者の割合が高かった。

7-4-1-6図 刑務所生活の感想

(3)出所後の心配事
 「あなたが,出所して社会へ戻ることを考えるとき,あなたにはどんな悩みや心配事がありますか。」と問い,重複を許して回答を求めた。その結果を初入者,再入者別に選択率の高い上位7位まで示したのが,7-4-1-7図である。
 初入者と再入者の両方に共通して高い割合で選択されていたのは,「お金が無いこと」(初入者34.7%,再入者46.4%)及び「仕事が無いこと」(初入者36.3%,再入者43.8%)であり,出所後の生活において金銭的な問題を切実な問題としてとらえている者が多い。初入者と再入者で回答への選択率の高さが異なったのは,「頼れる人がいないこと」(初入者15.3%,再入者28.1%)及び「被害者への謝罪に関すること」(初入者32.3%,再入者8.2%)である。この結果から,再入者は,初入者と比べて,出所後に頼れる人がいないなどの問題を抱える者が多いものと見られる。

7-4-1-7図 出所後の心配事