前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成20年版 犯罪白書 第7編/第3章/第1節/4 

4 高齢犯罪者による犯罪の特徴

 調査対象高齢犯罪者の罪名について見ると,高齢初犯者及び高齢再犯者に共通して,傷害・暴行が一定の比率を占めていることが分かるが,他方で,特徴的なのは,高齢再犯者については,絶対数は少ないものの実に40.2%の者の1犯時罪名が窃盗であることである(7-3-1-5図)。また,これらの高齢再犯者の再犯期間を見ると,69.7%の者が2年以内に再犯をしており,再犯期間が短い傾向がうかがわれる。

7-3-1-5図 調査対象高齢犯罪者の犯歴時年齢別・1犯目の罪名別構成比

 そこで,1犯時の罪名が窃盗である高齢再犯者53人について,2犯時の罪名を見ると,92.5%(49人)の者の再犯罪名が窃盗であり,この49人のうち3犯目に進んだ者(10人)の罪名は,全員が窃盗であった。このように,高齢の窃盗犯は,窃盗を繰り返す傾向が見られるので,この点についても,本章第2節において,その背景要因等について検討する。
 最後に,調査対象高齢犯罪者の再犯傾向を1犯目の罪名を基準に見ると,窃盗を1犯目の罪名とする者の同種再犯傾向は極めて高く(64.8%),傷害・暴行,詐欺が続いている(7-3-1-6図)。全体としては,再犯ありの者が半数に近い。
 犯歴時の年齢を基準とした同種再犯傾向については先に見たとおりであるが(本節参照),ここでは,罪名別の同種再犯傾向を調査対象高齢犯罪者(5,115人)について検討すると,実数が多く,同種再犯傾向も高いのは,窃盗と傷害・暴行である。
 まず1犯目が窃盗で,その後1回以上再犯がある者(625人)のうち,すべての再犯が窃盗の者は29.4%(184人),再犯の中に少なくとも窃盗を1回含む者は52.0%(325人)であり,その同種再犯傾向の高さを裏付ける結果となっている。
 次に,傷害・暴行が1犯目で,その後1回以上再犯がある者(483人)について同様の検討をすると,すべての再犯が傷害・暴行の者は15.1%(73人),再犯の中に少なくとも傷害・暴行を1回含む者は38.1%(184人)となっており,窃盗ほどの累行性は見られないものの,依然5割強の者に同種再犯が認められる。

7-3-1-6図 調査対象高齢犯罪者の1犯目の罪名別・再犯の有無別構成比

◆ 参考 年齢と犯罪傾向の関係
 年齢と犯罪傾向の関係を知ることは,犯罪対策を重点的に行うべき年齢層を絞り込み,効果的な対策を立案する上で重要である。年齢別人口単位の犯罪率(例えば,同年齢人口10万人当たりの一般刑法犯検挙人員の比率)については,国・地域を問わず,思春期初期(13歳前後)から上昇を始め,おおむね思春期中期(16〜17歳)でピークに達し,以後減少傾向が続くことが従来の研究から知られている。これは,新たに犯罪をする者が発達・加齢に伴って減少すること,また,犯罪をしてきた者であっても加齢に伴い再犯を止めることを意味している。
 そこで,ここでは,年齢別人口単位の犯罪率の一般的傾向と同じ傾向が日本の調査対象者にも当てはまるかとの観点から,次の2点について検討する。第一は,調査対象者が高齢に達して以降に初めて犯罪を行う者の比率は,加齢と共に,一貫して低下しているか否かである。第二は,高齢に達するまでに犯罪歴のあった者であっても,加齢と共に,再犯をする傾向は低くなっているか(犯罪を繰り返すことを止めるか)否かである。年齢別人口単位の犯罪率の傾向に従えば,これら二つの場合ともに,低下傾向が見られるはずである。
 まず,第一の点について,調査対象者の1犯時の年齢の変化について見ると,@昭和3年(1928年)から8年(1933年)生まれの者については,前記の年齢と犯罪率の関係の傾向と同じく,加齢に伴って初めて犯罪を行う者の比率の低下傾向が見られる。しかし,A昭和9年(1934年)から11年(1936年)生まれの者については@と若干様子が異なって,加齢に伴って初めて犯罪を行う者の比率の低下傾向は,60歳から64歳以降やや緩やかとなっている(7-3-1-7図)。

7-3-1-7図 調査対象者の出生年別・1犯目の年齢層別人員の比率

 次に,第二の点について,加齢に伴って再犯を止める傾向があるのかを見ると(7-3-1-8図),@昭和3年(1928年)から8年(1933年)生まれの者については,前記の年齢と犯罪率の関係の傾向と同じく,加齢に伴って再犯を行う者の比率の低下傾向が見られる。しかし,A昭和9年(1934年)から11年(1936年)生まれの者については,50歳以上の各年齢層において2回以上の犯歴がある者(再犯者)の割合の低下傾向が,60歳から64歳の年齢層に達して以降緩やかとなっている。これは,Aの集団では,平成11年(1999年)から13年(2001年)ころ以降で,再犯を止めない者が見られることを意味している。このような犯罪者は1%以下と少ないものの,加齢に伴って再犯を止めるという一般的傾向と異なる者が含まれていることが分かる。

7-3-1-8図 調査対象者の出生年別・各年齢層において2回以上の犯歴がある者の比率

 このような高齢になっても再犯を止めない者について,彼らが犯罪を始めた時期について見ると(7-3-1-9図),約5割の者が29歳以下の年齢で犯罪を始めている。

7-3-1-9図 65歳未満に1犯目を行った調査対象高齢犯罪者の1犯目の年齢層別構成比

 そこで,各年齢層で犯罪を始めた者のうち,どの程度の者が,その後犯罪を続けているのかを,実人員で見たのが7-3-1-10図である。これを見ると,65歳以上になっても犯罪を続けているのは,20歳代前半に犯罪を始めた者が多く,20歳代後半の者を合わせると,約5割の者が,若年者の頃に犯罪を始めた者であることが分かる(7-3-1-10図A

7-3-1-10図 調査対象者の1犯目の年齢層別・犯罪継続人員

 そこで,この点について,質的な観点から,各年齢層で犯罪を始めた者のうち,どの程度の比率の者が犯罪を続けているのか(以下,本項において「再犯継続率」という。)を,犯罪を始めた年齢層において犯罪を止めなかった者を分母とし,それ以降のそれぞれの年齢層において犯罪を続けている者を分子として分析した。すると,20歳代前半で犯罪を始めた者の再犯継続率は他の年齢層に比べて最も緩やかな減少率を示していることが分かる(7-3-1-11図)。すなわち,10年後の再犯継続率を比較すると,20歳代前半で47.3%,30歳代前半で45.8%,40歳代前半で30.0%,50歳代前半で26.7%と,再犯継続率は徐々に減少している。

7-3-1-11図 調査対象者の1犯目の年齢層別・犯罪継続率

 この減少率の意味するところをもう少し詳しく見てみたい。例えば,40歳代後半で犯罪を始めた者の場合,10年後の50歳代後半において約25%の者が犯罪を続けており,より犯罪性が強いと考えられる20歳代前半で犯罪を始めた者のうち,50歳代後半において犯罪を続けている者が約5%であるのと比べると,前者の方が問題性が高いように見える。しかし,40歳代後半で犯罪を始めた者は,その後10年間で犯罪を続けている者が4分の1に急減するのに対して,20歳代前半で犯罪を始めた者のその後10年間を見ると,30歳代前半では47.3%とほぼ半数が犯罪を続けており,同じ期間で見た場合の犯罪継続率の減少率の違いは歴然としている。加えて,20歳代で犯罪を始めた者が,高齢者になってからの65歳から69歳までの間,犯罪を続けている比率は約1%であるが,20歳代で1犯目を行う者の数は30歳代以降の各年齢層において1犯目を行う者の数に比べて多いことの影響もあり,比率は小さくとも高齢犯罪者としての実人員は多いことが分かる(7-3-1-10図)。
 以上のことから,単に年齢が若いため長期にわたって再犯をする可能性があるということにとどまらず,この年齢層は,人生の早い時期において既に前科を有するに至っているという犯罪傾向の強さを表していることがうかがわれる。それゆえ,高齢犯罪者対策の一部は,若年犯罪者の再犯防止対策の充実によって,対応しなければならない問題であることが分かる。他方,50歳以上の中高年の再犯継続率は,7-3-1-11図で見たように,若年層に比べて経年による減少率が高いが(10年経過でおおむね4分の1),犯罪を繰り返す者も含まれていることが分かる。これらの者は,実人員としては少ないものの(7-3-1-10図),このような中高年に1犯目を始めて,それ以降の再犯傾向の強い者については,今後,罪種や本人の属性・環境との関係で一層の分析を行い,その再犯要因を探究することが,その効果的対策を考える上で必要と考えられる。