前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成20年版 犯罪白書 第7編/第2章/第1節/2 

2 罪名別動向

 次に,どのような罪名において高齢犯罪者の増加傾向が著しいのかについて,罪名別の検挙人員の動向を見ていくこととする。
 平成19年の一般刑法犯の罪名別・年齢層別検挙人員は,7-2-1-4表のとおりである。

7-2-1-4表 一般刑法犯の罪名別・年齢層別検挙人員

 各年齢層別に罪名を見ると,どの年齢層においても,総検挙人員中,窃盗の占める比率が最も高い。高齢者については,窃盗が65.0%と一般刑法犯検挙人員の3分の2近くを占めており,次いで,横領(その99.3%は遺失物等横領である。)が22.0%,暴行が3.7%,傷害が2.3%と続く。
 特に,女子の高齢者においては,窃盗が88.4%を占めており,その比率の高さが一段と目立っている。
 このように高齢犯罪者の多数を占める窃盗について,手口別に窃盗総数中の構成比を見ると,万引きが81.9%と圧倒的に高く,これを含む非侵入窃盗が94.5%にも及ぶ。万引きは女子比が高い犯罪であり(平成19年の万引きの検挙人員中の女子比は44.2%であり(1-1-1-7表参照),高齢者層では48.4%に及ぶ。),これが高齢犯罪者の女子比を高めている主たる要因である。万引きと遺失物等横領のみで,高齢者の一般刑法犯検挙人員総数中の75.0%に及んでおり,これらのことから,高齢者の犯罪は,数の上では,比較的軽微な財産犯が主であることが分かる。
 高齢者の罪名別検挙人員及びその各検挙人員に占める高齢者比の推移(最近20年間)は,7-2-1-5図のとおりである。

7-2-1-5図 高齢者の罪名別検挙人員・高齢者比の推移

 高齢者の検挙人員は,主要罪名のほとんどについて増加しており,その各検挙人員に占める高齢者比も上昇している。
 高齢者の一般刑法犯検挙人員の多くを占める罪名は,窃盗と遺失物等横領であったが,昭和63年から平成19年までの高齢者の一般刑法犯検挙人員の推移を見るに,総数で3万8,717人増加し,そのうち,窃盗の増加分が2万4,088人(62.2%),遺失物等横領の増加分が9,347人(24.1%)であり,この二つの罪名で全体の増加分の86.4%を占める。さらに,窃盗の増加分の多くは,万引きの増加分である。
 しかしながら,高齢者による犯罪の増加は,こうした軽微な財産犯のみに止まらない。殺人,強盗等の重大事犯,傷害,暴行,脅迫等の粗暴犯,詐欺等の財産犯,さらに,強制わいせつ等の性犯罪においても,検挙人員及び高齢者比のいずれもが増加・上昇している。特に,殺人については,高齢者比が,窃盗や遺失物等横領に次ぐ高水準にあることが注目される。また,粗暴犯の増加傾向も顕著であり,傷害については,高齢者比が昭和63年には0.5%だったところ,平成19年には4.4%(20年間で3.9ポイント上昇)に,暴行については,高齢者比が昭和63年には0.8%だったところ,平成19年には8.4%(同7.6ポイント上昇)に,いずれも目立って上昇している。
 罪名別検挙人員の高齢人口比の推移(最近20年間)は,7-2-1-6図のとおりである。このうち,殺人,傷害,暴行及び窃盗の4罪名について,年齢層別検挙人員の推移(最近20年間)は,7-2-1-7図のとおりであり,年齢層別検挙人員の人口比の推移(最近20年間)は,7-2-1-8図のとおりである。

7-2-1-6図 罪名別検挙人員の高齢人口比の推移

7-2-1-7図 罪名別・年齢層別検挙人員の推移

7-2-1-8図 罪名別・年齢層別検挙人員の人口比の推移

 検挙人員の人口比においても,各罪名で顕著な伸びが認められ,高齢者人口の伸び以上に高齢者の犯罪が増加していることが見て取れる。
 7-2-1-6図の[2]を見ると,殺人の検挙人員の高齢人口比は,昭和63年に0.32であったところ,平成16年には0.66と約2.1倍まで上昇した。その後,低下傾向が見られるものの,19年は0.45であり,昭和63年と比べて約1.4倍となっている。また,強盗の検挙人員の高齢人口比を見ても,63年に0.06であったところ,平成19年には0.40と7倍近くまで上昇している。このように,暗数が少ない殺人や強盗においても,検挙人員の高齢人口比に上昇傾向が見られることから,高齢者の犯罪が全般的に増加していることが強くうかがえる。
 7-2-1-7図及び7-2-1-8図を見ると,殺人の検挙人員及びその人口比は,50歳未満の成人の各年齢層では,昭和63年から平成19年までの20年間で,いずれも多少の増減はあってもおおむね横ばいないし減少・低下傾向が見られるのに対し,65歳以上の高齢者層と50〜64歳の高齢者予備軍の層では,この間にいずれも増加・上昇している。
 傷害の検挙人員及びその人口比についても,高齢者層及び高齢者予備軍の層の増加・上昇傾向が著しい。昭和63年における高齢者層の検挙人員が148人,高齢人口比が1.1,50〜64歳の層の検挙人員が1,773人,その人口比が8.1であったのに対し,平成19年における高齢者層の検挙人員は1,124人(20年間で976人(659.5%)増),高齢人口比は4.1(同3.0ポイント,約3.8倍に上昇),50〜64歳の層の検挙人員は4,001人(同2,228人(125.7%)増),その人口比は14.8(同6.8ポイント,約1.8倍に上昇)と著しく増加・上昇している。
 暴行の検挙人員及びその人口比については,近年,20歳未満の層は減少・低下傾向にあるが,他の年齢層では,増加・上昇傾向が著しく,特に,高齢になるほど増加率・上昇率が高い傾向が見られる。昭和63年における高齢者層の検挙人員が90人,高齢人口比が0.65,50〜64歳の層の検挙人員が958人,その人口比が4.4であったのに対し,平成19年における高齢者層の検挙人員は1,822人(20年間で1,732人(1,924.4%)増),高齢人口比は6.6(同6.0ポイント,約10.2倍に上昇),50〜64歳の層の検挙人員は5,213人(同4,255人(444.2%)増),その人口比は19.3(同15.0ポイント,約4.4倍に上昇)といずれも大幅に増加・上昇している。
 窃盗については,20歳未満の層の検挙人員が,数の上では圧倒的に多いものの,昭和63年から平成19年までの20年間で大幅に減少しており,20〜29歳,30〜49歳の各層も,19年の検挙人員は,昭和63年の水準を下回っている。これに対し,50〜64歳及び高齢者の各層では,増加傾向が見られ,高齢者層では,それが特に著しい。昭和63年における高齢者層の検挙人員が7,485人,50〜64歳の層では2万4,291人であったのに対し,平成19年はそれぞれ3万1,573人(20年間で2万4,088人(321.8%)増),3万1,773人(同7,482人(30.8%)増),と著しく増加している。検挙人員の人口比で見ても,昭和63年における高齢者層では54.3,50〜64歳の層では110.6であったのに対し,平成19年はそれぞれ115.0(同60.7ポイント,約2.1倍に上昇),117.9(同7.2ポイント上昇)といずれも上昇し,8年以降は,50〜64歳の層が30〜49歳の層を追い抜き,17年以降は,高齢者層が30〜49歳の層を追い抜くという逆転現象が起こっているばかりか,上昇の著しい高齢者層は,19年には,50〜64歳の層とほとんど肩を並べるまでに至っている。