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 平成20年版 犯罪白書 第7編/第1章/3 

3 高齢犯罪者研究の必要性

 以上,見てきたように,わが国の社会の高齢化のスピードは,ここ20年のうちに,その人口が約2倍になるというペースであるにしても,それよりハイペースで高齢犯罪者の増加が見られている。高齢者人口が増えれば,高齢犯罪者が増えるのは当然であるにしても,その幅はイコールにはなっておらず,高齢犯罪者の増加の幅は,人口の増加の幅をはるかに上回っている現実がここにある。
 このような現実が好ましいものでないことは当然であり,それゆえ,そのような事態をもたらした原因がどこにあるのか,どのような対策を採ることでこの現実を解消し,豊かな老後を送れる高齢社会を実現することができるのかについて研究すべきは勿論である。
 まず,我々としては,手始めに高齢犯罪者の増加の真の原因がどこにあるのかを追及すべきであると考える。単に,人口増で説明がつかない以上,そこには,何らかの社会的な原因,世代的な原因,あるいは,それ以外の説明可能な原因があるはずである。その原因を徹底的に解明できるようにするために,様々な調査を実施し,そして,そこで得られたデータを様々な角度から分析することで,その原因の解明に迫るべきであろう。これが高齢犯罪者についての研究の第一歩である。原因の徹底的な解明なくして,有効な対策を立てることなどできるはずもないからである。
 その上で,対策を立てるにしても,真に,高齢犯罪者対策のニーズに答えられるような対策でなければ,画餅に帰することとなろう。考えられ得る対策が単一のものしかないということは,必ずしも一般的ではないであろうから,どのような選択肢を採用したらよいのか,また,その際のメリット,デメリットはどのようなものになるのかなども十分に検討しておく必要があろう。
 そのような一連の作業を行うことで,新たな高齢犯罪者の出現を防止するとともに,犯罪を繰り返して高齢となった者を改善更生させることにより,それら高齢者にも,豊かな社会の実現のための担い手になってもらうことができるはずである。高齢犯罪者についての研究は,このような健全な高齢社会の実現のために必要不可欠な社会科学的作業と評することができるものであると考えている。