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 平成20年版 犯罪白書 第6編/第1節 

第6編 司法制度改革の推進

第1節 総論

 現在,刑事司法制度は,重要な転換期を迎えており,本編においては,こうした近年の刑事司法制度の改革の全体像を概観するとともに,平成21年5月21日から開始される裁判員制度等の概要について紹介する。
 近年における刑事司法制度の改革へ向けた新たな取組の概要は,6-1-1図のとおりである(CD-ROM資料6-1参照)。
 平成11年7月に内閣に設置された司法制度改革審議会は,2年近くに及び議論を重ねた後の13年6月,司法制度改革審議会意見を取りまとめ,その中で,21世紀の日本を支える司法制度の姿を示すべく,[1]「国民の期待に応える司法制度」とするための改革,[2]「司法制度を支える法曹の在り方」の改革,[3]「国民的基盤の確立」のための国民が訴訟手続に参加する制度の導入の3点を司法制度改革の基本的方針として打ち立てた。そして,[1]の刑事司法制度の分野に関しては,刑事裁判の充実・迅速化,公的弁護制度の整備,公訴提起の在り方,新たな時代に対応し得る捜査・公判手続の在り方,犯罪者の改善更生及び被害者等の保護への配慮等について,改革に向けた様々な具体的な提言を行うとともに,[2]に関し,新たな司法制度を担う人的基盤の整備のため,法曹養成制度及び法曹(弁護士・検察官・裁判官)制度の改革を打ち出し,さらに,[3]については,国民の司法参加を促すための諸施策の中核として,裁判員制度の導入を提言した。同意見に基づいて推し進められている司法制度改革は,現在の我が国の司法が直面する最重要課題ともいうべきものであり,刑事司法の分野においても,着々と進展している。
 同意見の提言に基づき,平成16年5月には,刑事裁判の充実・迅速化,国選弁護人制度の整備,検察審査会の機能強化等を図るための諸施策の導入等を内容とする刑事訴訟法等の一部を改正する法律(以下「刑訴法等改正法」という。)が,同年6月には,あまねく全国において法による紛争の解決に必要な情報やサービスを受けられるようにするための総合的な支援体制の整備を内容とする総合法律支援法が,それぞれ成立・公布された。これまでに刑訴法等改正法の一部が施行され,公判前整理手続,即決裁判手続,被疑者勾留段階における国選弁護人制度等が導入されるとともに,総合法律支援法の施行により,日本司法支援センター(愛称「法テラス」)が設立されて業務を開始している。さらに,21年5月21日からは,裁判員法が全面施行され,国民の中から選任された裁判員が,裁判官と共に,刑事訴訟手続に主体的かつ実質的に関与する裁判員制度が開始され,併せて,被疑者勾留段階での国選弁護人制度が拡充され,一定の場合に検察審査会の議決に基づき公訴が提起される制度が導入される。
 こうした司法制度改革の流れと並行して,刑事政策に関連する諸領域において,犯罪情勢の変化に即した刑罰法規の改正,再犯防止に向けた矯正及び更生保護制度の充実強化,犯罪被害者等の権利保護や支援のための施策の拡充,少年法制の改正等といった様々な重要な改革が推し進められている。
 犯罪情勢の悪化を受けて,政府は,平成15年12月,犯罪対策閣僚会議において,今後5年間を目途に,国民の治安に対する不安感を解消し,犯罪の増勢に歯止めを掛け,治安の危機的状況を脱することを目標として,「犯罪に強い社会の実現のための行動計画─「世界一安全な国,日本」の復活を目指して─」を策定した。同行動計画は,「平穏な暮らしを脅かす身近な犯罪の抑止」,「社会全体で取り組む少年犯罪の抑止」,「国境を越える脅威への対応」,「組織犯罪等からの経済,社会の防護」及び「治安回復のための基盤整備」の五つの重点課題を設定し,それぞれについて具体的な施策を推進することとしている。
 犯罪に対する刑罰に関しては,犯罪情勢に即応した様々な新規立法が導入されているところであるが,刑法についても,いくつかの重大な改正がなされており,交通犯罪の罰則強化をはじめ,時代に即した刑罰法規の整備や法定刑等の見直しなどが図られ,犯罪情勢等に対応してより幅の広い科刑や処分を行うことが可能となった。
 また,平成17年7月からは,心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し,心神喪失者等医療観察法による手続が導入・実施され, 裁判所が入院・通院等の適切な処遇を決定し,同決定に基づき,手厚い専門的な医療を行ったり,地域において継続的な医療や援助を確保したりするための仕組みが設けられるなどした。
 犯罪者に対する処遇については,平成17年2月,法務省における再犯防止のための緊急的対策が発表され,これに基づき,矯正と更生保護の両分野において,警察との受刑者に係る出所情報・保護観察中の所在不明者情報の共有,性犯罪者に対する処遇プログラム等による効果的処遇の実施,刑務所出所者等総合的就労支援対策の促進等の諸施策が実施されている。
 成人矯正に関しては,平成15年12月の行刑改革会議の提言を受け,受刑者処遇法が,18年5月から施行され,受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることが受刑者処遇の基本理念であることが明らかにされるとともに,受刑者処遇の中核として矯正処遇の概念が導入され,「作業」,「改善指導」及び「教科指導」の3種類を中心とした矯正処遇を受けることが受刑者の法律上の義務と定められた。さらに,19年6月には,同法律を一部改正し,未決拘禁者等の処遇についても定めた刑事収容施設法が施行された。これによって,明治41年から刑務所等の実務の基本法であった監獄法(明治41年法律第28号)が廃止され,その全面改正が実現された。これらの法改正に基づき,受刑者等に対する処遇の充実・強化のための取組が,従前よりも更に強力に推進されつつある。
 また,更生保護に関しては,平成18年6月,更生保護のあり方を考える有識者会議が法務大臣に提出した「更生保護制度改革の提言」により,更生保護制度全般に関する改革の方向が示され,これに沿って,19年6月,犯罪者予防更生法と執行猶予者保護観察法を整理・統合した更生保護法が成立した。このうち,被害者等に関連する施策は,同年12月から先行実施され,加害者の仮釈放等審理において被害者等が意見等を述べることができる制度(意見等聴取制度)と保護観察中の加害者に対して被害者等が心情等を伝達することができる制度(心情等伝達制度)がそれぞれ開始された。そして,20年6月から同法が全面施行され,これにより,保護観察を充実・強化するための遵守事項の整理及び充実,社会復帰のための生活環境の調整の充実,特別遵守事項に基づく性犯罪者処遇プログラム等の受講の義務化等が図られることとなった。
 犯罪被害者等のための施策に関しては,犯罪被害者等の権利利益を保護し,その支援を図るべきであるとの声が高まり,これが刑事政策上の最重要課題の一つであるとの共通認識が広まる中,平成8年には,警察庁が,被害者対策要綱を制定し,11年には,検察庁において,被害者等通知制度が導入され,12年には,いわゆる犯罪被害者等保護二法刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律(平成12年法律第74号),犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(平成12年法律第75号))が公布され,刑事手続における被害者等の保護のための諸施策の導入が図られ,13年には,犯罪被害者等給付金支給法の一部を改正する法律(平成13年法律第30号)により,犯罪被害者等給付金制度の拡充等が図られるなど,被害者等支援のための取組が積み重ねられてきた。さらに,総合的な取組を求める犯罪被害者等の声に応えるべく,17年4月施行の犯罪被害者等基本法(平成16年法律第161号)に基づき,同年12月に犯罪被害者等基本計画が策定され,同計画では,犯罪被害者等の権利利益の保護が図られる社会を実現させるため,四つの基本方針,五つの重点課題の下,258の具体的施策と関係機関が相互に連携・協力して各施策に取り組んでいくための体制等について定められ,刑事司法の各分野でも,これに沿った犯罪被害者等のための施策・取組が次々に導入・実施されている。犯罪被害者等のための最近の重要な施策としては,18年12月施行の組織的犯罪処罰法の一部を改正する法律及び犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律に基づき,一定の場合に犯罪被害財産の没収・追徴を可能とし,これを用いて被害者等に被害回復給付金を支払う被害回復給付金支給制度,20年6月施行の犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律に基づき,振り込め詐欺等の犯罪に利用された預貯金口座に対する口座名義

6-1-1図 刑事司法制度の改革の概要

人が有する権利を消滅させ,被害者等に被害回復分配金を支払う被害回復分配金支払制度などがあり,さらに,未施行であるが,犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律により創設された,犯罪被害者等が刑事裁判に参加する制度及び犯罪被害者による損害賠償請求について刑事手続の成果を利用する制度(平成20年12月1日施行)等が挙げられる。
 少年法制に関しても,少年非行の現状に適切に対処するための様々な制度が導入されている。平成13年4月施行の少年法等の一部を改正する法律では,[1]少年事件の処分等の在り方を見直すものとして,刑事処分可能年齢の引下げ,原則逆送制度,家庭裁判所による保護者に対する訓戒・指導等の措置が,[2]少年審判の事実認定手続の一層の適正化を図るものとして,裁定合議制度,検察官及び弁護士である付添人を関与させることができる制度,観護措置期間の延長,検察官からの抗告受理申立制度が,[3]被害者等への配慮の充実を図るものとして,被害者等による少年事件記録の閲覧謄写,被害者等からの意見聴取,審判結果等の被害者通知といった諸制度が導入された。また,19年11月施行の少年法等の一部を改正する法律では,[1]触法少年に係る事件の調査手続の整備,[2]少年院送致が可能な年齢の引下げ,[3]保護観察における指導を一層効果的にするための措置等の整備,[4]家庭裁判所が職権で弁護士である付添人を付することができる制度(国選付添人制度)が導入された。さらに,20年6月18日に公布された少年法の一部を改正する法律では,一定の重大事件の少年審判について,家庭裁判所が被害者等の傍聴を許すことができる制度等が導入された(一部の規定を除き公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行)。
 こうした近時の刑事司法制度の改革の現状に関しては,成人矯正については第2編第4章,更生保護については同編第5章,心神喪失者等医療観察法については第3編第4章第3節,少年法制については第4編第2章,犯罪被害者等のための施策については第5編第2章において,各詳述しているので,以下の各節では,裁判員制度,法テラスの活動及び国選弁護人制度の整備について紹介する。