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 平成20年版 犯罪白書 第2編/第5章/第2節/2 

2 保護観察対象者に対する処遇

 保護観察対象者の再犯防止及び改善更生を図るため,様々な施策が実施されている。
(1)特別遵守事項の設定・変更・取消し等
 犯罪者予防更生法及び執行猶予者保護観察法においては,特別遵守事項は保護観察開始時に必ず定めなければならないものとされ,一度定めた特別遵守事項は,その後の保護観察期間を通じて付加,変更又は取消しができないものとされていたが,更生保護法においては,遵守事項の内容を整理し,違反すれば仮釈放取消し等の不良措置につながる法的規範であることを明確にした上で,保護観察の開始に際して特別遵守事項の設定を必要的なものとせず,保護観察の途中でも特別遵守事項を設定,変更することができ,その必要性がなくなった特別遵守事項は取り消すものとされた。これにより,保護観察対象者の問題性や改善更生の状況に応じたより弾力的な保護観察処遇が可能となった。
(2)専門的処遇プログラムの実施
 平成18年度から,類型別処遇制度(本項(5)参照)の「性犯罪等」類型に認定された仮釈放者及び保護観察付執行猶予者に対し,特別遵守事項として性犯罪者処遇プログラムの受講を義務付けていたところ,更生保護法は,法務大臣が定めた専門的処遇プログラムを受けることを特別遵守事項の類型の一つとして定め,これに違反した場合には,執行猶予取消し,仮釈放取消し等の不良措置につながることがあることを明確にした。この専門的処遇プログラムとしては,性犯罪者処遇プログラムのほか,覚せい剤事犯者処遇プログラム,暴力防止プログラムが定められている。
(3)分類処遇制度
 分類処遇制度は,一定の基準に基づき,保護観察対象者を処遇の困難性に応じてA・Bに分類するもので,昭和46年に導入された。仮釈放の基準(本章第1節参照)を満たし,仮釈放が許可された者等であっても,なお資質,環境等に問題が多く,処遇が困難と予測されるA分類の保護観察対象者に対しては,保護観察官が専門的な立場から処遇への直接的な関与を高め,重点的に対応している。
 平成19年12月31日現在,A分類率(保護観察対象者全員に占める処遇困難と予測された者の比率をいう。)は,仮釈放者が16.3%,保護観察付執行猶予者が9.7%であった(法務省保護局の資料による。)。
 なお,平成20年6月1日以降に保護観察に付された保護観察対象者については,分類処遇に代えて段階別処遇による体系的な保護観察(本項(4)参照)が実施されることになった。
(4)段階別処遇による体系的な保護観察の実施
 段階別処遇とは,保護観察対象者について,犯罪又は非行に結び付くおそれのある行動をする可能性及びその改善更生に係る状態の変化を的確に把握し,これに基づいて,保護観察対象者を処遇の難易により区分した各処遇段階に編入するとともに,各処遇段階に求められる処遇の強度に応じて,適正かつ効率的な処遇活動を行うほか,処遇の実施状況に即して,処遇段階の変更,不良措置,良好措置等の措置が的確に執られるようにすることにより,体系的な保護観察処遇を実施するものである。
(5)類型別処遇制度
 類型別処遇制度は,犯罪・非行の態様,特徴的な問題性等により保護観察対象者を類型化した上で,その特性に焦点を合わせた効率的な処遇を実施するもので,平成2年に導入され,15年の類型項目の改正等を経て現在に至っている。
 平成19年12月31日現在,仮釈放者及び保護観察付執行猶予者の主要な類型の認定状況は,2-5-2-6表のとおりである。

2-5-2-6表 保護観察対象者の類型認定状況

 各類型の保護観察対象者に対しては,処遇要領に基づき個別処遇が実施されているほか,一部の保護観察所では,保護観察対象者に対する集団処遇や保護者・引受人を対象とする講習会が実施されている。平成19年度には,「覚せい剤事犯」類型保護観察対象者の引受人会(引受人に対する講習会)が,17庁において延べ31回実施され,延べ569人の引受人が参加した(法務省保護局の資料による。)。
(6)中間処遇制度
 長期間にわたって刑事施設に収容されていた無期刑及び長期刑(執行すべき刑期が8年以上)の仮釈放者については,円滑な社会生活への移行を図るため,仮釈放当初の1月間,更生保護施設に居住させて生活訓練等を計画的に実施する中間処遇制度があり,平成19年には,92人に対して実施された(法務省保護局の資料による。)。
(7)重点的に保護観察を行うべき者に対する効果的な処遇の実施
 平成19年度から,長期刑仮釈放者等重点的に保護観察を実施すべき者のうち,生活状態又は精神状態が著しく不安定になっているものなど処遇に特段の配慮を要するものについて,保護観察官が直接的関与を強めて指導監督・補導援護を実施することにより,その再犯防止を図っている。また,同年度からは,仮釈放者及び保護観察付執行猶予者のうち,暴力的性向があり,処遇上特に注意を要するものについても,保護観察官の関与を強化した綿密かつ専門的な処遇を実施している。
(8)所在不明中の保護観察対象者に対する対応の強化
 所在不明となった仮釈放者及び保護観察付執行猶予者については,保護観察所の長から対応する管轄警察本部長に協力を依頼し,警察から当該所在不明者に関する情報の提供を受けることにより,迅速な所在発見に努める体制が,平成18年度から本格的に採られている。
 その結果,試行期間である平成17年12月から本施行後の20年3月31日までの間に,1,083人(仮釈放者586人,保護観察付執行猶予者497人)の所在が判明した(法務省保護局の資料による。)。なお,所在が判明した仮釈放者等については,遵守事項違反の程度,生活状況等を勘案し,仮釈放の取消し等の措置が執られる。
(9)刑務所出所者等総合的就労支援対策等の推進
 法務省は,厚生労働省と連携し,身元保証システム,セミナー・事業所見学会,職場体験講習,トライアル雇用事業等の保護観察対象者等に対する就労支援策を推進している。
 平成19年度中に実施された就労支援の実施状況は,身元保証システム1,615件,セミナー・事業所見学会113回,職場体験講習10件,トライアル雇用197件であった。また,就労支援による就職者数は,18年度1,438人,19年度2,043人であった(法務省保護局の資料による。)。
(10)被害者等の心情等伝達制度及びしょく罪指導プログラムの実施
 心情等伝達制度とは,被害者等が,保護観察所を通じ,被害に関する心情,保護観察対象者の生活等に関する意見等を保護観察対象者に伝えることができる制度であり,被害者等の希望にできる限り配慮するとともに,保護観察対象者に被害者等の心情等を具体的に認識させることにより,自らの犯罪又は非行による被害の実情等を直視させて,その反省及び悔悟の情を深めさせることを目的としている。
 しょく罪指導プログラムとは,被害者のある重大な犯罪を犯した保護観察対象者に対し,所定の課題を実行させることにより,犯した罪の重さを認識させ,悔悟の情を深めさせることを通じ,再び罪を犯さない決意を固めさせるとともに,被害者等に対し,その意向に配慮しながら誠実に対応するよう促すことを目的として実施するものである。
(11)自立更生促進センター構想の推進
 受刑者のうち,親族等の引受人がなく,かつ,民間の更生保護施設では受入困難な者を仮釈放して宿泊させ,保護観察官による濃密な処遇と充実した就労支援を行い,その改善更生と自立を促進する「自立更生促進センター」を整備する準備が進められている。また,少年院仮退院者等を宿泊させながら,農業実習と農業への就業支援を行う沼田町就業支援センターが,平成19年10月から運営を開始している。