前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 平成19年版 犯罪白書 第7編/第5章/第5節/5 

5 米国

(1)「三振法」による重罰化
 殺人,放火,強姦等の重大な暴力的犯罪を繰り返す者に対する重罰化政策として,いわゆる「三振法」(“three-strikes-and-you're-out laws")を導入している州が多い。「三振」の条件(犯罪の種類・回数)や効果(処分の内容)は州により異なるが,重大な暴力的犯罪を繰り返す者を対象として長期間の拘禁を可能とする点において共通している。

(2)処遇プログラム等
 ア 性犯罪者処遇プログラム等
 施設内及び社会内処遇を通じて,認知行動療法(Cognitive-Behavioral Treatment)を活用した再発防止モデル(relapse prevention model)に基づく処遇プログラムが広く用いられている。これと併せて,刑事司法機関と医療,心理,保健関係の組織との連携の下,グループ・セラピーや家族を含めての治療等が行われている。
 イ 薬物乱用者対策
 全米各州において,ドラッグコートが運営されている。ドラッグコートとは,薬物関連犯罪を犯した薬物乱用者に対し,通常の刑事司法手続ではなく,薬物依存症から回復させるための治療的な手続にのせて,一定の治療プログラム期間中,裁判官が監督するという特別の裁判所であり,1989年にフロリダ州で開始され,その後全米に拡大した。
 その他,連邦及び各州とも,矯正施設内における包括的な薬物乱用者処遇プログラムの拡充に努めている。

(3)民事的収容
 一部の州では,精神疾患等により性犯罪に及ぶ危険があると認められる者を,拘禁刑の終了後も,治療施設等に収容する民事的な手続を導入している。

(4)電子監視
 連邦及び各州レベルにおいて,保護観察対象者等に対し,電子機器を用いて所在を確認する電子監視システムを導入している。
 連邦レベルにおいては,1991年までに,全米で保護観察対象者,指導監督付釈放者,刑事被告人の電子監視が実施されるようになった。これと並行して,州及び地方政府においても電子監視を導入するようになり,現在では,大半の州が犯罪者に対する電子監視法を有している。電子監視システムには,電話や無線電波装置を使用するもの等があるが,近年では,GPS(global positioning system:人工衛星の発する電波によって,地球上の現在位置を正確に測定するシステム)による性犯罪者の所在追跡が導入され,2005年以降,一部の性犯罪者についてGPSによる終身監視を義務付けた州もある。

(5)性犯罪者情報登録・公表制度(「メーガン法」)
 性犯罪前歴者をデータベース化することによって,犯罪捜査に役立てるとともに,地域住民に情報を公開することで地域住民による社会防衛を促し再犯防止に役立てようとする制度である。1990年のワシントン州を皮切りに,2000年までには,米国全州において性犯罪者登録法が制定,施行されている。
 連邦レベルでは,1994年及び1996年の立法により,年少者に対する性的犯罪又は誘拐,暴力的な性犯罪で有罪判決を受けた者を対象として,州の指定された法執行機関への住所等情報の登録,及び地域住民への情報公開が義務付けられた。なお,連邦法は,各州が整備すべき制度の最低基準を示すもので,各州の実際の制度内容には差異がある。
 2006年7月には,全国の登録制度を強化し,州間を移動した性犯罪者等の登録義務違反を連邦法違反として処罰することとされた。