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 平成18年版 犯罪白書 第6編/第4章/第5節/5 

5 米国

(1) 性犯罪の概要

 米国では,50の州及び連邦法である合衆国法典(United States Code)の刑罰規定の適用法域等によって,性犯罪の種類,それに科せられる刑罰の内容等が異なっている。

(2) 性犯罪の動向

 統計上の概念である強姦(forcible rape)に該当する事件の認知件数(推計値)の推移(最近10年間)は,6-4-5-5図のとおりである。

6-4-5-5図 強姦の認知件数の推移(米国)

(3) 性犯罪対策

 性犯罪対策の内容は,法域により異なる。ここでは主なものを取り上げる。

ア 性犯罪者情報登録・公表制度

 1994年,ニュージャージー州において,当時7歳の被害者が子供に対する性犯罪の前科を持つ者によって強姦され殺害された事件の発生を機に,性犯罪者情報登録・公表制度が導入されたほか,1990年代に多くの州で,性犯罪者情報登録・公表制度が導入されるようになった。
 ジェイコブ・ウェタリング子供に対する犯罪及び性的暴力犯罪者登録法(Jacob Wetterling CrimesAgainst Children and Sexually Violent Offender Registration Act)は,1994年に連邦法として制定された暴力犯罪の規制及び法執行法の一部であり,性犯罪者等に対し現住所等の情報登録を義務付ける制度の整備を各州に求め,その情報の公表を容認した。同法律は,1996年に連邦メーガン法(FederalMegan's Law)により改正され,登録情報の公表制度の整備を各州に求めた。その後,数回にわたり制定された連邦法により,危険度の高い性犯罪者の登録期間を終身とすること,各州の登録情報を連邦捜査局においてデータベース化し全国規模で利用可能とする全国性犯罪者登録制度(National SexOffender Registry)に参加することなどが各州に求められた。
 現在,性犯罪者情報登録・公表制度は,全米50州において導入されている。同制度については,連邦法によって,各州が整備すべき制度の最低基準(登録義務者,登録すべき情報,登録期間,登録義務違反に対する罰則措置,公表制度の整備等)が示されているが,各州の実際の制度内容には差異がある。
 なお,2006年7月,連邦法として制定されたアダム・ウォルシュ子供の保護及び安全法(Adam Walsh Child Protection and Safety Act of 2006)(以下「アダム・ウォルシュ法」という。)は,全国性犯罪者登録制度を強化する規定,州を越えて移動した性犯罪者等の登録義務違反を連邦法違反として処罰する規定等を設けた。

イ 性犯罪の刑の加重

 一部の州では,子供に対する性犯罪等について,刑の加重類型がある。
 アダム・ウォルシュ法は,合衆国法典の子供に対する性犯罪等の法定刑を引き上げる規定を設けた。

ウ 民事的収容(Civil Commitment)

 一部の州では,精神疾患等により性犯罪に及ぶ危険があると認められる者を,受刑後も,治療施設等に収容する民事的な手続を導入している。
 アダム・ウォルシュ法は,州の民事的収容制度に対し,連邦からの資金援助ができる規定を設けた。

エ 性犯罪者処遇プログラム

 多くの州では,刑務所等の施設内処遇,保護観察,仮釈放等において,性犯罪者の更生のため,認知行動療法等の性犯罪者処遇プログラムを実施している。

オ 電子監視(Electronic Monitoring)

 一部の州では,社会内処遇を受ける性犯罪者に対する電子監視制度を導入している。