3 英国
(1) 性犯罪の概要 2003年に成立した性犯罪法(Sexual Offences Act2003)は,被害者の同意を得ないで行う強姦(Rape),挿入による暴行(Assault by penetration),性的暴行(Sexual assault)等を性犯罪とする規定を設けている。このうち,2003年刑事司法法(Criminal Justice Act 2003)において重大犯罪(serious offence)とされているものもある。 また,2003年性犯罪法は,13歳未満の児童を対象とする性的行為についての規定を別に設けており,13歳未満の児童を対象とする強姦,挿入による暴行,性的暴行については,被害者の同意がなかったことを要件としていない。
(2) 性犯罪の動向 強姦(13歳未満の児童を対象とする強姦等を含む。)の認知件数の推移(最近10年間)は, 6-4-5-3図のとおりである。 6-4-5-3図 強姦の認知件数の推移(英国)
(3) 性犯罪対策
ア 最近の立法動向 性犯罪に関する最近の立法としては,1997年性犯罪者法(Sex Offenders Act 1997),1998年犯罪及び秩序違反法(Crime and Disorder Act 1998),2000年刑事司法及び裁判所業務法(Criminal Justice and Courts Services Act 2000),2003年刑事司法法があるほか,従来の性犯罪に関連する法令を整備・統合した前記2003年性犯罪法がある。
イ 性犯罪対策等の概要
(ア) 危険な性犯罪者に対する新たな処罰規定の新設 2003年刑事司法法上の重大犯罪とされる性犯罪を行った者のうち,再犯により一般社会に重大な危害を及ぼす危険があると判定されたものに対しては,社会防衛のための拘禁刑(imprisonment for public protection)又は終身拘禁刑が科せられる。いずれの場合にも,裁判所は,実際に服役しなくてはならない最低期間を定め,この期間経過後で,危険性が十分軽減したと認められる時まで仮釈放は認められない。
(イ) 性犯罪者の情報登録制度 性犯罪者の情報登録制度は,1997年性犯罪者法によって導入され,2003年性犯罪法によって強化された。一定の性犯罪者について警察への届出義務を定め,届出の不履行や虚偽の届出等に対しては,拘禁刑や罰金が科せられる。届出事項は,氏名,住所,出生日,国民保険番号等とされており,指紋採取・写真撮影が行われることもある。登録情報は原則として非公開である。 届出により登録された性犯罪者数は,2002年度が2万1,513人,2003年度が2万4,572人,2004年度が2万8,994人であった(英国内務省の資料による。)。
(ウ) 性犯罪者に対する命令 性犯罪者に対し一定の行為を命ずる命令は,1998年犯罪及び秩序違反法によって導入され,2003年性犯罪法によって,届出命令(Notification orders),性犯罪予防命令(Sexual offences preventionorders),外国旅行禁止命令(Foreign travel orders),性的危害禁止命令(Risk of sexual harmorders)の4種類の命令に拡充された。 これらの命令に違反した者には,拘禁刑や罰金が科せられる。 2004年度には,届出命令が22件,性犯罪予防命令が503件,外国旅行禁止命令が1件出されたが,性的危害禁止命令は出されなかった(英国内務省の統計による。)。
(エ) 多機関連携社会防衛協議会(Multi-Agency Public Protection Arrangements, MAPPA) 多機関連携社会防衛協議会は,一定の危険な犯罪者について,関係機関による情報の交換や定期的な会合の開催によって,社会防衛とリスク管理を行う。同協議会は,2000年刑事司法及び裁判所業務法によって導入され,2003年刑事司法法によって強化された。 その対象となるのは,性犯罪者情報登録制度によって登録された性犯罪者,危険性の高い一定の凶悪犯罪者等,警察等の機関が社会に対する危険性が高いと評価した者である。 対象者数は,2002年度が5万2,909人,2003年度が3万9,492人,2004年度が4万4,592人である。これらは,危険性の程度によって3段階に分けられ,最も危険性が高いと評価された対象者は,多機関連携社会防衛会議(Multi-Agency Public Protection Panel,MAPPP)に付託され,特に綿密な情報及び処遇の連携が行われる。付託された対象者数は,2002年度が2,843人,2003年度が2,152人,2004年度が1,478人であった(英国内務省の資料による。)。
(オ) 刑務所及び保護観察所における性犯罪者処遇プログラム 刑務所及び保護観察所においては,性犯罪者の再犯リスク等の評価を行い,それに応じた性犯罪者処遇プログラムを実施している。 処遇プログラムは,原則としてグループワークによって実施されている。刑務所と保護観察所の処遇の連携及び一貫性が重要とされ,再犯の減少を目指して,自己の行動に対する弁明や正当化の改善,性犯罪の原因となった認知のゆがみの修正,被害者に与えた影響を学ばせること,犯罪をしないような生活スタイルを身に付けさせることなどの取組がされている。
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