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 平成18年版 犯罪白書 第6編/第4章/第5節/2 

2 ドイツ

(1) 性犯罪の概要

 刑法は,「性的自己決定権に対する罪(Straftaten gegen die sexuelle Selbstbestimmung)」の一つとして,暴行,脅迫等により他人に性的行為を行うことを強要した者を処罰する「性的強要の罪(Sexuelle Notigung)」を設けている(法定刑は,1年以上の自由刑)。また,性的強要の罪の加重類型として,性交又は身体への侵入行為を伴う場合(強姦(Vergewaltigung)),複数犯による場合,凶器を携行・使用する場合及び被害者に重大な健康障害や死の危険を生じさせた場合等についての規定を設けており(法定刑は,2年ないし5年以上の自由刑),さらに,被害者を死亡させた場合の規定を設けている(法定刑は,無期又は10年以上の自由刑)。
 また,14歳未満の児童に対する性的行為をした者を処罰する規定を別に設けており(法定刑は,6月以上10年以下の自由刑),その加重類型として,行為者が過去5年以内に同じ犯罪により確定した有罪判決を受けている場合,18歳を超える者による性交又は身体への侵入行為を伴う場合,複数犯による場合,被害者に重大な健康障害や死の危険を生じさせた場合,ポルノグラフィーの対象にする目的で行った場合等についての規定(法定刑は,1年ないし5年以上の自由刑)及び被害者を死亡させた場合の規定(法定刑は,無期又は10年以上の自由刑)を設けている。
 その他の性的自己決定権に対する罪には,自己の地位を利用した性的陵辱,抵抗不能の者に対する性的陵辱等の罪がある。

(2) 性犯罪の動向

 性的強要及びその加重類型(強姦等)の認知件数の推移(最近10年間)は,6-4-5-2図のとおりである。いずれも,2001年から増加傾向にあり,2004年には最近10年間で最多を記録した。
 また,2004年における14歳未満の児童に対する性的行為の認知件数は,7,894件であり,その加重類型の認知件数は,3,040件であった(Polizeiliche Kriminalstatistikによる。)。

6-4-5-2図 性的強要の認知件数の推移(ドイツ)

(3) 性犯罪対策の概要

ア 将来の刑事手続に資するためのDNA鑑定

 1998年に,重大な犯罪の嫌疑がかけられている被疑者又は被告人について,将来重大な犯罪による刑事手続が行われる可能性があると認められる場合には,裁判所の命令等により,この者から体細胞を採取してDNA鑑定を行うことができることとなった。2004年には,性的自己決定権に対する罪の嫌疑がかけられている被疑者又は被告人については,嫌疑の対象が重大な犯罪ではなくてもDNA鑑定を行うことができることとなった。

イ 14歳未満の児童に対する性的行為の罪の法定刑の引上げ

 2003年には,14歳未満の児童に対する性的行為の罪の加重類型の一部である18歳を超える者による14歳未満の児童に対する性交又は身体への侵入行為を伴う性的行為の罪等の法定刑が,1年以上の自由刑から2年以上の自由刑に引き上げられるなどの法改正が行われた。

ウ 社会治療施設への性犯罪者の収容

 社会治療施設(Sozialtherapeutische Anstalt)は,自由刑執行の一形態としての社会治療処遇を行う独立の刑事施設又は刑事施設の一部である。2003年から,一定の性犯罪により2年以上の自由刑を言い渡された受刑者について,刑事施設の処遇調査の結果,社会治療施設における処遇を指示された場合には,その受刑者を社会治療施設に移送しなければならないこととなった。同施設への移送は,それ以外の犯罪により自由刑を言い渡された受刑者について行うことも可能であるが,その場合には,受刑者の同意を要する点が異なる。

エ 改善及び保安処分

 改善及び保安処分(MaBregeln der Besserung und Sicherung)は,行為者の犯罪に対する責任からは独立したものとして,行為者による将来の犯罪行為を防止するために行われる処分であり,刑罰とは異なる。保安監置等の自由剥奪を伴うものと,行状監督等の自由剥奪を伴わないものがある。

(ア) 保安監置(Unterbringung in der Sicherungsverwahrung)

 保安監置は,自由刑の執行終了後において更に重大な犯罪を行うおそれのある者について,その者から社会を防衛するため,刑の執行終了後も更にその者を拘禁する処分である。裁判所が,必要的に自由刑に併科して保安監置を命ずる場合と,裁量で刑に併科して命ずる場合とがある。前者は,故意の犯罪によって2年以上の自由刑の言渡しを受けた者が,一定の前科及び社会に対する危険性を有していることを要件としており,後者は,それぞれ1年以上の自由刑を科される3個の犯罪を行って3年以上の自由刑を言い渡された者が,社会に対する危険性を有していることを要件としている。1998年に,一定の性犯罪等については,裁判所が自由刑に併科して保安監置を命ずることのできる要件が緩和された。
 また,2002年には,留保的保安監置の制度(一定の性犯罪等による有罪判決の言渡しの際,行為者が社会にとって危険であるか否か確定できない場合,裁判所が,一定の期間,保安監置の命令を留保できる制度をいう。)が導入された。さらに,2004年には,事後的保安監置の制度(一定の性犯罪等による自由刑の執行が終了する前に,当該受刑者が社会にとって重大な危険性を有することが明らかになった場合,裁判所が,裁量で事後的に保安監置を命ずることができる制度をいう。)が導入された。

(イ) 行状監督(Fuhrungsaufsicht)

 行状監督は,自由刑の執行終了後において更に犯罪を行うおそれのある者等について,その犯罪を予防するため,一定の期間,保護観察官及び行状監督所による援助を行う一方で,行状監督所により生活を監督する処分である。故意の犯罪による2年以上の自由刑の執行が完全に執行された場合には,釈放後必ず行状監督が開始される。1998年には,一定の性犯罪による1年以上の自由刑が完全に執行された場合にも,釈放後必ず行状監督が開始されることとなった。また,同年,裁判所が裁量で自由刑に併科して行状監督を命ずる対象犯罪の範囲が拡大され,性的自己決定権に対する罪のほぼすべてがその対象となった。