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1 性犯罪者の実態 ここでは,実態調査の結果を基に,性犯罪者の特徴を分析する。
(1) 調査対象者 在所受刑者実態調査の調査対象者は,平成17年6月1日現在全国の刑事施設において在所受刑中の性犯罪受刑者1,568人(以下,本節において「在所受刑者」という。)である。また,保護観察実態調査の調査対象者は,16年7月1日から同年12月31日までに全国の保護観察所で新規に受理した性犯罪保護観察対象者(仮釈放者及び保護観察付き執行猶予者)330人(以下,本節において「保護観察対象者」という。)である。
調査対象者の罪名別・被害者年齢別構成比は,6-4-2-1図のとおりである。 6-4-2-1図 罪名別・被害者年齢別構成比 (2) 類型による分析 性犯罪者の実態を解明するため,性犯罪者類型を用いた分析を行い,類型ごとの特徴を見る。
性犯罪者類型の設定においては,まず,被害者に13歳未満の者を含む者と含まない者とに分け,次に,罪名に強姦(強盗強姦を含む。以下,本項において同じ。)を含む者と強制わいせつ(わいせつ目的拐取を含む。以下,本項において同じ。)のみの者とに分け,さらに,単独犯行のみの者と,共犯による犯行がある者とに分ける三段階の類型化を行った。 この類型化によって得られた8類型のうち,構成比の大きい上位5類型を,性犯罪者の主要な五つのタイプとした。 [1] 単独強姦タイプ 被害者に13歳未満の者を含まず,罪名に強姦を含む単独犯行の者である。 単独強姦タイプの具体例―隣人による住居侵入・強姦事件 加害者は,自宅の隣で母親と二人暮らしをしている被害者を母親の不在中に強姦しようと考え,母親が留守の夜間に風呂場の窓から被害者方に侵入し,ナイフを突きつけて脅迫した上,強姦した。 [2] 集団強姦タイプ 被害者に13歳未満の者を含まず,罪名に強姦を含み,共犯による犯行がある者である。 集団強姦タイプの具体例―倉庫に連れ込んだ上での集団強姦事件 加害者は,知人4人と共謀し,路上を通行中の被害者に対し,「大阪から出て来たので,道が分からないので教えてくれないか。」などと言葉巧みにうそを言って,案内するよう執ように頼み込み,運転していた自動車に同乗させ,倉庫に連れ込んで集団で強姦した。 [3] わいせつタイプ 被害者に13歳未満の者を含まず,罪名が強制わいせつのみである単独犯行の者である。 わいせつタイプの具体例―路上での強制わいせつ事件 帰宅途中の被害者が友人と共に路上を歩いているのを認め,一人になればいたずらできると思って後を付け,友人と別れた被害者を追いかけ,付近の空き地の方向に逃げた被害者の背後から抱きついて草むらに押し倒し,わいせつ行為をした。 [4] 小児わいせつタイプ 被害者に13歳未満の者を含み,罪名が強制わいせつのみである単独犯行の者である。 小児わいせつタイプの具体例―小学校教師による強制わいせつ事件 小学校の教諭が,インターネットを通じて女性の裸体等を見るうち,小学生から高校生くらいの女性の裸体に強い興味を覚え,担任クラスの児童である被害者が算数教材室で着替えをしている最中,出入り口を施錠した上,わいせつ行為をした。 [5] 小児強姦タイプ 被害者に13歳未満の者を含み,罪名に強姦を含む単独犯行の者である。 小児強姦タイプの具体例―道案内を装った上での強姦事件 下校中の被害者を認め,犬の写真を示して,「この犬を探しているから道案内をしてほしい。」などと告げて自動車に乗せ,山林脇の農道で停車中の自動車内において,衣服を脱がせ,所携のカメラで写真撮影した上,強姦した。 ア 在所受刑者の類型による分析 在所受刑者の類型別構成比は,6-4-2-2図のとおりである。単独強姦タイプが半数以上を占め,次いで,集団強姦タイプ,わいせつタイプの順であった。
6-4-2-2図 在所受刑者の類型別構成比 在所受刑者の類型別の特徴は,6-4-2-3図のとおりである。小児わいせつタイプは,性犯罪前科のある者や知能の低い者の比率が高く,集団強姦タイプは,犯行時年齢30歳未満の者や初回入所者の比率が高いなどの特徴が見られる。 6-4-2-3図 在所受刑者の類型別の特徴 イ 保護観察対象者の類型による分析 保護観察対象者の類型別構成比は,6-4-2-4図のとおりである。
6-4-2-4図 保護観察対象者の類型別構成比 保護観察対象者につき,担当保護観察官において把握した生活上の問題点を類型別に見ると,6-4-2-5図のとおりである。仮釈放者の小児わいせつタイプにおいて,内気で自信に乏しく,ストレスをためやすいなどの特徴が見られる。 6-4-2-5図 保護観察対象者の類型別の生活上の問題点 (3) 年少者の生命を侵害した事件 近年,年少者を対象とした重大性犯罪事件が相次ぎ,社会に衝撃を与えた。そこで,在所受刑者のうち,13歳未満の者を被害者とし,罪名に強姦致死を含む事件で受刑中の者全員の9人について分析を行った。
前記9人のうち,1人は,二つの事件を起こして被害者が合計で2人おり,他の8人は,それぞれ起こした事件は一つで被害者は1人であった。 ア 量刑等について 無期懲役7人,有期懲役2人(懲役20年及び18年)であった。また,判決において,心神耗弱と認定され,刑を減軽された者が3人いた。
イ 非行歴,病歴等について 性犯罪の非行歴では,中学校在学時に強制わいせつ,強姦致傷等により少年院送致になった者が1人,中学校卒業後,強姦により保護観察処分になった者が1人であった。
その他の非行歴では,小学校在学時から盗癖が出ている者が2人,中学校在学時から暴力団員と交遊していた者が1人であった。 病歴等では,精神病及びアルコール依存症1人,知的障害又はその疑い3人,アルコール依存症1人であった。 ウ 犯行時年齢 犯行時年齢は,10代及び20代の者が1人(二つの事件を起こした者),20代の者が3人,30代の者が3人,40代の者が1人,50代の者が1人であった。
エ 犯行時の職業 無職が1人で,有職が8人であり,その内訳は,会社員等3人,自動車運転手1人,土木作業員2人,左官1人,板前1人であった。
オ 被害者 被害者は,女子10人であった。年齢は,7歳が2人,8歳が3人,9歳が2人,10歳が1人,11歳が2人であった。
被害者との面識の有無では,面識なしが8人であり,面識ありが2人で,姉の子が1人,近所の顔見知りが1人であった。 カ 犯行場所 最初に被害者と接触した場所は,路上が6件,その他屋外2件,被害者宅が1件,加害者宅が1件であった。被害者と面識がなかった場合では,すべて屋外で接触が行われていた。殺害行為が行われた場所は,加害者宅が3件,山中が3件,その他屋外が2件,その他屋内が2件であった。
キ 手口 最初の被害者への接触時に,道案内を依頼するなど声を掛けたものが5件,いきなり身体接触に及んだものが5件であった。殺害の手口については,両手で頸部を絞めるなどの素手によるものが8件であった。
ク 殺害動機 被害者を殺害した動機は,犯行を遂行するため及び犯行の発覚を防止するための両方があったものが5件,犯行の発覚を防止するためのみであったものが5件であった。被害者の死体を遺棄したものは4件あった。
ケ まとめ 資質的な面では,精神病,アルコール依存症,知的障害等の者が5人いる反面,それらに該当しない者も4人とほぼ半数近くいた。
性犯罪の初発年齢が,比較的早い者もいる反面,以前に,性犯罪の前科等がなかった者もいた。性犯罪ではなく,早い時期に窃盗等の非行に及んでいる者もいた。しかし,非行等がない者でも,アルコール依存等の問題は有していた。 また,被害者との面識の有無については,面識のない者が多いが,被害者が近親者という事例も1件あった。 多くの場合,被害者がたまたま路上等を一人で歩いているときなどをねらい,被害者の抵抗などをきっかけとして,自分の犯行が発覚しないようにという自己中心的な理由から,極めて安易に幼い命を奪っていた。これらの事例から,子供を標的にする性犯罪者の中に,資質面の問題性が大きく,犯行時の状況次第で重大な事件を犯す者が少数ではあるが,存在していることがうかがわれた。 |